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クラスメイトは異世界王女  作者: くまひこ
第2章 オーク騎士団の来襲と時空間戦争の足音

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第28話 平和の終わり

 修学旅行二日目は、敦史の要望に学校側の許可が下りてまさかの大阪見学が実現した。


 京都駅から電車で30分ほどで大阪駅に到着した俺たちは、そこから環状線に乗り換えて大阪城公園までやって来た。


 高層ビルを背景に建つ和風の巨大建造物・大阪城。その上空には、伊丹空港への着陸態勢に入った旅客機が高度を下げて飛行している。


 京都と異なって、大阪はその近代的な都市の中に伝統的な日本の建造物が唐突に建っていることが多く、そのアンバランスさが外国人に魅力的に映るらしい。そしてアリスレーゼもまた、この奇妙なコントラストに魅了された者の一人だったようだ。


 城壁に囲まれた順路を天守閣に向かいながら、興味深そうに辺りを見回すアリスレーゼの質問に答える。


「これが日本の城の代表格・大阪城だ。当時のものは度重なる動乱で焼け落ちて、今建っているものは復元された城だが、群雄割拠の戦国日本を統一した太閤・豊臣秀吉が建てた居城として有名なんだ」


「とても美しくてエキゾチックなお城ですね。ミズキに教えてもらいたいことは山ほどあるのですが、まず城壁のあちこちに空いている穴は、どのような用途で使われる物なのですか」


 アリスレーゼの質問はやたら細かいが、そのほとんどはティアローズ王国と日本の違いを自分なりに理解しようとするものだ。


 だが俺はこういう時のために、ガイドブックを隅々まで読んで勉強しておいたのだ。


「これは城へ攻め込んだ敵に対して鉄砲を撃つための物だよ」


「鉄砲って?」


「火薬を爆発させた勢いで鉛の玉を高速に射出する武器のことだ。弓矢よりもはるかに強力でしかも使い方が簡単だから武士・・・いや騎士だけでなく農民でも即戦力になり、鉄砲が発明されてからは剣や弓矢などの従来の武器が徐々に廃れていったんだ」


「そのような武器は、ティアローズ王国にはございませんでした。やはり日本は進んでいるのですね」


「鉄砲自体はヨーロッパから伝わったもので、火薬は中国の発明だよ。でも当時の日本人はすぐに作り方を理解して、オリジナルより高性能な銃を量産できるようになった。その結果、この城が完成した頃にはヨーロッパ全ての国の鉄砲をかき集めても、日本の方がはるかにたくさんの鉄砲があったとも言われている」


「それは凄い・・・。その鉄砲という武器は、今でもこの日本にたくさんあるのですか」


「当時より遥かに進んだものがたくさんあるよ。でもここ80年近く日本では戦争が起きていないから、実戦で使われたことは一度もないんだ」


「80年も戦争をしていないのですか! とても信じられませんが、もし本当ならとても素晴らしいことですね」


 そう言ってアリスレーゼは驚きとともに、少し寂しそうな表情を見せた。たぶん祖国ティアローズ王国の滅亡を思い出しているのだろう。




 大阪城に登ってからもアリスレーゼの質問責めは続き、他の観光客の3倍ぐらいかけてようやく見学が終わると、その後は環状線をさらに回って天王寺にある日本一の超高層ビルの最上階まで登った。


 目も眩むような高さに卒倒しそうになったアリスレーゼを何とか地上まで下ろすと、今度は地下鉄に乗り換えてナンバにやってきた。そこでようやく敦史に元気が出てきて、急にグループを仕切り出した。


「さあ、真面目な社会科見学は終わり、終わり。とりあえず飯でも食いに行こうぜ」


 そう言いながら、敦史はネットで評判のたこ焼き屋にみんなを連れて行き、そこで昼食にした。もちろんたこ焼きだけで足りる俺たちではないので、ネットで評判のラーメン屋に行った後、さらにソフトクリームまで食べる始末だった。


「やっぱ大阪の飯は最高だな。なあ瑞貴」


「さっきからB級グルメしか食ってないけど、確かにどれもこれも旨いよな」


 敦史が満足そうに腹をさすると、ただの随行のくせに俺たち以上に修学旅行を満喫している愛梨が、


「なんかオヤジ臭いなあ敦史は。愛梨はまだまだ食べれるけど、あそこの観覧車にも乗りたいな」


「おっ、いいね! 乗ろう乗ろう」


 道頓堀沿いにある観覧車に乗った後は、再び地下鉄に乗って大阪駅(梅田)へと戻り、そこでショッピングを楽しむことになった。


 梅田ダンジョンとも恐れられている梅田地下街は、大小合わせて数10前後ショッピングモールと駅ビル地下街が繋がった集合体であり、国土交通省ですら正確な統計情報を開示できていないほどの巨大迷宮だ。


