第9話 帝国総督府の戦い(中編)
魔導部隊が壊滅しレジスタンスが勢いを取り戻す。
1階大ホールの戦況が逆転して、帝国軍が外へと押し出されていく様子に一先ずほっとした俺だったが、すぐに気を引き締めるとアリスレーゼとヒッグスに指示を出した。
「なんとかピンチは切り抜けたが、あの7人は魔導部隊の一部のはずだ。欺瞞工作に気づいて全員引き返してくることを想定し、応戦の準備を整えておくぞ」
だがアリスレーゼは呆れた表情で俺を見て、
「まさかたった一人で倒してしまうなんて、あなたはここに来て格段に強くなりましたね」
「俺が強くなった? いや、この世界ではオーラが上手く練れずむしろ弱くなったはずだが」
「それは空間マナ濃度が日本より低いためなのですが、あの魔導部隊はグランディア帝国屈指の精鋭魔導師たちであり、それをたった一人で倒したあなたは尋常な強さではないのです」
「だとしたら、今の戦いはアリスレーゼの的確な指示とこのデバイスの性能のおかげだ。既に魔法の半分は雨宮主幹たち研究チームが科学的に解明しているし、それに対応するための迎撃機能が、このデバイスにはインストール済みだ」
「ですが・・・」
「だからアリスレーゼ、キミのアドバイスさえあればどんな魔導師にだって対抗することは可能なんだ」
「いいえ、あなたは自分の力を過小評価しすぎです。デバイスがあるからと言って、誰もがあなたのように戦えるわけではないのですよ」
「そうなのか?」
「あなたはこの世界に来てから、明らかに潜在魔力が上がりました。このわたくしと同等かそれ以上に」
「いくらなんでもそれはないだろ」
「ですが瑞貴・・・」
「おっと話は終わりだ。ハウルたちが上階に進軍した部隊に合流するつもりらしい。ここも心配だが俺たちも上階に向かうぞ」
◇
上階へ攻め込んだレジスタンス兵士たちは既に最上階フロアーの直前まで到達していたが、階段出口を守る帝国騎士たちがそれ以上の進軍を阻んでいた。
その騎士一人ひとりが1階大ホールにいた兵士たちとはまるでレベルが違い、身体が大きくがっしりした体格でしかも強力なマジックバリアーを自分で展開できるほどの魔力を誇っていた。
「これが帝国騎士団の精鋭か・・・」
そんな彼らと魔力を持たないレジスタンス兵士たちの実力差は歴然。
少数精鋭の彼らに対してこちらは人海戦術で対抗する以外に方法はなさそうだが、最上階の狭いフロアーがそれを許さず完全に攻めあぐねている状態だった。
そんな状況の中で俺は、味方を巻き込まずに敵騎士だけをピンポイントで攻撃する手段がないかデバイスの機能を検索していたが、アリスレーゼが俺にテレパシーを送って来た。
『瑞貴、マリオネットを使います』
以前行われたUMA室戦闘員同士の模擬戦でも、アリスレーゼの精神感応魔法の前には、あの弥生やさやかが手を組んでも勝つことができなかった。
そしてこの世界に来る直前にも、グランディア騎士団を足止めするのに効果的だったのがこの魔法だ。
『分かった、頼んだぞアリスレーゼ!』
レジスタンス兵士たちが次々と討たれ階段から転げ落ちていく中、アリスレーゼがその長い呪文の詠唱を終えると最上階フロアー全体を覆うような魔方陣が出現して強力なオーラで満たされた。
【無属性魔法・マリオネット】
アリスレーゼの精神感応魔法が発動して全ての帝国騎士の身体が硬直し、それを見たハウルがレジスタンス兵士たちを鼓舞する。
「聞け兵士たち。アリスレーゼ王女殿下が我々とともに最前線に立ち、その尊いお力をお貸しくださったのだ! そして見るがいい。帝国の魔導騎士どもが殿下の魔法でその動きを完全に止めてしまった事実を。世界を魔法で統べる王はアリスレーゼ王女殿下ただ1人であり、アレクシスがごとき簒奪者ではないことを思い知らせてやるのだ。総員突撃し、帝国総督ガーネット伯爵をひっ捕えよ!」
「「「おーーーーっ!」」」
レジスタンス兵士たちが一斉に階段を駆け上がると、金縛りにあった帝国軍の騎士たちを次々に串刺しにして最上階フロアーを占拠した。
そして各部屋の扉をこじ開けて、雪崩のように中に押し入って行く。
戦況を一瞬で引っくり返すアリスレーゼの魔法の恐ろしさを改めて痛感したが、そんな俺たちも怒涛のような流れに運ばれる形でハウルとともにフロアー最奥の一番大きな部屋になだれ込んだ。
◇
その部屋は広い執務室で、中央には厳めしい面構えの一人の騎士が仁王立ちでレジスタンス兵士たちを睨みつけている。
その騎士の周りを十数人の騎士たちが守り、その外側には強固なマジックバリアーが展開されていた。
「あれが帝国総督のガーネット伯爵だ」
ハウルが俺の耳元でそう囁く。
「あいつを倒せばこの戦いは勝ちなんだな」
「ああ・・・だが見ての通り奴は強い。本当は我々自らの手で奴を倒すべきなのだが、そのためにはさらに多くの兵士たちの命を捧げなければならん。本当に申し訳ないが、また君の力を借りたい」
真剣な目で俺を見つめるハウル。
改めてガーネット伯爵に目を移すと、ハウルの言う通りこの男は最上階フロアーの精鋭騎士たちと比べてもさらに上を行く別格で、その強大な魔力は先ほどの魔導部隊と何ら遜色がない。
それはまさに一騎当千であり、周りを取り囲む騎士たちもこのフロアーで最強クラスの精鋭のようだ。
その時俺は、さやかと死闘を繰り広げたヴェイン伯爵のことを思い出した。
油断すれば確実に命を失う!
