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彼女にフラレて山を彷徨ってたら妖刀拾った  作者: きつねこ(仮)
一章

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第5話 彼らは、自らを”叛鬼衆”と呼んだ


 空中に血が舞う。

 住宅街で火蓋を切った異形と人間の戦いは、その激しさを増していった。


 交差する銀の線。

 化け物を貫く、黒の槍。

 ひび割れる道路。


「凄い」


「あれは……」


 戦いの光景を見て、影静は少しの間無言になった。

 何かを考えているようであった。


 戦いの戦況は、どちらも一進一退であった。

 傷を多く与えているのは、陰陽師(仮)側なのだが、化け物はすぐさまその傷を再生させ、その図体からでは想像できぬ速度で、彼らを襲っていった。


「なあ、影静。あれは元は人間だったていうのか」


 俺は影静と出会ったあの寺で聞いたことを思い出していた。


 俺が言ってるのは陰陽師(仮)のことではない。

 下で狂ったように暴れている、魔女のような顔をした化け物のことだ。


「はい、おそらく人間だったのでしょう。通常種だったのかはわかりませんが」

「……」


 影静たちの世界には、人間は複数種いるらしい。

 白人や黒人と言ったものではなく、漫画で言う亜人とも呼ばれる存在がいて、大陸で生活しているそうだ。それを昨日、俺は影静から聞いていた。


「……狭間を通ったから?」


「はい、狭間を通れば命あるものは、その魂から狂わされます、それは戻ることはない」


「でも俺は?」


「前にも言いましたが、恋詩、あなたは特別だ。きっと世界中であなた一人だけがあの世界を通って無事でいられる」


 何故、俺だけ無事なんだ?

 俺は特に何もしていない。

 生まれてから、いままで、そんな超常現象には関わったことはない。


 俺はあることに気づいた。


「……あの穴は、あの狭間へと繋がる裂け目は、どこに」


「もう消滅しています。あれはいつどこに現れるかわかりません……いつ消えるのかも、そして周囲にあるものを飲み込み、闇へ誘う」


「災害みたいなもんか……」


「はい、止める方法は今の所ありません……」


 戦いは未だ終わらず。

 その激しさを増している。


 そのとき、キリィンと影静が震えた。


「恋詩、これは少しまずいかもしれません」


「どうしたんだ?」


「ここからそれほど離れていない場所で、アレと同じ存在が現れました、おそらく彼らはまだ気づいていないでしょう」


「俺たちでやるしかない……か」


 放っておけば、彼らが気づくまでに幾人かの死者がでるだろうと影静は言った。

 となれば、選択肢は一つだ。


 俺は妖刀――影静を強く握った。








 彼らは、自らを叛鬼衆はんきしゅうと呼んだ。

 古より、”鬼”から人を守り、俗世を見守る退魔の組織。


 その歴史は古く、鎌倉時代まで遡り、現代まで"鬼”の魔の手から人を守ってきた。陰陽師と呼ばれていた時代も存在し、今ではその名を、叛鬼——鬼に逆らう者とした。


 だが、ただの人間に、”鬼”は倒せず、出逢えばただ殺されるのみ。

 そこで、彼らの祖先は、2つの技を生み出した。

 一つ。


——灯気術とうきじゅつ


 人間に、許された制限を、外し身体能力を数倍まで向上させる技術。だが本来あった制限を外すということは、その身を滅ぼすことと同義である。そこで彼らの祖先は、考え、それを薬――大陸より伝わっていた漢方により、補うこととした。


 現代の言葉で言い換えれば、赤子の頃からの薬物によるドーピングと、心の枷を外す特殊な自己の催眠を行い、身体能力を倍増させる技術それが”灯気術”と彼らが呼んでいるものだった。


