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クラスメイトは異世界王女  作者: くまひこ
第2章 オーク騎士団の来襲と時空間戦争の足音

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第25話 異能者(後編)

 藤間主任の車の助手席に乗り込むと、マンションを出た車は高速道路を北に向かって走行し、日暮れ頃にようやく研究所が集積するエリアの一角にある、とある施設に到着した。


 コンクリートむき出しの建物の地下駐車場で私たちを迎えてくれたのは、ラフな格好をしたここの研究者の男女数名で、ネームプレートには経済産業省所管の研究開発法人のロゴと氏名が書かれてあった。


 だがそのネームプレートは全てダミーであり、その正体は私たちと同じ公安UMA室のメンバーなのだ。私たちは彼らの後について奥に入っていった。




 私たちが通されたのは、たくさんのモニターとそれを操作する端末が設置された部屋で、大型の超高精細モニターの前では思念波デバイス開発のプロジェクトリーダーをしている雨宮しぐれ主幹研究員が私たちを待っていた。


「随分と早い到着ね、藤間くん。それからこの間渡したデバイスの調子はどうだったかしら、弥生ちゃん」


 そう言ってニッコリと微笑む40代半ばの彼女は、思念波研究分野の第一人者であり、学術会議から似非科学者だの、軍事研究者だのとレッテルを貼られて批判されていたところを、神宮寺電子工業が三顧の礼で迎え入れて今ではこの産官プロジェクトの一翼を担っている。


 そんな彼女は、戦闘員一人一人の能力を把握して、それに適したデバイスを開発してくれるとても頼りになるオバサ・・・お姉さまなのだ。


「雨宮主幹のおかげで、オーク騎士団のリーダーの生け捕りに成功しちゃった。でもデバイスの出力が強すぎて、すぐに思念波切れを起こしたのよ」


「あらそうなの? 弥生ちゃんが大活躍だったって、報告は受けていたけど・・・。それからその時のオークのリーダーがここの地下施設で検査を受けているけど、後で会って見ない?」


「絶対イヤ。あんな発情ブタ男なんか興味ないから」


「彼はあなたにとても会いたがっていたのに残念ね。それからデバイスの出力だけど、これから先のリッターとの戦いを考えると、どうしてもそれぐらいの出力は必要なの。だから思念波切れを起こさないよう沢山トレーニングを積んでね」


「うへえ・・・やっぱり地道な努力は必要なのね」


 やっぱり楽して強くなれる方法は存在しないのか。最強への道は一日にして成らずなのじゃ。


「それとさっきの試合も大活躍だったじゃない。弥生ちゃんクラスなら、相手がプロの格闘家でも補助デバイスなしで勝てることがわかったわ。とてもいい戦闘データをありがとう」


「どういたしまして!」


 藤間主任にはさっきネチネチと嫌みを言われたが、雨宮主幹は研究者だからか、時の政権の心配より戦闘データの方が遥かに大切らしい。


 そんな雨宮主幹に、ネチネチ男の藤間主任が満を持して本題に入った。


「先ほどの放送でご覧になられたと思いますが、兵衛師範代と前園瑞貴の戦闘データの分析をお願いしたくこちらに伺わせていただきました」


「いつもマジメなのね藤間くんは。でも連絡を受けてすぐ分析を始めているわ。速報版だけどこれを見て」


 そう言うと雨宮主幹は手元の端末を操作して、超高精細モニターに分析結果を表示させた。


 どうやら両チームの選手全員とそれ以外にもテレビ映像に映った人たちを可能な限り分析したらしい。


「この分析結果は、テレビ映像から解析した思念波の適性値よ。赤外線領域の残存効果から推計してるだけだから精度は大してよくないけれど、大まかな適性ぐらいはこれでわかるわ」


「もうそこまで分析ができているとは・・・」


 そう言ってモニターを食い入るように見つめる藤間主任だったが、すぐに驚きの表情を浮かべると雨宮主幹に尋ねた。


「この煌流翔波拳チームの分析結果ですが・・・どうしてこのようなことが」


「面白いでしょうこれ。元々の出場予定だった5人を適性値の順に並べてみたのだけど、全員に思念波適性があってそれが先鋒から大将まで綺麗に並んでいたのよ。ここから推測される仮説は「煌流翔波拳という流派は思念波の強さがそのまま戦闘力に直結する格闘技」ということよ」


「やはりか! 小野島室長は自分の嫁が通うただのヨガスクールだと言っていたが、俺が前園家に目をつけたのは間違っていなかった」


「プーっ! 小野島室長がそんなことを、クスクス。でもさすがは藤間くんね、これが刑事の勘ってやつなのかしら」


「からかうのは止めてください」


「ふふふっ、それで相手の総合格闘技チームだけど、5人中3人が適性者、つまり思念波を何らかの形で自分の戦闘に活かしている人がいたわ」


「やはりこの3人ですね」


「ええ、空手と相撲、ブラジリアン柔術の3人。そしてこの種目と煌流翔波拳の共通点はともに東洋発祥の武術だということ」


「それは以前から知られていましたが、雨宮主幹の提唱する理論を裏付けるエビデンスが増えた訳ですね」


「そうね。それからこれが途中で入れ替わった二人の適性値よ。この表を見てもわかるとおり、前園瑞貴の適性値が突出して高いのよ」


 そう言って雨宮主幹が画面をスクロールして現れた表には、瑞貴と私の分析結果が並んでいた。


「なるほど・・・あの夜の河川敷での戦いを直接見てましたので、彼の適性が尋常ではないことは分かっていましたが、こうして並べると凄い」


 この結果には、私も少しショックだった。


 知能指数と同様に、公安の戦闘員の平均値を100として規格化したその適性値は、総合格闘技チームの最高がブラジリアン柔術の50に対して、兵衛師範代がこの中で最高の150。


