29、不良軍団②
「来ないなら、こっちから行くよ」
と一気に近づき、木刀を避けながらやはり一人一秒の割合で、右か左のいずれかのストレートで相手の顔面を打ち抜くと、ノックアウトされた三年が芝生に沈んでいく。その中に猿川哲も入っている。仰向け、うつ伏せ、四つん這いと体勢は違えど、誰一人として意識はなく、立ち上がる事が出来ないでいる。六十人ほどの不良軍団も残り二人となった。
金属バットを握ったナンバー1の藤堂力也と、木刀を手にしているナンバー2の蝉村銀次だ。血走った眼で睨みつけながら蝉村が近づいてくる。今朝無様な敗北を晒して後がない。追いつめられているのだ。私は蝉村の額を見ると、つい笑った。
「蝉村、まだ跡が残ってるぞ」
自分の額を指差して、負け犬と書かれたマジックペンの跡が、完全に消えてないことを伝える。
「ぶっ殺してやる! 本当にぶっ殺してやる!!」
突進してきて狂ったように木刀を振り下ろす。それは言葉通り殺意のある攻撃だった。容赦は一切ない。体のどの部分に当たっても、骨が砕かれるだけの破壊力があった。その眼に理性はない。ケンカの勝ち負けが絶対の畜生が、目の前の獲物を襲っているのだ。が、遅すぎた。白龍の力に包まれている私の体感スピードでは余りに遅すぎ、スローモーションのようなこの攻撃が体に触れる事はあり得なかった。木刀を振り上げた瞬間に距離を詰め、左ストレートで顔面を打ち抜く。軽い脳震盪を起こし、ふらつきながらも蝉村はまだ木刀を振り下ろし続ける。再び木刀を振り上げた時、今度は右ストレートで顔面を打ち抜いた。両膝から崩れ落ち、木刀を握ったまま、両手はだらりと下がったままだ。頭は揺れながらも、まだ倒れまいと踏ん張っている。私はゆっくりと蝉村の目の前まで進むと、変則上段回し蹴り(ブラジリアンキック)を頭部に振り下ろし、数メートル吹っ飛ばした。横向きに倒れ、気絶した蝉村の目は白目をむいている。これでもかなり手を抜いているつもりだが、このスピードについてこれる人間は地上に存在しないだろう。
戦闘開始のゴングが鳴って三分と経ってないのに、六十人近い不良軍団が中庭の芝生に倒されている。普段教室を、廊下を、大声で練り歩き、王様のよう振る舞っている連中が、たった一人の女の子に手も足も出ず、恥ずかしい醜態を全校生徒に晒している。自分たち不良軍団に逆らった者が、どんな痛い目に遭うか見せつけるために始めた事が、完全に裏目に出ていた。不良が大声でよく喋る分、いじめられっ子は小声で口数が少ない。不良が大股で練り歩いている分、いじめられっ子は縮こまって自分の席から動かない。不良はいじめられている生徒の声、表情、動作を奪っているのだ。しかも暴言、暴力という犯罪行為で。大人が同世代の人間を毎日殴れば必ず犯罪者として捕まる。ところが中学生が同級生を毎日殴っても犯罪者として捕まらない。せいぜい注意されるぐらいで教室に居続ける。被害者生徒はその後も殴られ続けて、不登校、転校という形で泣き寝入りする。「同級生だから許してやれよ」と大人の世界なら笑止の理論を持ち出し、学校側は加害者生徒の肩を持つ。マヌケな教育関係者が創り上げた学校という環境。そこで羽根を伸ばす不良という毒虫。それを有害図書のヤンキーマンガが、【英雄】のように持ち上げるが、現実の不良の正体は【卑怯者の犯罪者】だ。私はその卑怯者の犯罪者どもをなぎ倒し、残った親玉と一対一のタイマンを張ることになった。




