36、コンビニ駐車場
翌日の学校には、ほとんどの不良軍団は登校してきた。私と鈴ちゃんが登校中に出くわした不良達は、私と目を合わせないよう下を向き、青ざめた顔で小走りに去っていくか、立ち止まって私が去っていくのを息を潜めて待っていた。それを反映して、背後の鬼オーラも縮こまっていた。中庭でのバトルで一年は腹部を殴り、二年は太股を蹴り飛ばし、三年は顔面を打ち抜いたが、腹部や太股のアザは制服で隠せるが、顔面はそうはいかないので、三年の不良たちは皆顔のアザを晒して一層みじめだった。 教室に入ると猿川の右頰に紫色のアザ、二発殴った蝉村にいたっては両方の目が腫れて細くなっている。この二人は休み時間は教室から離れたりして、私と顔を合わせない努力を続けていたので、今日一度も視線は合わなかった。向こうからケンカを売ってこない限り、こちらからケンカをする気はないのだから、当然何のトラブルもなく平和な学校生活を終えた。
私に恐れをなして、すっかりおとなしくなった蝉村らの姿に、より安心した鈴ちゃんは自宅の部屋での茶飲み話でも、とても陽気だった。鈴ちゃんのように優しい良い子は、本来こんな穏やかな学校生活を送るべきなのだ。鈴ちゃん家を辞すると、途中でコンビニに寄った。店内に入らず、外で男子生徒七人が立ち話をして盛り上がっている。高校生五人、残り二人がうちの中学の三年生だ。顔にアザがあるので分かった。私に気づくなり、青ざめて下を向く。その変化を高校生らが訝しんでいる。私は気にせずコンビニに入るとお目当てのスイーツをゲットして、学生鞄にそれをしまった。御機嫌に店を出た私に、
「おい、そこのお前、ちょっと来い!」
と呼び止める無粋なヤツがいる。先の男子高校生の一人だ。車が停車していない広々としたところに移動していて、そこから声をかけている。出向いてやると、男子高校生五人はこちらを睨みつけて、中三の二人は私の顔を見る事も出来ず、下を向いている。
「お前ら、こんな弱っちい女にやられたのか、情けねえなあ」
中三コンビを高校生らが叱りとばしている。水色の海軍型学生服と「Ⅰ」の襟章から、県内最強と恐れられている私立帝徳工業高校の一年生らしい。不良男子の巣窟に身を置くだけあって、五人とも人相が悪かった。
「お前ら来年うちの高校に入る気だろ? 女なんかに舐められている根性無しが生きていける高校じゃねえぞ、しっかりしろよ、ほれ、見ててやるからお前ら二人で仕返しして来い」
五人がけしかけるが、中三コンビは青ざめたまま返事もしない。
「何してんだ、早く行ってこい!」
怒鳴られても、目をつむって動こうとしない。
「中学生にけしかけるんじゃなくて、お前ら五人がかかって来いよ」と私。
「はあ?! お前、誰に向かって口利いてんだ!」
「俺たちゃあ帝徳工業のもんだぞ!」
凶暴な面構えで五人が矢継ぎ早に罵り出す。背後の鬼は人間と同化して消え、頭からオーラの角を生やしている。私は慌てず、ゆっくりと学生鞄をコンビニの外壁に立てかけると、自由になった両手でファイティングポーズをとりながら、
「さあ、かかっておいで♡」
と挑発した。
「ふざけんじゃねえぞ、女あ〜!」
殴りかかってくる五人の不良男子高校生を、手首や肘などの関節を極めながら、ひっくり返して地面に叩きつけたり、腹這いにして抑え込んだりした。流れるように円く捌いていく。この優美な動きの正体は合気道であり、『四方投げ』『入身投げ』『小手返し』『隅落とし』『回転投げ』と呼ばれる技を、それぞれ掛けたのだ。力の差を見せつけるために倒しただけなので、ケガをしていない五人はすぐに立ち上がる。歴然とした力の差を知り、無益な戦いを回避しようとする賢者なのか、力の差が分からずまだ戦おうとするアホなのか、どちらか選ばしてやろうと思ったが、結果アホだった。五人とも、
「てめえ、ぶっ殺してやる!」
と飛びかかってきたからだ。……アホなら仕方がない。痛い目に遭ってもらおう。やはりアホには打撃系に限る。掌底打ちのストレート、フックを使って顎先を打ち抜いた。一人一発で充分だった。五人とも数秒間は立っていたが、やがてふらつきはじめて地面に崩れ落ち、失神した。残りの中三らにも声をかける。
「お前らもかかってくるか?」
ファイティングポーズをとったが、二人とも下を向いたまま、顔を横に振り続ける。
「あっそ、じゃあ、そこのアホ高校生五人組、介抱ヨロシクね」
学生鞄を拾い上げると帰宅する私。その晩、当然ながらこの五人組は、夢の中で業苦の炎のお灸を据えられた訳だが、以前と同じ説明を繰り返すだけなので、省略させてもらう。