 そのダンジョンの中には、数百もの店舗が乱立し、空へと延びる超高層ビル群にも同じぐらいたくさんの店舗が生き残りをかけてしのぎを削っている、商売人にとってはまさに修羅の国であった。


 一つの街にこれだけの店舗を集めて、本当に商売が成り立つのか甚だ疑問ではあるが、東京より少し安く買えるため高校生の俺たちにはとても助かる。




 みんながショッピングを楽しんでいる中、少し人ごみに酔ったのかアリスレーゼが疲れた様子を見せたので、俺は母さんに一言告げて彼女を近くのカフェに連れていった。


 昔ながらの古風な喫茶店だったからか、外の混雑に比べて中は客が少なく、俺たちは一番奥の席に座って彼女の好きなアイスティーを2人分注文する。


 周りに他の客もいなかったため、俺はアリスレーゼに昨夜のことを尋ねてみた。


「アリスレーゼ、昨夜俺と敦史が話をしている時に、本当に俺たちの部屋にはいなかったのか?」


「そのことなら今朝申し上げた通り、深夜ミズキたちが眠った後にわたくしが部屋を訪問し、不審なマナの痕跡が残っていたのでアイリちゃんと二人で監視を続けていたのです」


「それは分かった。あと、さっきはハッキリと教えてくれなかったが、アリスレーゼにはその不審者の目星が付いているように感じたのだが」


「・・・根拠は残留マナ強度だけなのですが、わたくしが存じ上げている範囲では兵衛先生以外だと葵さんしかいません。わたくしがそう言うと、アイリちゃんも彼女が怪しいと同意してくれました」


「また葵さんか・・・。俺には彼女がそんなことをする動機がないように思うのだが」


「動機ならありますが、わたくしの口からはあまり言いたくありません」


「もしかして俺を気に入っているから・・・とか?」


「ミズキ・・・やはりあなたも、そのことに気づいていたのですね」


「いや、俺自身は全く・・・。実は敦史がそんなことを言っていたんだが、もしかしてアリスレーゼは気づいていたのか」


「ええ。ですので彼女がこんな大胆な行動に出たことが本当にショックで・・・」


「ショック?」


「わたくしはこれまで、恋愛とは無縁な環境で育ってきました。わたくしには将来の伴侶、つまり王配となる候補者が王家の中から既に選ばれており、社交界の令嬢や令息たちの色恋沙汰をどこか冷めた目で見ておりました」


「へえ、アリスレーゼに婚約者がいたなんて知らなかったよ」


「ティアローズ王家の血筋を残すための政略結婚で、わたくしは彼の事など何とも思っていませんでした。ですがこうして日本の平民として生まれ変わったのですから、わたくしも恋愛というものに少しは慣れていかなくてはなりません」


「前にもそんなことを言っていたが、それで恋愛には慣れて来たのか」


「いいえ、それがさっぱり。ですので、どういう時にどういう行動を取ればいいのか、周りの人たちの行動をじっくりと観察することにしたのです」


「そう言えばよく愛梨と葵さんがケンカするところをじっくり見ていたが、まさかあれが恋愛の観察だったのか?! あんなものをいくら観察しても学ぶべきものなど何もないと思うが」


「ええ。彼女たちの行動にわたくしが参考にできるものは何一つありませんでした。でも一つだけ分かったこともあります」


「へえ・・・それは一体」


「彼女たちを見ているたびに、胸が締め付けられるように痛くなるのです」


「・・・胸が痛くなる」


「ええ」


 その時のアリスレーゼが俺に見せた表情は、戸惑いと羞恥心が入り雑じった、何とも言えないもどかしいものだった。


 頬を少し赤く染めて目線がさまよい、俺と目が合ったとたんすぐに視線をそらしてしまう。


 これにはさすがの俺も、アリスレーゼがその二人から何を感じ取り、そして何に気がついたのか、それ以上聞かなくても理解できてしまった。


 そして俺の表情にも何らか変化があったのだろう、アリスレーゼは自分の気持ちが俺に伝わってしまったことを理解すると、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに下をうつむいてしまった。





 気恥ずかしくてお互い目を合わせることもできず、しばらく無言が続いた俺たち二人だったが、気まずくなってしまった空気を変えようと、俺はアリスレーゼにある相談を持ち掛けた。