 その拳は鋼のように固く、その脚力は一歩で5丈を超える。

 5丈とは、メートルに換算すると15メートルほど。


 その技術により、彼らは鬼と渡り合えるようになった。


 現在、全国に388人の叛鬼師が存在し、その一人、四方堂しほうどう大我たいがは、目の前の鬼を強く睨んだ。


 毛の抜けた鶏のような身体に、老婆のような顔。

 体躯は大きく、体重を載せてぶつかれば即死は免れない。


「隊長、どうしますか」


 隣で、妹の四方堂しほうどうけいが言った。

 今回の”鬼”は、異様なまでに強かった。


 特出すべきはその再生力、斬っても斬ってもそれは致命傷にならず、数秒でその傷が塞がる。

 終わりのない化け物。


「俺が加具土命カグツチノミコトを使う」


「……、了解しました」


 四方堂京は、悲痛に顔を歪めながらも兄の言葉を受け取めた。


——神術しんじゅつ


 それは灯気術と並ぶ、叛鬼師の技。

 灯気術は心と身体に関連する技術。


 だが、神術はそうではない。

 神術とは、己の、”魂”を代償に、現実へ作用する、まるで神如き御業である。


 己の”魂の一部”を、現象として外へ発現させる。

 その魂は、二度と生まれ出ること叶わず——と古く伝えられている。


 加具土命《 カグツチノミコト》とは、彼、四方堂大我の神術の発現であり、イザナギとイザナミの子である火の神を冠した名である。


「炎術槍——カグツチノミコト」


 それは、空中から現れた。

 まるで空を切り裂くように、佇む炎。


 それは、触れたものすべてを燃やす紅蓮の槍。


 そして紅き閃光が住宅路を貫いた。









「京、損害は」


「阿形が腕一本、仁が両腕を、”鬼”に食べられました」


「ということは、腕3本と俺の1回分か……」


 大我は、煙草を吸いながら今回の”鬼”の出現について思案していた。


(少ないほうだ)


 率直に思った。

 あれほどの鬼を、倒すのにそれだけの損害で済んだのだ。


 良かった以外の何物でもない。

 一月に”一度”現れる”鬼”と呼ばれる存在。


 それを狩る叛鬼師は、入れ替わりが特に激しい。

 非公式に国からの援助も受けているが、生命を対価にするのだ。

 割にあっていなかった。


(クソッタレな職業だよな……)


 ここ最近、”鬼”の出現率が高くなっていた。

 数十年前は三ヶ月に一度ほど間隔が空いていたはずだ。

 それが今では一月に一回。


(いつ、世間様にバレるかわかんねえな)


 鬼道が開けば、その周囲の普通の人間はしばらく気を失う。

 それにより、今まで世間が”鬼”の存在に気づくことはなかった。

 だが、鬼道が閉じれば、人は眼を覚まし、”鬼”がその場から移動すれば簡単に見つかってしまう。


※鬼道——”鬼”が現れる黒い裂け目。


 未だに、”鬼”の存在は世間に知られていない。

 だがそれも時間の問題であった。

 このまま、”鬼”の数が増えていけば間違いなく、世間は突如現れる”化け物”の存在に気づく。


「そんときは、このブラックな職場が改善されるかねえ」


 大我は、車に凭れながら大きく煙草の煙を吐いた。

 

 そのとき、コールが鳴った。




 横目で見ると、大我の妹である京が、電話をとっていた。

 おそらく、本部からであろう。


「そんな、ありえない」


 京が、切羽詰まった声を出した。

 それを見て大我は珍しいと思った。

 妹が、あんなに感情を表した声で話すのは久しぶりだ。

 その声は、到底信じられないことを聞いた、そんな声だった。


(あぁ、面倒だ)


 大我は思った。


 京が会話を終了し、こちらを見た。


「もう一体、”鬼”が出現しました」


 そんな馬鹿なという声が、他の隊員から聞こえた。

 大我も同じ気持ちだった。


「場所は?」


 大我は、驚きながらもそれを顔には出さず、京に聞いた。

 その眼は、さきほどまでのリラックスしたものではなく、戦士の眼であった。


「ここから南西4キロ先、天銅橋付近です」


「聞いたか? 十秒で出発の準備をしろ! 阿形と仁はこっちに置いていく、相馬は、救護班に連絡、宗一郎、残りの武装の確認、京はそこまでのルートの確認、それら以外は、すぐに車に乗り込め!」


「「「了解」」」









「マジかよ」


 思わず言葉が口から漏れた。

 そこにあったのは、血、血、血。

 数分でそこに到着した大我たちがそこで見た光景。


 だが人間の、人の血ではない。


 ”鬼”の血と肉片が、べっとりとまるで絵を描くように橋の下の壁に張り付いていた。


 ”鬼”は完全に絶命していた。





お読みいただきありがとうございます。面白い、続きが気になると思ってくれたら★評価、ブックマーク、感想良ければお願いします! 作者の執筆意欲の源なので!

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