セリ13歳〜新しい人生〜
「ルー様、凄く似合っています!」
「本当?ホッとしたよ」
卒業式の日、ルー様は、正装を身に纏い、とても大人に見えた。
家族、そして婚約者は、式に参列を許される為、私も一応制服で参加をする。
今日は、先輩方が主役だから、いつも以上に地味仕様。
もう、『空気』を通り越して、『無』じゃないかしら?
それを見つけ出せるルー様の愛の深さ!
私は、感動で打ち震えるばかりよ。
去年の卒業式は、直前にオダマキ殿下の不祥事があったために、とても簡素に執り行われた。
半数の男子生徒が、チューベーローズとの関係を理由に退学させられていたから、人数的にも寂しさが漂うわよね。
でも、噂によると、あの悪女の毒牙にも掛からなかった男性達は、お株急上昇だったらしい。
家格の低さも関係なく、引く手数多の優良物件になった上に、上司達からの評価も頗る高い。
『悟り世代』と呼ばれ、今後の国政を担う人材として熱視線を送られているそうだ。
そして、今年は、更に優秀な生徒も多く、皆の期待も高いのだ!
ルー様とお友達のソレドール様は、騎士団入りが決まっている。
ケイトウお兄様も、文官として採用が決まっていて、忙しく準備をしていた。
ルー様も、お兄様も、暫くは、研修もあるから寮生活になるらしい。
私の顔を見るたびに、二人が泣きそうな顔をするから、こっちまで寂しい気持ちになってしまう。
少し潤んでしまった瞳を隠すように下を向くと、ルー様が、優しく頭を撫でてくれた。
「ねぇ、セリ、お願いがあるんだけど」
「なんでしょうか?」
「コレを、身につけてくれないだろうか?」
ルー様が差し出したのは、かなり年季の入った濃紺のベルベットが張られたジュエリーケース。
中には、エーデルワイスの花が刻まれたシンプルなシルバーリングが入っている。
「うちに代々伝わるもので、この前母上から譲り受けたんだ。君の指のサイズに直させたんだけど、ダメだろうか?」
私は、呆然とルー様を見上げた。
これって、凄く由緒正しき文化財的なものでは?
「母上も、セリなら付けても良いって」
売約済みの札を貼られた賞品みたいなもの?
コレを身に付ければ、家族公認、結婚確約ですよーって。
「い、良いんですか?私で」
「今更、それを言う?僕は、君を逃すと二度と結婚できる気がしないんだけど」
「私もです!」
思わず勢いこんで返事をすると、さっきまで不安げだったルー様が大笑いを始めた。
「ひ、酷い!笑わないでください!」
「ご、ごめん。あんまり可愛かったから」
ルー様は、私を抱きしめて、
「良かった…」
と息を吐いた。
私は、そろそろと彼の背中に腕を回して、お腹のあたりに顔を押し付ける。
生まれ変わった日から十三年経って、やっと私は、本当の意味での新しい人生を歩み始めた。