「じっ、実は・・・昨日分かったことなんだが、俺自身が見ている自分の顔と、敦史が見ている俺の顔がまるで違うらしいんだ。そんなバカなことをと思うかもしれないが、アリスレーゼなら何かわかるかも知れないと思って相談に乗ってほしい」


 するとアリスレーゼも真面目な顔に戻り、


「ミズキの顔が見る者によって異なるということね。ちなみにミズキには自分の顔がどのように見えているのかしら」


「俺には『何の特徴もない平凡な顔』に見えている。だが敦史には俺がイケメンに見えるらしい」


「イケメンという言葉がよく分かりませんが、わたくしから見ればミズキは平凡な顔に見えます」


「マジか・・・だとしたら、俺とアリスレーゼには同じものが見えているということになる」


「それはわかりません。人の顔がどのように見えるかなどかなり主観的な問題であり、百人に聞けば百人が違うことを言うと思います」


「なるほど・・・マインドリーディングの使い手であるアリスレーゼが言うと、さすが説得力があるな」


「そしてわたくしの見たところ、ミズキの顔はティアローズ王国の貴族の中にいても、特に違和感のない顔という意味で平凡と申し上げました」


「え、それってどういう・・・」


「日本人の顔はティアローズ王国とは系統が異なり、わたくしから見れば特徴のある顔なのです。ですが、ミズキの顔はティアローズ王国の系統に近く、王城の舞踏会に参加すれば王国の貴族令嬢たちから受け入れられると思います」


「それってつまり、俺の顔は日本人っぽくないということなのか」


「わたくしやアイリちゃんともほんの少し系統は異なりますが、他のクラスメイトたちと比べれば完全にわたくしたちの側です」


「そんなバカな・・・つまり俺も見た目が外国人のようだとアリスレーゼは言っているのか」


「わたくしにはとても親しみのある顔に見えますよ、ミズキ」


「・・・正直言って今の俺は自我が崩壊しそうなほどショックを受けているよ。だが、一つだけ俺の頼みを聞いてくれないか、アリスレーゼ」


「わたくしにできることであれば」


「キミのマインドリーディングで、俺の頭の中がどうなっているのか調べてほしい」


「・・・承知しました。ミズキがそれでいいのなら、試してみましょう」




 そしてアリスレーゼが呪文を唱え始めると、彼女の身体から白い「気」が沸き上がり、それがうっすらと輝き始めた。


 多少聞きなれたマインドリーディングの呪文以外にも俺の聞き覚えのない呪文も混じっており、どうやら何種類かの魔法を順番にかけてくれているようだが、次第に彼女の表情に困惑の色が濃くなっていく。


 やがて全ての魔法をかけ終えたのか、アリスレーゼが姿勢を正して俺に向き直ると、


「結論から申し上げると、ミズキには精神操作系の魔法がかけられているようです。それもわたくしのマインドリーディングやその他の魔法を一切受け付けないほどの強力な魔法が・・・」


「精神操作系の魔法、つまり俺が自分の顔をちゃんと認識できなかったのはそれが原因なのか。しかし誰がいつ、どんな目的で俺に魔法を・・・」


「それはわたくしにもわかりませんし、この魔法自体わたくしの知らない未知のものなのです」


「アリスレーゼも知らない未知の魔法。そんなものが存在するのか」


「そこが腑に落ちないところで、ティアローズ王国は最も長い歴史を誇った魔法大国であり、その王女であるわたくしに知らない魔法などあるはずないのです。それにこの魔法は通常のものとは異なり永続的に効果を及ぼす『呪術』なのも気になります」


「呪術・・・つまり呪いのようなものか。でもありがとうアリスレーゼ。キミに相談して本当によかったと思う。あ・・・母さんからのメッセージだ。ショッピングが終わったからそろそろ京都に戻ろうだって」


「ええ。ミズキ、みんなの所に戻りましょう」






 東京都内のとあるビルでは、公安UMA室の小田島室長が指令室の椅子に座り、大型スクリーンを真剣な表情で見つめていた。


 スクリーンには近畿地方の地図が映し出され、京都市街地の南側に赤い光点が点滅し、オペレーターの声が指令室内に響いた。


「リッターの転移を確認! 場所は京都市南部、桂川周辺です!」


 小田島室長は苦渋の表情を浮かべながら、オペレーターに指示を出す。


「至急、国家公安委員会に連絡。内閣総理大臣に対し自衛隊の治安出動要請を行うよう、上申する」

次回もお楽しみに。

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