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彼女にフラレて山を彷徨ってたら妖刀拾った  作者: 綺常 虎依(きつね こより)
二章

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第65話 ただ共に過ごす未来を

残酷な描写あり


 あれから2週間が過ぎた。

 薄暗い部屋のベッド。御堂朱里はそこに腰を掛けながら、あるモノを眺めていた。


 飾り気のないシルバーのスマホ。画面が割れている。

 朱里のモノではない。


 ”ねえ、大丈夫?””生きてる?”なんてメッセージや不在着信が残っている。

 そのスマホは、幼馴染の少年のモノ。先日の件の後、修練場に落ちていた。


 朱里はスマホをぎゅっと握りながら、ベッドへと倒れ込む。


「……」


 思い浮かべるのは、幼馴染の少年のこと。

 今でも信じられない。恋詩が無銘だったということが。

 そして御子だということも。


「凄かったなぁ」


 あの時の少年の姿。

 祖父、御堂十二郎を圧倒する姿。

 その姿を思いだすだけで、全身を高揚感が包む。


「恋詩……恋詩……」


 ああ、なんて運が良いのだろう。


 親の都合で別れた恋人が、愛おしい人が。

 まさか御子として神に選ばれ、あれほどの力を持っているなんて。


 (……今、龍堂にいるんだよね)


 龍堂家。叛鬼衆五家の中で最も特異な家系。

 御子である龍堂偉月、当主である龍堂隆成、その妻である龍堂沙夜という三人の降臨者がいる。力を至上としており、強くなるためなら何でもするとか。色々と黒い話もある。


「……」


 だが、龍堂なら悪くない。彼らなら祖父である御堂十二郎に異を唱えることができる。単純な家格だけなら御堂や叉堂が大きいが、武力だけを考えるなら龍堂は御堂と同じか、それ以上だ。


 祖父はきっと、恋詩にとって害になる。例え御子だと分かっても、どの神の寵愛を受けたかも分からぬ恋詩という存在を、そしてあの異界を開く妖刀を放っておくわけがない。良くて地の奥底に幽閉するぐらいだろう。


 そう考えると、状況は悪くない。

 

(不安なのは、龍堂が何を考えて恋詩を手元に置いたのか)


 御堂家当主御堂十二郎に逆らってまで、そうしたのには理由がある。

 

(いくらでも考えれはする)


 単純に無銘としての武力。異界と通ずる力。

 御子としての力、そして血。

 あの妖刀と恋詩は信頼関係がある。それも踏まえて、二人を利用しようとしているのか。

 

「……」


 まあ良い。

 このまま龍堂家を通して恋詩の立場が固まっていけば、遅かれ早かれ叛鬼衆という組織は恋詩という存在を認めざるを得ない。


(私は私にできることをするだけ)


 朱里はスマホをテーブルに置き、手のひらを上にする。

 

「おいで」


 黒い泡。それが朱里の手のひらから生み出される。

 泡は宙で浮き、様々な形へと変わっていく。


 そして最終的に水銀のような質感を持つ小さな球体へと変わった。


「ふふ、あははははは」


(私たちを神様が応援してくれてるみたいだよ、恋詩)


 球体がくるくると回る様子を、朱里はただ見つめていた。




 

 *




「もうみんな平常運転だね」と四方堂燐が言った。

「……そうだな」悠真はそれに同意する。


 無銘の件があってから2週間と少し。

 全員の治療が終わり、東部総括本部も通常通り機能することとなった。


 会議室には、第6班のメンバー全員の姿があった。

 悠真は端に座っている朱里の姿を見る。


 朱里は静かに古い書物を調べていた。

 あんなことがあったのに普段と特に変わらない様子。


(クソッ)


 その姿を見ていると、朱里があの男のために頭を下げていた光景を思いだす。そして、自らが敗北をしたことも。


 たった一撃。それで悠真は意識を失った。

 目覚めたのは、全てが終わった後であった。


(御子だと……)


 男は、あの妖刀を持つだけではなく、御子でもあるという噂が流れていた。上の様子を見ると、本当のことだろう。

 

 ふざけるな、ふざけるな。

 何故だ、何故お前なんだ。


 神にすら選ばれるというのか。

 

「朱里、本当にもう大丈夫なの?」隊長である椎名が朱里に聞く。

「うん、もうちゃんと使えるよ」と朱里は白い弓を手に出現させる。


 天火明命アメノホアカリノミコト。朱里の神術。

 朱里は力を取り戻していた。


「本当になんでだったのかしら」椎名が呟く。

「それが私にも分かんなくて、急に戻ったんだよね」と朱里。


 そんな時だった。コールが鳴った。

 それは第6班の対応すべき場所に”鬼”が現れたことを意味する。


「みんな、行きましょう」

「「はい」」

 

