32、底を抜く
帰り際に言った私の言葉を、鈴ちゃんは不思議そうに聞いていたが、私自身は確信があった。昨夜見た業苦の炎はただの夢じゃない。夢という次元において本当に行われた制裁行為だ。だから今夜も中庭でバトルした不良軍団に対して、業苦の炎が行われると予想したが、ズバリ的中した。その夜、就寝した私は、見憶えのある夢の空間にいた。三百六十度、地平線が広がる大地。
昨夜、クラスの不良三人娘が業苦の炎で絶叫を上げ続け、私に対しての敵意、戦意をへし折られた場所。腕を組んで立っている私の十メートル程前方に、中庭でのバトルと同じ配置の不良軍団が立っていた。私に対峙する形で各学年が横一列、計三列で立っている。背後には鬼オーラがいて、私達の周辺を白龍がゆっくりと旋回している。登場人物か変わっただけで、それ以外は昨夜と全く同じ状況だ。
怯えながらも睨みつける者、野次を飛ばす者、色々タイプがいるが私に対する反抗心を捨てている者は一人もいなかった。藤堂や蝉村のように、殺意に近い感情をぶつけてくる者もいる。そろそろだろうな、と考えていると、ちょうどその事が起こった。背後に立っていた鬼オーラが炎に包まれ燃やされる。言葉を発せない鬼たちは立ったままのたうち回っている。普段は攻撃できない通常オーラだが、この夢の空間だと、やはり白龍は攻撃が可能なのだ。私がバトルした相手のみ、この空間に召喚出来るのだろう。人間本体は炎に包まれていないが、鬼オーラの凄惨な痛みと同じものを味わうため、絶叫を上げ立ったままのたうつ。業苦の炎が発動されたのだ。私に対する敵対心を捨てない限り、この地獄から抜け出せない。最後まで残った藤堂や蝉村も、昨夜の猫藤ユリ同様、鬼オーラが炎に包まれながら、のけ反り始め、ついに背骨をへし折られ、立ったまま頭頂部を大地に載せた時、絶叫し泡を吹き出したまま気絶した。こうして不良軍団全員が私に対する敵対心を捨てた。完全に降伏したのだ。敵の気力を根絶やしにし、心の底から負けたという気にすることを、剣豪、宮本武蔵は五輪書の中で【底を抜く】と表現した。業苦の炎は、敵が底を抜くまで終わる事のない制裁行為なのだ。




