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彼女にフラレて山を彷徨ってたら妖刀拾った  作者: きつねこ(仮)
一章

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3/20

第3話 今でも信じられない体験だった



「おいおいおい」


 やべえ、足はもうまじで動かねえぞ。

 死。それがすぐ近くまで迫っている。


 あの鬼のような化け物は姿が変わっていた。

 人間の死体が巻かれていた薪置きのようなものを背負っていなかった。


 だがその代わり、5メートルはあるだろう巨大な斧を右手に引きずっていた。


 こちらを見ていたその目には、明確にこちらを逃さないという意志が感じられた。前とは違い、いたぶるのではなく、明確な殺意のようなものが感じられた。


「恋詩、決断してください」


「こんなときに何を」


 俺が、未だに逃げないのは、足がもう全く動かないからだ。

 完全に俺の身体は限界を迎えていた。


「佐藤恋詩。私は、あなたを元の世界に返す、その代わり、私とあるものを探してください、それが私の契約です」


 刀が何を言っているのかわからなかった。

 それどころではなかった。


「ッああ、帰れるならなんでもいい! けど、もう」


 今にも、あの鬼はその斧を振り上げて飛びかかってきそうであった。そしてその予感はあたり。鬼が一歩目を踏み出した。

 だんだんと向かってる鬼。歩くたびに轟音と共に土埃が舞った。


「恋詩、私を持ってください」


 俺は言われるがまま、刀を持った。


「ここに契約は結ばれました。恋詩、これから私はあなたの剣となりましょう」


 刀を握った瞬間、何かが俺の中に入ってきた。

 強大な何か。


 目の前では、鬼のような化け物がもう斧を振り上げていた。

 あと一秒もしないうちに俺の生命は消えるだろう。

 世界がスローモーションのように見えた。


 思わず目をつぶる。


「……ん?」


 3秒経っても俺の生命は消えていなかった。

 目を開けるとそこにあったのは信じられない光景だった。


 巨大な斧は止まっていた。

 いや止まらされていた。

 俺の左腕に。

 正確には俺の左手にある刀に。


「身体が勝手に」


 俺の身体は勝手に動いていた。


「少し身体を借ります」


 奇妙な感覚だった。

 身体の中に骨じゃない何かがあるような。

 不思議な感覚。


「あぁ、それにしても運がいい。こんなところに上質な”力”があるなんて」


 刀は言った。

 その声はさっきまで聞いていたのと違い、どこか妖しい魅力を宿していた。


 鬼のような化け物の力が強くなる。

 その鼻息がすぐに近くで感じられる。


 化け物が怒り狂っていた。

 目は、充血しこちらを強く睨んでいる。


「……このままでは10秒も持ちませんね」


「へ、持たないって」


「大丈夫、安心してください恋詩」


 10秒もかかりませんと刀は言った。

 そして俺の身体から力が抜けた。


 死ぬと思った瞬間、俺の身体のすぐ横を斧が通り過ぎた。


 そこから先は一番近くで見ているはずなのに、何もわからなかった。


 目の前で剣と斧の嵐が吹き荒れている。

 そう思うほどの剣戟だった。


「死になさい」


 気がついたときにはもう化け物の生命は消えかけていた。

 鬼のような化け物の首に刀が触れた。

 そして刀が首を切り裂いていった。


 その瞬間だけがスローモーションのように俺の眼に映った。


 化け物の身体は力を失いゆっくりと後ろに倒れた。

 ぽうっと何かが化け物の死体から抜けた。

 魂のようなもの。それを理解した。


「何か」


「それが力です恋詩。これがあればあなたは元の世界へ帰れますよ」


 化け物の体からでた光が刀にまとわりつき消えた。

 それが、刀の力になったのだと感覚的に理解した。


「そういや、さっき言ってた契約っていうのは」


「そのままの意味です。私はあなたを元の世界に帰す。その代わり私の捜しものに付き合ってください」


「捜し物って?」


「私の記憶です、それに力」


「記憶って」


「私にはこの刀になる前の記憶がありません」


「元は人間……だったのか」


「それもわからないのです。人間だったのかもわかりません。ですが私にはこの刀になる前、誰か大切な人がいた気がします」

「なるほど、でも記憶を探すって」


「……きっと誰かが持っているそんな気がするんです。私の生前の力も」


 俺はぶっちゃけよくわかんなかった。

 でも、自分がすべきことだけは理解していた。

 

「よくわかんねぇ……けど」


 俺は一度言葉を止めて、ちゃんと刀を見た。


「ありがとう、生命を救ってくれて」


「……怒らないのですか?」


「怒るってなにが?」


「あんなときに契約を迫ったことです」


「あー、まあちょっと思ったけど。でも助けられたのは事実だ。あんたがいなきゃ俺は間違いなく死んでいた」


「……」


「それに……なんでかわかんねえけどあんたになら騙されてもいいと思った」


 自分でもわからないが、俺はこの影静と名乗る刀に妙な好感を抱いていた。助けてくれた恩もあるのだろうが、この刀の力になりたいと思ったのだ。


「……恋詩、ありがとう。できる限り、私はあなたの力になりましょう、ではさっそく恋詩の世界に帰りますか」


「もう……帰れるのか?」


「はい、さっきので十分力は集まりました」


「じゃあ頼む」


 俺はこの日のことを一生忘れないだろう。

 彼女にフラレて、世界を移動して化け物に襲われて、奇妙な喋る刀を拾った。


 色んなことがありすぎた。


 そう思っていると、急に地面が不安定になった。


 気がつけば、また全てが闇の世界にいた。


「恋詩……大丈夫、私をしっかり握っていて下さい」


 でも今度は一人じゃなかった。

 俺の手にはしっかりと刀が握られていた。


 そしてすぐにまた世界が変わった。

 今度は、見慣れた光景だった。

 ビルがあり、車が道を行き来し、化け物なんてどこにもいない。


 あそことは空気から違う。

 戻ってみるとそれが感じられた。


 砂場、遊具、ビル、タコの滑り台。

 そこは見覚えのある公園だった。あたりはまだ夕方であった。

 滑り台では子供が数人遊んでいた。こちらに気づいている様子はなかった。


「帰ってきた……、ここ家の近くの公園だ」


 あの山からも自宅からもそう離れていない公園だ。

 俺は帰ってきた安心感からか、足から力が抜け、腰が抜けた。


 今でも信じられない体験だった。

 でもそれが嘘じゃないのは、左手にある刀が証明していた。






「これからよろしくお願いします。私の契約者、佐藤恋詩」


 刀は凛とした声で俺に言った。

 俺もそれによろしくと答えた。

 













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