 急いで輸送車両へと乗り込む。

 悠真の隣には朱里が座ることになった。


 悠真は朱里の手を握った。

 朱里がそれに気づき、悠真を見る。

 朱里は何も言わなかった。


「なぁ」と口が動いた。

「何?」と朱里。そこに表情はない。


 まだ、君はあの男のことを——

 そんな思考が頭にあった。だが、途中で止まる。


「いや、なんでもない」

「……そう」


 情けない。

 聞く勇気すらなかった。


 朱里とあの男のことを想像すると、黒いモヤモヤしたものが心の中で膨れ上がっていくような気がした。


 数分で、現場へと辿り着く。

 そこには明らかに死んでいるであろう一般人の姿と巨大な顎を持つトカゲのような”鬼”がいた。


「最近の”特異形”ではないようですね」と椎名が言う。


 特異形。以前、東部総括本部に現れたような強力な個体。

 だが、”鬼”である以上、何が起こるかは分からない。


 椎名の指示で配置に付き、”鬼”を囲む。

 そして燐の神術を皮切りに、戦闘が始まった。


「悠真、仁、二人はまず後ろ足を!」椎名から指示が飛ぶ。

「「了解」」鬼の後ろ足に刀を振るう。


 だが、弾かれる。鱗。それが刀を阻んでいる。


「ちっ、隊長。こいつ、外皮が相当硬い!!」仁が叫んだ。


 ”鬼”が二人を煩わしそうに、尾を振るう。

 

建御名方神タケミナカタノカミ

 

 悠真は神術を発動する。

 武の神の力によって身体が軽くなる。


 避けることは容易い。


「朱里、準備は!?」椎名が叫ぶ。

「お姉ちゃん! 大丈夫!」

「みんな、神術の範囲から退きなさい!」


 その声に従い、後ろへ下がる。

 そして、光の矢が射出され、”鬼”を貫——


 かなかった。


「え」


 悠真は何かが足元を通った気がした。

 視線を下に向ける。


 左足がなかった。何かで削り取られたかのように、膝から下が消失していた。血。赤い多量の血。


 バランスを崩し、その場に倒れる。


「ゃあああああああああああああああああああああああ」

 

 悠真はそれを認識し、叫び声を上げた。

 ない、足がない。何故、何故、何故。


 狙いを間違えた? 失敗した?


「あぁぁぁ、どうしてっ、朱里、なんでっ」


 弓を構えたままの朱里を見る。

 朱里は、先程までの表情と変わらず静かにこっちを見ていた。


 悠真はその顔を見て理解した。朱里が狙いを間違えたのではないということに。


「ハァッ、助けてくれ、隊長! 仁! 朱里を止めてくれ!!」


 仲間の返事がない。周囲を見ると、仲間たちは虚ろな目を浮かべ、ぼーっと立っているだけであった。


 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。

 何が起きている?


 なんで、今俺は足を失って倒れている?

 熱い。熱い。足にずっと熱湯を掛けられているように熱い。

 頭がどうにかなりそうだった。


「やめてくれ、隊長、みんな、なんで」


 返事はない。

 人形のように仲間は、悠真を見る。


 朱里だ。朱里が何かをしたのだ。


「朱里、なんで……そんなに、そんなにも俺の事が嫌いだったのか」


 悠真は泣きながら朱里に問いかける。


「そんなことないよ」朱里は言った。やはり他の皆とは違い、意思がある。


「なら、なんで」


 こんなことをするんだ。


「でも……好きでもなかった。本音を言えば……どうでもいいって感じかな」朱里は、感情を浮かべずただ言葉を綴る。


「は? え」


「ただね……あなたは、私と恋詩にとって邪魔なの」


「嘘だ……そんな」


「だから死んで?」朱里は少しだけ微笑みながら、悠真に言った。


「ま、待ってくれ!! 嫌だ、やめてくれ、嫌だ、死にたくない」


 後ろから巨大な気配が近づいてくるのが分かる。

 上を見上げると、”鬼”が涎を垂らしながら悠真を見ていた。


「やめて、くれ。頼む、助けて……たす——


 衝撃が悠真を襲った。

 そして悠真の意識は、消失した。




 

 



 ”鬼”が悠真を捕食した。

 彼の血が、口の間から流れ出ている。

 

「ちゃんと食べてね」


 朱里は”鬼”が悠真だったモノを咀嚼するのを眺めながら、ポッケからスマホを取り出す。幼馴染の少年のスマートフォン。


 そしてそれを両手で持ち、頬に当てた。

 頬ずり。少年のことを強く感じられるように。


「恋詩、また一つ邪魔なのが消えたよ」


 一人呟く。周りの人間は未だ、反応しない。


「今度は失敗しないから……私たち、ちゃんと幸せになろうね」


 朱里は未来を思い浮かべていた。

 幼馴染の少年と、ただ共に過ごす未来を。










 第二章 了

 


ここまで読んでいただきありがとうございます! これで2章は一旦終わりです。面白い、続きが気になると思ってくれたら★評価、ブックマーク、感想良ければお願いします(*´ω`*)! 3章の更新については色々悩み中なのですが、ぼちぼちやっていくと思います。ゆっくりかもしれないんですけど完結させるので、よろしくお願いします! では!

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― 新着の感想 ―
ここから先も楽しみ…! 二章もいい読み物でした!
いやぁぁぁぁっ!?裏切りにヤンデレ属性がついた!?
更新お疲れ様です。 やべえ、朱里女史が完全に『伝説の超ヤンデレ』に進化?してしまったで御座る…!? おいクソジジイ、恋詩くんに手を出したせいで鬼以上のヤバい存在が誕生したかもしれんぞ…!?どう責任取…
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