表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は女騎士の専属ヒーラーのはずなのに…なぜか“世界の破壊システム”の理不尽も治療する  作者: 積と和〝
第一章 異世界の村

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/39

第6話 最初の依頼、そして“異常な報酬”

村に来て数日。

俺たちの生活は、少しだけ“日常”になり始めていた。


治療依頼。

魔獣警戒。

ジャスミーの小爆発。

セローナの容赦ない訓練。

サンガーデンの無言の観察。


そして――リーナの差し入れ。

「ジネンさん、これ今日のパンです」


「ありがとう、助かります」


「……また来てもいいですか?」


「いつでもどうぞ」

そう言うと、リーナは嬉しそうに笑って帰っていく。


その背中を見ながら、ふと思う。

(ここ、悪くないな)

そう思えた時点で、もう十分だったのかもしれない。



あの日からだった。

ジャスミー爆発事件。


リーナは村で一番よく俺のところに来るようになった。

薬草を持ってきたり、水を汲んできたり。


「ジネンさんが疲れないようにって」

そう言って、笑う。


その笑顔は、少しずつ変わっていった。

ただの感謝から。

安心へ。

そして、確かな“好意”へ。


そしてもうひとつ。

リーナの父親は、村でこう言うようになる。

「俺たちは助けられた命だ。あの青年がいる限り、この村は救われる」


それは村全体の意識を変えていった。

“助けられる側”ではなく、“助け合う仲間”へ。


そしてそれは――

後に俺が何を選ぶかの、静かな土台になっていく。



夜。

宿の前。


リーナが小さな声で言った。

「……ジネンさん」


「ん?」


「どこか遠くに行っても……」

少しためらった。

でも強く、震えながら。

「……必ず、帰ってきてください」

その言葉に、俺は少しだけ目を見開いた。


リーナは続ける。

「私はここで待ってます。だから……」

泣きそうな顔で、それでも笑う。

「約束、してください」


セローナも、ジャスミーも、サンガーデンも黙っている。

風だけが吹いていた。


俺は少し考えてから――

「……わかりました」

頷いた。

「必ず、戻ってきます」

それは軽い約束じゃなかった。

この世界で初めて“誰かに求められた帰る場所”だった。


リーナは小さく笑った。

「……はい」

その笑顔は、少しだけ恋の色をしていた。



そんなある日だった。


「依頼が来た」

セローナが紙を置く。

村長からの正式な依頼書だった。


「隣村の鉱山で負傷者が多数出ている。治癒能力者の派遣要請」


「俺か」


「お前だな」

間髪入れずだ。

「ジャスミーとサンガーデンも同行する」


「え、あたしも!?」


「当然だ」

セローナは迷わない。


そして最後に一言。

「……嫌な予感がする」

その言葉だけが、妙に引っかかった。


鉱山は村から半日ほど離れた場所にあった。

到着した瞬間、空気が重いとわかる。

人が倒れている。


だが――

「……妙だな」

サンガーデンが静かに呟く。

「傷の種類が不自然」


「魔獣じゃないのか?」


「違う」

彼女は即答した。


「“人為的”だ」

その言葉で、空気が一気に変わる。


坑道の奥。

そこには負傷者たちがいた。

だが――違和感。


治療している“ふり”の人間たち。

やけに整った設備。

そして、妙に清潔すぎる空間。


「お待ちしておりました」

奥から現れた男は、柔らかい笑みを浮かべていた。

「聖・女神教、治癒支援部門の者です」


「聖・女神教……?」

ジャスミーが小さく呟く。


サンガーデンの目が細くなる。

「出たな」

その声は冷たい。


「負傷者の治療をお願いしたく」

男は丁寧だった。

だが――どこか歪んでいる。

「報酬もご用意しております」

そう言って差し出された袋。

中には、見たことのない金属札。

そして――異様に高価な魔石。


「これは……」


「我々は能力者の支援を行う組織です」

滑らかな説明。

だがセローナは一歩も動かない。

「お前たちの“支援”は信用できない」

即断だった。


男の笑みがわずかに崩れる。


治療は進んだ。

だがその途中、俺は気づく。

(……治癒が妙に効きすぎる)

単なる怪我じゃない。

魔力の流れが“操作されている”。


誰かが意図的に“壊している”ような傷。


「ジネン」

サンガーデンが小声で言う。

「ここは危険だ」


「わかってる」

だが、その時だった。

背後の扉が閉まる。

ガチャン、と重い音。


「……っ」

ジャスミーが振り向く。

「え、ちょっと、これって――」


男が微笑む。

「ご協力、感謝します」

その声はもう、さっきとは違っていた。

「能力者の回収は順調です」


「回収……?」

セローナの剣が抜かれる。

「貴様ら、何をしている」


男は笑う。

「“女神の器”を集めているだけですよ」

一瞬で空気が変わった。


奥の壁が開く。

そこには――

眠るように横たわる“人々”。


だが彼らは、普通ではない。

魔力が異常に抜かれた痕跡。

意識が戻らない状態。

そしてその中心には、淡く光る魔法陣。


「女神は、もうすぐ目覚めます」

男の声が低くなる。

「そのための“素材”が必要なのです」


「……ふざけるな」

セローナの声は低い。

「人を何だと思っている」


「人?」

男は首を傾げる。

「ただの器ですよ」


その瞬間だった。

裏口が開く。


「……っ!?」

外へ逃げようとする影。

それは――村人だった。

リーナと同じくらいの年の少女。

「助けて……!」

叫びながら引きずられていく。


「リーナじゃない……でも――」

似ている。

嫌な想像が頭をよぎる。

(これ、村にも――)


「行くぞ!」

セローナが動く。

ジャスミーが魔法を構える。

サンガーデンが弓を引く。


そして俺も――

「ヒール!」

光を放つ。


拘束された少女の腕の“異常な拘束魔法”が解ける。

「……っ!」

男の顔が初めて歪む。

「なぜ解除できる……!」


「知らねぇよ」

俺は一歩前に出る。

「でも、それは人にやることじゃない」


その言葉を合図に、戦闘が始まる。

だが男たちは撤退する。

目的は“治療”ではない。

確認だった。

「やはり……お前が“核”か」

男は俺を見て笑った。

「治癒の異物……実に興味深い」

そして最後に言い残す。

「次は“回収対象”として扱いましょう」


その瞬間。

冷たい気配が走った。


撤退後。

坑道は静かになっていた。

だが残された痕跡は、あまりに異常だった。


「……聖・女神教」

サンガーデンが呟く。

「やはり動き出したか」


「知っているのか」


「昔から存在する“集団”だ」

彼女の声は冷たい。


「女神を復活させると言いながら、人を“素材”として扱う」


ジャスミーが顔を青くする。

「それって……宗教じゃなくて……」


「実験組織だ」

セローナが言い切る。



帰り道。

誰も多くは語らなかった。


ただ一つだけ。

俺は気づいてしまった。

(これはもう……ただの田舎の治療じゃない)

狙われている。

そして――

リーナの村も、いつ巻き込まれてもおかしくない。


夜、村に戻るとリーナが待っていた。

「おかえりなさい」

いつもの笑顔。

でもその笑顔が、妙に怖く見えた。

(守らないと)

そう思った瞬間。

この世界で生きる理由が、少しだけ“形”を持った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