ハッピーハザード! 01
「ととと突然こんなこと言われてもその迷惑ですよね困りますよねでもあのそのわたしとしましてもそのきくちばさんのことずっと気になっててそれでそのあの」
あたふたと言葉をもつれさせるレティシエルの向こうで無惨にぼっきりと倒壊した世界樹の根本から、地面を割ってだくだくと噴き上がる黒の汚泥のようなものがもりもりと盛り上がってゆくのをクリスリデルは呆然と眺めていた。
「で、そのいつ頃からとかよく覚えてないんですけどきくちばさんのこと見つけるとついつい目がいって見つめてしまってじーっと見つめちゃってたりして、やっ恥ずかしい」
けたたましい無数のサイレンがこの自然公園の山のふもとにぞくぞくと集まり、緊急特殊車両のことごとくが甲高い音を立てて急停止した端からドアが開いては乗員が飛び出してドアを叩き閉める音が繰り返される。
「授業中とかもついついきくちばさんのこと考えちゃってぼおっとしちゃうこともあって、よく先生に怒られたりとかもしちゃって」
集まってきた緊急特殊車両は消防の赤いものではなく、紫色の「勇者庁」のものだった。
各種機材と装備を手早く担ぎ上げた屈強な「勇者補佐官」の男女十数人が続々と山を駆け登ってくる。
「瘴気、確認!」
「散開! 配置につけ!」
「あっごめんなさいわたしなんか変な人みたいですよねわたしでもずっとずっと気になっててその気持ちがなんなのかなってそれで」
「晶化剤、用意!」
「放射、始め!」
「…………」
そろいの紫色の装甲服を纏った「勇者補佐官」たちが凄まじい連携と手並みで、倒壊した世界樹の跡から湧いてきた瘴気を取り囲み、機材から伸びたホースを突きつけて晶化剤を噴射し始める。
だくだくと溢れ出ていた瘴気は、晶化剤の白煙に触れた端から瞬く間に固着していった。
「要救助者発見!」
「要救助者を保護せよ!」
「ただちに最寄りの病院に搬送せよ!」
「了解!」
「その気持ちに気付いたら、そしたらいてもたってもいられなくなってそれでどうにかして伝えよう伝えようと毎朝毎晩きくちばさんのところにいくんですけどなかなか勇気が出なくって」
「…………」
どたばたと群がってきた勇者補佐官らの手によって置物のように担ぎ上げられ、そのまま救護車両に放り込まれたクリスリデルとレティシエルは近くの市立中央病院へと搬送され、緊急の入り口から運び込まれて通路をがらごろとキャスター付きの寝台で運ばれ病院の奥の奥のさらに奥にある魔瘴気治療室と銘打たれた部屋に突入するや否や殺到してきた医師らによって精密検査だかなんだか良く分からない処置を次々と施された。
「次の電柱に来たら、次の電柱に来たらってずっとずっと繰り返してたらきくちばさんのおうちに着いちゃって結局打ち明けられないまま帰るのを何度も何度も繰り返して」
「ああやっぱウチまで来てたんだ」
「とりあえず障害者証明証を出してください。まあいつもの事だけどちょっと大事みたいだから、確認が取れるまで時間がかかると思うの。悪いけどお部屋で待っててくれるかな」
そんな医師の指示のもと、適切な部屋がなかったのか、あからさまな隔離施設っぽい一室に、二人まとめて放り込まれることになった。
「告白していきなり同衾だなんてわたし恥ずかしい。ふつつかものですけど、優しくしてくださいね?」
「うんごめん何言ってるのかぜんぜん分かんない」
怒濤の急展開に、クリスリデルの脳髄はしみじみと麻痺していた。
(……ここまでのいたずらは求めてなかったのになあ……)