『聞こえるかアリスレーゼ。ガーネット伯爵は極めて危険だ。キミは後ろに隠れていろ!』
『いいえ瑞貴! わたくしもハウルと同じ気持ちで、自らの手で帝国に引導を渡したいのです。マリオネットをもう一度発動いたしますので、瑞貴は時間を稼いでください』
『・・・分かった。だが危険と判断したら有無を言わさずキミをここから離脱させるぞ』
『承知しました。魔法発動には時間がかかりますので、瑞貴も気をつけて』
アリスレーゼの覚悟を受け入れて時間稼ぎ役を承知した俺は、だがハウルには俺が倒すとだけ答える。
「わかりました。ガーネット伯爵は俺が何とかしますので、彼女の守りをお願いします」
「もちろんだとも! この命にかえても絶対にお守りする」
「よしヒッグス、二人で行くぞっ!」
「御意っ!」
俺はヒッグスとともにレジスタンス兵士たちを押し退けて前に飛び出すと、デバイスを天に掲げてスイッチを押した。
「アンチ・マジックバリアー発動!」
アンチ・マジックバリアーは、異世界からの侵略者「リッター」と戦うために一番最初に開発された思念波補助デバイスのメイン機能である。
そのデバイスに大量のオーラを注入して敵騎士団が展開する強固なバリアを一瞬で消滅させると、驚愕の表情を浮かべる騎士たちの間に入り込み、正面の騎士の左胸に右手を添えてその心臓を念動力で破壊した。
「がはあーっ!」
俺の攻撃方法が分からず、慌てて防御態勢を取る騎士たちに対して、今度は俺の背後にピッタリとくっついていたヒッグスが巨大な剣を振り回し、無造作にその首を跳ね飛ばした。
とにかく派手に暴れまわって全員の注意を俺たちに向けさせたが、アリスレーゼの詠唱が進むとともにその魔力が急上昇し、レジスタンス兵士たちに隠されながらも異常な存在感を放ち始めた。
当然、彼女の存在に気づいたガーネット伯爵は、すぐにその目の色を変えた。
「まさかお前は・・・アリスレーゼ王女殿下かっ! ここで彼女を確保できれば、今回の魔界戦役における最高の手柄が労せずしてワシのものとなる・・・」
ニヤリと笑った伯爵は、剣を抜いて大きくジャンプすると、自分を守護する騎士たちの頭上を飛び越えて単身アリスレーゼに襲い掛かった。
だがその動きにハウルが即座に反応する。
「兵士たちよ、王女殿下にその身を捧げよ!」
「「「はっ!」」」
アリスレーゼの周りを重装備で身を固めた守備隊が取り囲み、ガーネット伯爵の剣を鋼鉄の盾で受け止める。だが魔力で強化された伯爵の剣は、その守備隊の兵士の身体を盾ごと真っ二つに切り裂いた。
「ぐわーーっ!」
それでも兵士たちは、怯むどころか二重三重にアリスレーゼを取り囲んで鉄壁の防御態勢を敷く。
「王女殿下を絶対にお守りしろ!」
それはまさに肉の壁であり、自らの命を使って伯爵の攻撃からアリスレーゼを守る。そんな兵士たちの姿にガーネット伯爵は苛立ちを隠せず叫んだ。
「犬っころは引っ込んでろ!」
伯爵がさらに魔力を高めると暗黒のオーラが剣を怪しく包み込み、横一線に薙ぎ払った剣によって最前列の兵士たちがまとめて吹き飛ばされる。
だがすぐ別の兵士たちがアリスレーゼの前で盾を構え、伯爵は再び攻撃態勢に入って剣を振り上げる。
その時既に伯爵の背後を取っていた俺は、至近距離から思念波弾を発射した。
「これでも喰らえっ!」
眩い閃光とともに発射されたオーラの光球は、だが伯爵の強固なバリアーに跳ね返され辺りに四散する。そしてゆっくりとこちらを向いた伯爵が、怒りの形相で俺を一喝した。
「邪魔をするな、この下郎がっ!」
そして闇のオーラを漲らせた剣を上段に振りかぶると、俺の頭上めがけて真っ直ぐに振り下ろした。
ガギャッ!!
だがヒッグスが剣で受け止め、力ずくで押し返す。
「ミズキ殿っ! このガーネット伯爵は手加減できる相手ではござらん! 生け捕りにしようなどと考えずに殺すつもりで思念波弾を発射されよ!」
次回後編です。お楽しみに。
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