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(堕)天使と“僕”  作者: 水住うゆに
天使長と“僕”の話
19/19

天使長と休日  本番編2

前々から不思議だったことなのだがちょうどいい、これを機会にきいてみるか。

「なぁ、ミカエル」

「んだよ」

「お前ってお金どーやって用意してんの」

ルシファーにと買い込まれた大量のコンビニスイーツ、そのおこぼれに預かった時ふと思ったのだが。

コイツはいつもどうやって、お金を手に入れているのだろうか。

だってどう考えたって働いてない。天使としては働いているのかもしれないが、日本円が得られるような働き方はしていないはずなのだ。

なのにこうしてコイツは当たり前のように映画のチケットを二人分購入し、コーラとポップコーンを手に席についている。謎だ。

以前ルシファーは、ミカエルにプリンを振舞おうと『旧知の者に連絡を入れて』買ってきてもらっていた。つまり、ルシファー自身は日本円は持っていないんだろう。

ではミカエルは?本人の言葉をまんま信じるなら、自分で買いに行っているようなのだが。

「おいそれ、今聞くようなことか?」

ブザー音。あたりが暗くなる。周りのざわめきが引くにつれて、スピーカーからは身体の芯に届くような音が次々と飛び出す。

…確かに映画見ながら話す内容でもないだろうけど。

ポップコーンをポリポリしながらミカエルは続ける。

「別にな、なんもねートコロから出してるわけじゃねー。天使の中にもいるんだよ、人間界で働いているやつらが」

「え、なにそれ」

長い長いコマーシャル。あ、これテレビでもいってたやつだ。

意識半分にミカエルの話しを聞き続ける。ミカエルも、割とどうでもよさそうに喋り続けた。

「下っ端の天使ってのはな、死にたてぴちぴちの人間だったりするわけだ。で、そいつらはしばらく人間界で金を稼がされる。俺みたいな紀元前から天使やってるやつは、あまりにも人間界のこと知らなさ過ぎて金稼ぎなんて効率が悪すぎるからしねー」

例外もいるけどな、ポリポリ。

「…いや、下っ端天使が死にたてぴちぴちってのもびっくりだけど、その人らに金稼がせてるってのにもびっくりだよ…」

「なんでだ?お前、俺ら天使をなんだと思ってんだ。一応人間守ったりもしてんだぞ。なのにわざわざ人間が定めた通貨ってルールを、ぶち壊してどうすんだ」

今はまぁやんねーけど、昔は人間のフリして一緒に旅したりする場面もあったんだよアレは俺じゃねーけどポリポリ。そのとき『いや、俺天使なんで』とかいって食事しなかったり宿に泊まらなかったりしたらおかしーだろポリポリ。んでもって何かあったとき、『天使だから金払えねー』なんてお前、いえねーだろ普通ポリポリ。

…ポリポリうるさい。どんだけポップコーン好きなんだよ。

「だから俺とか、ガブリエルとかウリエルくらいんなるとな、望めば金が得られるようになってんだ」

「あ、っそ」

「自分から訊いといて興味なさげだな」

「いやもう、ポップコーンのポリポリに意識が邪魔されてんだよ…」

も、お前ポップコーン禁止な。

理不尽な物言いに、ミカエルがなんだよとふてくされる。

映画はいつの間にか始まっていて、冒頭部分をなんとなくで見ていた僕らはいつの間にか話に引き込まれつつあった。



映画の話をしよう。正確には僕の、映画の好みの話をしよう。

まず恋愛系は駄目だ。テレビとかでやっているのはいいが、ミカエルと二人で観たいとは露ほども思わない。次にミステリー、サスペンス。血が出てくるのは駄目だ、人死にも駄目だ、それはミカエルも出来れば遠慮したいらしかった。

ではアクション?派手なのはいいが、素で空を飛び剣を振り回し壁をぶっ壊すミカエルたちにとって、人間のアクションなんてたいしたものではないだろう。ちなみに僕も、あまり心惹かれない。

僕は単純なお話しが好きだ。正義の味方が悪を倒す。困っていた人は救われて終わる。ご都合主義でもいい、ハッピーエンドならば。

その結果僕らは、わりと低年齢層向けの怪獣物を観ていた。の、だが…。

「…」

「…」

…侮ってました。

「…なんつーか、深いな」

「ホントだよ…」

小さい子と、家族連れにまぎれて館の外に出る。映画の余韻がけだるく、僕らのテンションは低い。

けれど。

「俺、もっと真面目に仕事する…」

「うん、僕も…もうちょっと真面目に、家族と向き合ってみるよ…うっ」

「泣くな、ほれハンカチ」

「用意いーな、あんがと」

「ティッシュもあるけど」

「ん、じゃティッシュちょーだい」

90分という短い時間に、よくもまぁアレだけ話を詰め込めるものだ。きちんと勧善懲悪、きちんとハッピーエンド、なのに胸に残る一抹の悲しみ。思わず自分の環境とか重ねて観てしまった。やばい泣く。

幸いというかなんというか、そこら辺の感性が近いらしいミカエルは、涙ぐむ僕を馬鹿にするそぶりも見せない。それどころかハンカチとティッシュを貸してくれる始末。

チンピラなのになぁ。純粋なんだよなぁ。

「飯、食いに行くか」

「ぐ…っす、うん…」

僕はぐすぐすしながらミカエルに手を引かれ、歩き出した。



「…何故アレで泣くのですか」

「正直、わしにもわからん」

「っ、ははっ、ミカエル君たち、面白すぎ…っ!やばいツボった」

「ウリエルよ、ラファエルが笑い死にしそうなのじゃが」

「知らん。…もう俺は帰っていいか…?」


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