冒険者の旅
剣の切っ先を巨大な影に向ける。ゴクリと唾を飲み込もうとしたが、口も喉も熱気でカラカラだった。体から滴る汗も地面に触れた瞬間に蒸発して消えてしまう。辺りを見回してもそこにあるのは仲間の無残な死体だけだった。
突如、影が大きく動く。
(マズい!)
そう思ったおれは防御魔法を唱え始める。そして影が炎を放つと同時に詠唱を完了させた。が、目の前にはちっぽけなシールドが展開されただけだった。
(MP切れ...!)
轟々と燃え盛りながら迫ってくる炎はもう目前だった。おれはそこで意識を手放す。
気が付くと暗く狭い場所に横になっていた。ちょうど人一人分が入れるくらいの大きさの空間だ。目の前の壁を押すとキィという音と共に開き、光が差し込んでくる。壁を乱雑に押し開き、上半身を起こす。
「あ。リーダーも死んだっぽいよ」
「思っていたよりも粘りましたねぇ」
「だから言ったじゃん!70レベのドラゴンに挑むのは無謀だって!」
棺桶から出たおれはワイワイと盛り上がっている仲間のもとに向かう。
「まぁまぁ。そうカッカしないでくれよ。どうしても生でドラゴンを見てみたかったんだ。どうせ生き返るからいいじゃないか」
「はぁ?!アンタが見たかったって理由だけでドラゴンと戦わされたワケ?!初耳なんですけど!」
「だって正直に言ったら絶対に嫌って言われると思ったんだもん...」
「だからといって『病気の子供を直せる素材を取りに行くため』なんて嘘つくのはないわ~」
「そうですよ。同じ男としてドラゴンに対する憧れやロマンは分かりますが、人の良心につけ込むような嘘はダメです」
「うぅ...ごめんなさい...」
この後も一時間くらい説教は続いた。おれはその間ずっと「はい...ごもっともです...」「すみませんでした...」と力ない返事を繰り返すだけだった。
「これに懲りたら次からはしないこと。わかった?」
「はい...これからはもうしません...」
ようやく説教から解放されるようだ。
「気が済んだみたいだし、次のミッションでも決める?」
「そうしましょうか」
「よーし!それじゃあギルドにレッツゴー!」
三人がぞろぞろと教会から出ていく。おれはずっと正座をしていたせいでしびれた足で立ち上がると、ヨタヨタと後ろを追いかけていく。
「ちょっと待てよ!リーダーを置いていくなんて薄情だぞ!」
「ふーん。それが"ドラゴンが見たい"って理由だけで仲間を全滅させた人の態度かぁ」
含みのある言い方に慌てて言い直す。
「す、すみませんでした!どうか置いていかないでください!」
そんなおれを見て三人はクスクスと笑った。
「置いていくわけないじゃないですか」
「そうだよ。早く行こ。リーダー」
おれは三人に追いつき、足並みを揃えて歩き出す。次はどんなミッションにしようか。大型モンスターの討伐はもうこりごりだ。そんなことを話しながら。恵まれた仲間たちに囲まれながらおれは思った。
旅に必要なのは『仲間』だと。




