第9話 帝国総督府の戦い(後編)
ヒッグスの強烈な一撃がガーネット伯爵を捉えるが、伯爵の強固なバリアーによってそれが簡単に弾き返されてしまう。
「ぐむぅ・・・さすが帝国総督ともなれば、ワシでは倒せぬか」
別格の強さを誇るガーネット伯爵。
確かに俺は出力を落とした思念波弾を発射したが、もし本気で撃ったとしてもそれが伯爵に届いていたかは微妙である。
念動力を使うにしても、これだけの強大な魔力を誇る伯爵には至近距離でなければ有効打は与えられないし、そのためには彼の強固なバリアーを突破することが大前提なのだ。
やはりヒッグスが指摘する通り、伯爵は手加減して勝てる相手ではないし、そもそも生け捕りをするには数段格上でなければ行うことはできない。
中途半端な攻撃は自分が致命傷を負いかねないし、それほどガーネット伯爵は強かったのだ。
俺の脳裏に再び、ヴェイン伯爵に倒されたさやかの無惨な姿が浮かび上がる。
「そうだなヒッグス。ここは本気で伯爵を倒しに、」
だがこれがあくまで時間稼ぎの作戦だったことを思い出す。ガーネット伯爵を倒すのはやはり、アリスレーゼと犬人族レジスタンスでなければならない。
だから俺はあえてヒッグスの進言を無視して大見得を切った。
「ヒッグス、こんな雑魚騎士にはこれで十分だ」
「ミズキ殿っ!」
真剣な顔で俺を諌めようとするヒッグスの言葉を遮り、俺はあえて増長な発言を続ける。
「よく考えてみろヒッグス。グランディア帝国など大袈裟な名前を名乗ってはいるが、所詮こいつらは未開の原始人の集団にすぎん。我々の科学力を前にこのような原始人どもが敵うと思うか?」
さっきのアリスレーゼじゃないが、ここはガーネット伯爵を怒らせて注意を俺一人に向けさせる。そうすればレジスタンス兵士たちにこれ以上の犠牲を増やさなくて済むはずだ。
そんな俺の意図を察したヒッグスが、
「これは失礼いたしました我が主殿。言われて見れば、グランディア帝国など我がオーク騎士団国よりも歴史の浅い新興国であり、アレクシス皇帝も所詮は盗賊の頭目上がりにすぎませんでした。であればガーネット伯爵など頭目にこき使われる三下のまとめ役程度。魔界の王子であらせられるミズキ殿とは全てにおいて格下。ワーッハッハッハ!」
口裏を合わせてくれたヒッグスの煽り文句に、ガーネット伯爵は顔を真っ赤にして怒り出した。
「こっ、こっ、このオーク風情がっ! ワシのみならず我が祖国と皇帝陛下まで侮辱するとはっ! 絶対に許さんっ!」
釣れた!
完全に怒り狂ってヒッグスに向けて剣を構える伯爵に、俺はさらに火に油を注いでいく。
「どこを見ている三下。お前の相手はこの俺のはずだが、まあお前程度なら我が家来が相手するのがふさわしいか。仕方がない、少し遊んでやれヒッグス」
「ははっ! 我が主殿」
「ぐぬぬぬぬっ! 言わせておけば貴様・・・総員、魔族の王子を血祭りに上げてやれっ!」
「「「はっ!」」」
そしてガーネット伯爵と全ての護衛騎士たちが一斉に魔力を爆発させて俺に攻撃を開始する。その魔力たるやさっきの魔導部隊を超え、様々な属性のオーラが部屋の中に充満する。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
ちょっと煽りすぎたか、今まで見たことのないような大量のオーラが暴風のように部屋中を吹き荒れた。
しかも俺はそれを一身に受けなければならず、慌ててありったけのオーラを思念波補助デバイスに投入すると、それを最大限に増幅した。
オオオオオオオオオオッ!
