↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
79/289

78、廃墟ホテルの主①

 『廃墟ホテルの主』なんて、これっぽっちも恐くない。恐いのは、標的を私でない弱者にする事だ。今回は私の目の前で鈴ちゃんを襲ったから、秒で反撃してやって難(なん)を逃れることが出来たが、次は私の目の届かない所で襲撃するかも知れないのだ。鈴ちゃんや学校の生徒たち、そしてもちろん私の家族も含めて。それなら相手の一番優利なホームに乗り込んでやって、今日中に片づけた方がいい。

 たぶん廃墟ホテルの連中をあせらせた原因は、業苦の炎だろう。私と戦って敗北した喧嘩自慢の強者(つわもの)たちが、復讐心が完全に消え、心が折れるまで終わることの無い制裁だ。だから私は同じ相手に襲われることがない。白龍が私を守るために行う業苦の炎は、完璧な防御システムだった。そして悪党になればなるほど、その苦しみは凄まじくなり、その苦しみから解放されるために、私に対する敵意を捨てるだけではなく、過去の悪行を悔い改め、自白することも求められた。キリスト教の懺悔と同じだ。廃墟ホテルのメンバーほどの悪党ならば、懺悔することは盛りだくさんだ。彼らは激痛を消し去りたい一心でこれまでの、犯罪行為を告白する。その結果、それを聞いた家族の者、友人達、激痛の余り救急車で運ばれた先の医療関係者から警察に通報され、何人かが逮捕されている。オレオレ詐欺のように、ピラミッド型で構成されている組織の下(した)っ端(ぱ)が捕まったところで、上層部に関する情報を知らないから、今のところ幹部連中は無傷で済んでいるが、これから何が起こるか分からない。自分達をおびやかす可能性の高い私を、一刻も早く潰すことに決定したのだろう。

 『廃墟ホテルの主』のメンバーらを、警察では一岡(いちおか)グループと呼んでマークしている。一岡玲(いちおかあきら)というリーダーの名前からそう呼んでいるらしい。三大暴走族の相談役らから聞いた話だ。一岡の喧嘩の強さは人間離れしているらしく、たった一人で暴走族百人に勝ったとか、元・プロレスラーの用心棒三人を相手に、病院送りにするまで痛めつけたとか、その手の伝説が山盛りの人物だ。

 その腕っぷしの強さで次々と不良グループを吸収して、三百人余りの不良集団を作り上げたが、まだ人数が多いだけの路上でインネンをふっかけて、恐喝するぐらいのチンケな集団だったらしい。その中で日系ブラジル人の不良グループを配下に入れたあたりから、半グレと呼ばれる犯罪集団へと変貌していった。

 日系ブラジル人のリーダーで、パウロ・ロベルト・シマクラという人物が一岡グループに吸収されると、オレオレ詐欺やドラッグなど高額な報酬が見込める犯罪行為を、一岡に伝授した。その功績で、今やパウロはナンバー2の参謀役金庫番として、高級車も数台所有して派手に暮らしている。

 そんなことを一時間ぐらい考えながら車窓を眺めていると、海が見えてきた。運転をしている和柄シャツと助手席にいるサングラスの男が、恐る恐るバックミラーで時折私をうかがっているが相手にせず、海岸線を走る車から、ジェットスキーが海面を気持ち良さそうに走っているのを眺めた。平日だから数台しか姿を見かけないが、週末になると十数台が騒がしく海面を飛び跳ねる。

 廃墟ホテルはもうすぐだ。車は舗装された山道を登りはじめる。片側一車線のこの舗道を走行しているのは、半グレの四台の車のみで静かなものだった。頂上付近まで登れば、海を見渡せる絶景が売り物として建てられた廃墟ホテルがあるのだ。地上七階、地下二階の巨大ホテル。遠くから見ると白く美しいリゾートホテルにしか見えないが、近づいていくと窓ガラスは割られ、壁にはスプレーで落書きされている。ホテル内への侵入を防ぐため、自治体が周囲をフェンスで覆い、正面玄関側のドアは、全てベニヤ板で打ち付けられている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。