13、鈴ちゃん、暴走す②
でも私を驚かせたのはそれだけではなかった。鈴ちゃんの背後に浮かんでいるいじめられっ子のオーラ、女の子の体の中心線が真っニつに裂け始めたのだ。セミの幼虫の背中が裂けて中から成虫が出てくるように、身長百三十センチほどの裂けた女の子のオーラから、身長百八十センチはある凶々(まがまが)しい形相のオーラが現れた。大きな角のある山羊の頭部、首から下は毛むくじゃらの筋肉質の男の姿をしている。鬼オーラはどんなに首や腕や足に太く筋肉がついても、身長は本体の人間以上になれない縛りがある。いじめられてエネルギーが奪われ、身長が小さくなることはあっても大きくはなれないのだ。それなのにこのオーラは、本体の鈴ちゃんよりはるかに大きかった。この凶悪オーラがあらわれた事で、それまで浮かんでいた女の子は、黒い粒子に形を変えて、凶悪オーラに吸収されて消えてしまった。さらに我が目を疑うことが起こる。この山羊頭が、私の方を見たのだ。そしてニターッと笑った。コイツには自分の意志があるようだった。自分の意志で勝手に動けるオーラは、私の白へビしか存在してなかったのに。オーラを見ることが出来る私に興味があって見ていたのか、それもすぐに飽きたらしく、私から視線を外すと部屋をしばらく歩きながら眺めた後は、鈴ちゃんの背後に腕を組んで立って、嬉しそうに鈴ちゃんを眺めている。
私と白ヘビは、クモの糸のような細いもので繋がっているが、山羊頭と鈴ちゃんも、黒色で半透明のへその緒のようなもので繋がっていた。そのせいなのか、鈴ちゃんの両眼の黒目が金色に変わった。カラーコンタクトをしているみたいだ。オーラが見える私だからそう見えるだけで、一般の人からは鈴ちゃんの両眼の色は黒目のままだろう。
主従が逆転している。通常のオーラは本体の人間の、心情・立場を表現している存在でしかない。しかし鈴ちゃんと山羊頭は、この凶悪オーラが主導権を握って、 鈴ちゃんを影響下に置いているように見えた。優しくて傷つきやすい鈴ちゃんの表情は穏やかでいて、どこか不安げなものだったのに、迷いのない固い意志を感じるものに変わった。眼力も強くなった鈴ちゃんが私を見つめると、
「前からキチンと謝りたかったんだけど、いじめられている私をかばったせいで、リカコちゃんがいじめられるようになって、本当にごめんね」
そう言って頭を深々と下げたまま動かない。
「いいよ、いいよ。気にしないでよ。頭を上げてよ鈴ちゃん」
そして頭を上げた鈴ちゃんは、落ち着いた口調で喋りだす。
「私達をいじめていた奴らを必ず後悔させてやる。私が必ず仇を取るから。リカコちゃん、せっかく来てくれたのに申し訳ないけど帰ってくれない? 私、やらなくちゃいけない事が出来たから」
そうキッパリ言われて、長居する理由も見当たらない。私は横山家を後にした。 自宅に帰り、入浴を済ませ、両親との夕食も終え、自分の部屋でくつろぐ時間になっても、くつろげる訳がなかった。異常事態であることは明白なのだ。とても良くないことが進行している。心のザワザワが止まらない。弱さなど微塵も感じさせない戦士のような顔つきの鈴ちゃんを思い出す。妖しく光る金色の双眸。あの可愛いものに囲まれているのが大好きな鈴ちゃんはとは別人だ。 鈴ちゃんを操っている凶悪オーラの凶々しい姿、どう見たって悪者じゃん! 時計を見ると、午後十時半を過ぎている。健康上よろしくないという両親の方針で、中学生の私はスマートフォンを持っていない。そのかわり自分の部屋に私専用の固定電話があった。
「固定電話の方が、信用力が高いのだから友達に自慢しなさい」
と父親に言われたが、持ち運べないから不便なだけだ。何の自慢にもならない固定電話から、鈴ちゃんのスマホに連絡をとる。二十秒ほどで本人が出た。




