12、鈴ちゃん、暴走す①
「ちっくしょう、くやしいな」
学校から出た私は、鈴ちゃん家に寄る前に、堤防敷の階段に腰かけて、眼下の一級河川を眺めていた。マジックペンで書かかれたおでこの落書きは、学校の洗面所でキレイに洗いおとしている。白へビが私のおでこや両腕をペロぺロ舐めてくれた。肉体的な痛みはすでにないが、心の痛みは和らいでいく気がする。
「ありがとね、 白ヘビ。私がいじめられても心が折れないで戦えるのは、きっとアンタが 心の傷も治してくれるからだね」
ゆったりとした川の流れを見つめながら、私の独り言を白ヘビに聞いてもらう。
「『愛こそすべて』って言葉があるけど、ありゃ嘘だね。いじめられていた鈴ちゃんを助けたけど、次の日から自分がいじめられてりゃあ世話ないわ。ただ私の場合、 やられっぱなしのいじめられっ子じゃない。私は戦ういじめられっ子なのよ。 不良と呼ばれる教室の暴君共に戦いを挑まれても、怯むことなく参戦したわ。が、ほとんど敗北。今日も戦ってきたけど完敗だった。やっぱり災いを撥ねつけるぐらいの力がないと。そういう意味じゃ『力愛不二』って言葉の方が真実味があるわね。力も愛もどちらも大切なんだよ、綺麗事じゃあ何も解決しない。あーあ、私に力があれば、私の信じる正義を実現出来るのになあ」
そう言って私が右手の人差し指を前に突き出すと、指の先をペロペロ白へビが舐めてくれた。
不良共相手に、ミジメな敗北を喫した私だが、白ヘビの治癒力の効果もあってすっかり立ち直り、いつものように横山家を訪れた。 鈴ちゃんの部屋に入るとテーブルの上に、コンビニで売っている人気スイーツがあった。
「あ、これ、私の大好きなヤツだ!」
テンションが上がる私に鈴ちゃんが答える。
「リカコちゃんがこれ好きなの知ってたから、さっきコンビニに行って買ってきたんだ。でもその帰り道、自転車に乗っている私を、下校中の蝉村と猿川が遠くから発見して、『横山ー、 学校さぼってないで来いよ。またいじめてやるからさあ』って大声でしゃべりかけて笑ってたんだ。私悔しいけど怖かったから慌てて帰ってきた。なんであんなヒドい事を他人に言えるんだろう。他人を傷つけても反省もしないで勝ち誇って、アイツらって本当に最低の人間だよ!」
私は大好物のチーズケーキをパクつきながら、
「実はさ、面目ない話なんだけど、鈴ちゃんに警告してもらったのに、不良共に今日コテンパンにやられちゃったよ」
今日やられた事を全て話し終えた頃、チーズケースも平らげてすっかり満足していた私。顔を上げて鈴ちゃんを見て驚いた。鈴ちゃんの顔が見る見る険しくなると、突然、
「ふざけやがって! アイツら絶対許さない‼︎」
部屋中が振動するはどの大絶叫を上げた。背の低い鈴ちゃんの体の、どこから飛び出してきたのか不思議なほどの大音量、音の爆発だった。




