第1話 社畜、異世界で“人の役に立つ”ことを選ぶ
毎日投稿の予定です。今日は2話投稿します。
プロローグ
「誰か来てくれ! 死んじまう!」
村に入った瞬間、血まみれの男が倒れていた。
助からない空気。
誰も動けない空気。
……でも。
「――俺がやります」
気づけば、前に出ていた。
「ヒール」
手をかざした瞬間、光が溢れる。
ーーーーーー
第1話
――目を開けた瞬間、俺は草の上に転がっていた。
「……えっ?」
視界いっぱいに広がる、現実離れした青空。
ついさっきまで、いつ終わるともしれない残業をしてたはずでは…?
俺、加賀自然(24歳・社畜)。
状況――完全に意味不明。
「……異世界転移、か?」
そう呟いた瞬間。
――ピロン。
頭の中に、軽い電子音が鳴った。
【スキルを獲得しました】
治癒
「……終わったな、俺」
攻撃なし、防御なし、ちっとも自分を守れない。
異世界では生きていけないだろう。
――そう思っていた数分後。
「誰か来てくれ! 死んじまう!」
村に入った瞬間、血まみれの男が倒れていた。
助からない空気。
誰も動けない空気。
……でも。
「――俺がやります」
気づけば、前に出ていた。
「ヒール」
手をかざした瞬間、光が溢れる。
そして――
「……治った?」
裂けた傷が、一瞬で消えた。
ざわめく村人たち。
信じられないものを見る目。
そして。
「ありがとう……!」
必死に頭を下げてくる男。
その瞬間、胸の奥が熱くなる。
(……なんだよ、これ)
社畜時代、一度も感じたことのない感覚。
――役に立った、って実感。
「……悪くないな」
回復しかできないスキル。
でも。
“誰かを救える力”があるなら――それでいい。
⸻
次の日の早朝。
俺は村の一角に用意してもらった小さな部屋で、ひとり天井を見上げていた。
あのときの、みんなの顔。
「……本当に、悪くないよな」
むしろ前の世界より、ずっといいかもしれない。
理不尽に怒鳴られることも、終わらない残業もない。
代わりにあるのは、自分の力で誰かを助けられる実感だ。
だったら。
「……のんびり生きるか」
飯が食えて、静かに暮らせるなら――
「それで十分だろ」
そう呟いたとき。
窓の外から、誰かの声が聞こえた。
「ヒーラー様ー! ちょっといいですかー!?」
どうやら、もう仕事が来たらしい。
「……早いな」
苦笑しながら立ち上がる。
――社畜はやめた。
これからは、“人のために生きる”ことにする。
――このときの俺は、まだ知らなかった。
この《ヒール》が、
戦場の常識も世界の均衡も、全部ぶっ壊す力だってことを。
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