 母数が公安のエリート戦闘員なので標準偏差が小さくこのような数値になってしまうのたが、瑞貴のそれは250を示し、私の200を大きく上回っていた。


「やっぱり瑞貴は強い・・・この適性値を超えないと私はお嫁さんとして認めてもらえないのかな」


 私は自分の愛する夫(予定)の真の強さが分ると、なぜか心臓がドキドキときめいてきた。


 お父様に嫁として認めてもらえないのではないかという不安感が半分と、絶対に他の女には渡せないという独占欲が半分だ。


「それからこの瑞貴くんには、通常の思念波適性に加えて、特異能力の適性も見つかったわ」


「つまり彼は異能者だと・・・」


「この映像を見て。彼がシステマの選手に手を掴まれた時にそこから脱出したシーンだけど、この時彼の周りには見えない力場が発生して、相手選手の両手を自分から無理やり引き剥がしたのよ。これはサイコキネシスの特徴と一致していて、補助デバイスなしでこれが使えた彼を「Factor V」と断定したわ」


「Factor Vというと確か、雨宮主幹の提唱するMファクター理論の「力の遺伝子」の発現者ですか」


「ええ。この理論の元となったインド神話の神ヴィシュヌにあやかって命名したのだけど、この因子の発現者は思念波を力学的エネルギーに直接変換できるため最も戦闘に長けた能力だと思うの」


「力の遺伝子・・・それは是非ともウチの戦闘員にスカウトしたいところですが、彼はリッターと同じ能力を使用しており、敵の可能性も否定できない」


「藤間くんが前に持って来てくれた戦闘データよね。それをみる限り、瑞貴くんはリッターと同じ思念波を使用しているので間違いない。でも今日の試合ではその痕跡が全くなく私たちと同じ思念波が観測された。このどちらも正しいと仮定すれば、彼は2種類の能力を使い分けているということになる」


「2種類の能力を使い分けている・・・そんなことができるのですか」


「あくまで可能性よ。私にもメカニズムは分からないけど、起きている現象を素直に解釈すればそういうことになるというだけ。後は藤間くんたちが戦闘データを取ってくれれば、さらに調べることもできるわ」


「データ収集は了解しました。なるほど・・・2種類を使い分けているのか」




 藤間主任がブツブツと独り言をいいながら何かを考え始めたが、私はもっと別のことが気になっていた。


 雨宮主幹は、選手以外にも映像で確認できた人たちの分析もしたと言っていた。つまり今表示されている表以外にも、分析結果はあるということだ。


「雨宮主幹、この12人以外の結果が知りたいので、もう少し表をスクロールしてもらってもいいですか」


「相変わらず目敏いわね弥生ちゃん。それに他の人の分析結果も気になるんだ」


「もちろんよ! だってあの道場には、かなり強力な思念波を操れる人物が他にもいたから」


「何だと!」


 私のその言葉に藤間主任が食いついたが、それを見た雨宮主幹がクスクス笑いながら、


「最初に断っておくけど、他の人たちのは戦闘データをもとにしたものではないから、分析精度はかなり低いし、あまり鵜呑みにしないようにね」


 そう言って雨宮主幹は画面をスクロールさせて下に隠れていた部分を表示させた。


 それを見て息を飲む藤間主任に対し、私は予想通りの結果にまずは納得していた。


「やっぱり神宮寺さんは能力者だったんだ」





 私はこの数日間、彼女の護衛としていつも一緒にいたから、彼女に適性があることは薄々は感じていた。そのことに本人が気づいているのか知らないが、神宮寺さんが思念波適性を持つ能力者なのは確認できた。


 だが予想外だったのは、神宮路さんの他にも適性者がいたこと。しかも瑞貴のクラスメイトの伊藤敦史と水島かなでだ。


 人間なら誰でも持っている思念波、でもそれを意識して活用できる能力者は存在確率が10%未満。さらに公安の戦闘員になれるほどの才能を持っているのは、その中でもごく僅か。なのに瑞貴の周りには、神宮寺さんだけでなくあと二人も水準以上の能力者が集まっていたことになる。


 その表にはレンジのみが示されているが、神宮路さんが適性値125超、伊藤君と水島さんも75~125であり、全員スカウトの基準を満たしている。


 これって偶然なのかしら、それとも・・・。


 だがそれ以上に理解できなかったのは、瑞貴の姉とされている前園アリスレーゼの適性値だ。


 妹の愛梨ちゃんが高い適性値を示していたのは当然のこととして、姉の彼女だけが適性値0なんて。


「雨宮主幹、前園アリスレーゼの結果はどう考えればいいのですか」


「90%以上の人間が適性値0だから、それ自体は別に変ではないのだけど、彼女が前園家の人間だということを加味すれば、逆におかしいとは思う」


「実は私、前園瑞貴の幼馴染なんですけど、アリスレーゼなんて人は前園家にいなかったんです。最近ドイツから移住してきたのは知っていますが、彼女はどうも怪しいの」


「・・・どういう風に怪しいの?」


「特に理由はありません。女の勘です」


「女の勘か・・・ふーん、面白いわね」


「藤間主任にも前園アリスレーゼを重点的に洗ってもらっているところですが、私も彼女の近くで色々と調べてみたいと思います」


「私も適性値0の彼女にがぜん興味が湧いてきたわ。戦闘データが取れたら、どんどん私に送ってね」


「もちろんです。見てなさい前園アリスレーゼ、あなたの秘密を暴いて、絶対に瑞貴を渡さないんだから」

次回、修学旅行のはじまり


お楽しみに

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