セリ13歳〜ようこそ、『女神の花園』へ〜
「セリ様!ようこそ、『女神の花園』へ」
セージさんに倣って、後ろに控えていた女の子達も、一斉に頭を下げる。
セージさんと私が共同で化粧品会社『女神の花園』を立ち上げることになった。
今までの貴族向け特注品とは別に、一般人にも手に入れやすいラインを発売するのよ。
まぁ、中身は、ほとんど一緒だけど、おほほほほ。
量産する為にも、今まで以上の人材がいると言うことで、今回彼女達が集められた。
薬草を育てるのも、エキスを抽出するのも一から覚えて、今後更に増えるスタッフの育成に回ってもらうのだ。
「皆さん、初めまして。セリ・ディオンと申します。この事業は、皆さんの腕に掛かっています!よろしくお願いしますね!」
私が声を掛けると、皆、下げていた頭を驚きでパッと上げた。
貴族が直々に平民に声を掛けるなどと思ってもいなかったのだろう。
皆で顔を見合わせた後、再び慌てふためいて頭を下げた。
そんなにビビらなくってもいいじゃない。
こっちは、十三歳の乙女なのよ。
「顔を上げてください。目を見て話さないと、真意は、汲み取れません」
困り顔の私の横で、セージさんがクスクス笑っている。
もぉ、私任せにしないで、少しは手伝ってくださいよ。
「お前ら、顔を上げろ。セリ様は、変わり者だ。平民も貴族も関係ない。気にするだけ損だぞ」
ガハハハハ
いつものように豪快に笑うセージさんに、女の子達も、少し気を許してくれたみたい。
恐る恐る顔を上げて、ぎこちなく微笑んだ。
私は、トコトコと彼女達のそばまで行くと、一人ずつ手を握って、
「よろしくお願いします」
と声を掛けて回った。
ある子は、顔を真っ赤にし、ある子は、涙ぐむ。
ここに集まったのは、孤児院出身の子が殆どだ。
十六を超えると、皆、有無を言わせず外に出される。
その多くは、ロクな仕事につけずに、僅かな賃金で酷使される事が多い。
しかし、我が社では、寮を完備して皆を生活面からもサポートする。
先陣を切って研修を受けてきたセージさん推薦の少女達が、率先して世話をしてくれているらしい。
何故か、彼女達が私のことを「セリ姐さん」と呼ぶのだが、セージさんに理由を聞いても苦笑いするだけで答えてくれない。
あの子達、私より年上ですよね?
「先ず、お願いしたい事があります。自分の体を一番に考えてください」
私の言葉に、皆、不思議そうな顔をする。
頑張る事が当たり前の彼女達にとって、自分の体のことは、いつも二の次なのだ。
「仕事も大事。勉強も大事。だけど、睡眠を削ったり、食事を抜く事は許しません。ちゃんと食べ、ちゃんと寝て、しっかり働いて下さい。良いですね?」
皆、声が出ないのだろうか?
返事はないけど、必死に頭をコクコク上下に動かしている。
良く見れば、涙で顔がグシャグシャになっていて、声を出せないようだ。
実は、この少女達の中に、私と共に娼館で働いていた子が二人ほど混ざっている。
隣国の孤児院に居たのを、セージさんに頼んで連れてきてもらったのだ。
彼は、何故自国でもない孤児院の事情を私が知っているのかなど聞きもしない。
ただ、ジトーッと見つめた後、
「仕方ねぇなぁ」
と一言呟いただけだ。
ほんと、腹の据わった人だわ。
私一人で世界が変えられるなんて思っていないけど、自分と関わった人間を、少しでも幸せにする事は出来るかもしれない。
その一歩として、私は、彼女達を呼び寄せた。
とても愛らしい容姿で気立の良い二人は、娼館では、稼ぎ頭だった。
気丈に振る舞っていたけど、いつも夜中に泣いていたのを知っている。
今日から、安心してベッドで眠ってくれるといいな。
そんな細やかな願いを積み重ねて、少しでも幸せを増やしていけるように頑張ろうと心に誓った。