俺の身体から沸き上がった青いオーラが唸りを上げ始め、建物全体がガタガタと振動する。
魔力を持たないレジスタンス兵士たちはその衝撃で後方に吹き飛ばされ、ハウルの指示で部屋から順次退散していく。一方敵護衛騎士たちは、そんな兵士たちの動きに気づかず、真っ青な顔で俺を見ている。
そして左手薬指の指輪が妖しく光ると、デバイスが高周波の振動を発生させて共鳴する。
キーーーーーンッ!
そうしてついに俺史上最強バリアーが完成したが、正直これがマックスであり突破されれば俺は死ぬ。
だがここは強気に煽り続ける。
「くっくっく・・・これでもまだ俺の5割の力だが、こちらからは一切手出しをしないでおいてやろう。さあ全力で攻撃をして来い、三下どもっ!」
「こ、この野郎・・・死ねーーっ!!」
ガーネット伯爵が怒りに我を忘れて暗黒のオーラをまとわせた魔剣で猛然と攻撃を開始する。さらにそれに合わせて護衛騎士たちもあらん限りの魔力で攻撃を繰り出してくるが、俺のバリアーはびくともしない。
さすがに挑発しすぎたかと少し後悔していたが、彼らの必死の攻撃を受け続けているうちに、ガーネット伯爵の魔力よりも俺の思念波強度が勝っていることが明らかになって来た。
それは護衛騎士たちが放つオーラも同じで、今この場所に俺のオーラを越える者などどこにも見つからなかった。
「よし耐えたぞ・・・」
だがその時俺のオーラに匹敵する巨大な魔力が忽然とその姿を現し、部屋全体を支配する。
アリスレーゼが詠唱を終え、魔法が完成したのだ。
【無属性魔法・マリオネット】
アリスレーゼの魔法が発動した瞬間、すでに飽和状態だったオーラが臨界点を突破し、全ての窓ガラスが粉々に吹き飛んだ。
竜巻が起こってあらゆるものが散乱して宙を舞い、ソファーがタンスにぶつかって粉々に砕け散り、シャンデリアが床に落下して、ガラスの破片が木片と共に部屋の中を渦巻く。
レジスタンス兵士たちは既に部屋から全員退避しており、ハウルたち幹部が辛うじて部屋に残って、荒れ狂うオーラ流からその身を守るため床に伏せる。
一方、アリスレーゼの魔法で身体が完全に硬直した敵護衛騎士たちは、魔力の暴風をその全身にまともに受けてしまい、魔力の弱い物から順番に窓の外へと投げ出され、地上に落下していった。
「うわああぁぁ・・・!」
世界最強魔力を誇るアリスレーゼの放った【マリオネット】はあくまで精神感応魔法であり、決して物理的な攻撃魔法ではない。
だが彼女によって引き起こされたのは、帝国総督府司令塔の完全なる破壊だった。
しばらく続いたオーラの奔流もやがて収まり、部屋に残されたのは運よく墜落死を免れた数人の護衛騎士たちと屈指の魔力を誇るガーネット伯爵だけだった。
そんな彼らは石像のように身体が硬直して床に転がっており、マナ濃度が正常化して再び部屋になだれ込んできた兵士たちに、その身柄を拘束されていく。
「・・・うがっ・・・うぐぐ・・・あがっ・・・」
必死に抗う伯爵だが、魔法の効果がしばらく続いてうめき声を上げることさえ困難な状態を確認すると、ハウルは全ての兵士たちに向けて高らかに宣言した。
「アリスレーゼ王女殿下と魔族の王子の助力により、グランディア帝国総督ガーネット伯爵を捕らえた! 我々は帝国を打倒して王城奪還に成功したのだ!」
「「「うおーーーーっ!」」」
「ドルマン王国万歳!」
「アリスレーゼ王女殿下万歳!」
「我々はグランディア帝国から解放された!」
ガーネット伯爵や護衛騎士たちが最上階フロアーから階下へと運び出される中、レジスタンス兵士たちの歓喜の声がいつまでも鳴り響いた。
次回「帝国支配からの解放」。お楽しみに。
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