4話 食堂
男から鍵を渡され、2人は階段を上がり2階に向かった。ドアの前を通る度に部屋から声が聞こえてくる。2人が一番奥の部屋の扉の前に立ち、ベルが鍵でドアを開けると、そこは簡素だが清潔な部屋だった。ベッドが壁際に2つあって、間に小さい机といった配置で、2人なら十分に過ごせそうな広さだ。上にシャンデリアがぶら下がっている
「さてと、時間はまだ昼過ぎですね。ゆずきはお腹空いていますか?」
「うーん…。お腹は空いてるんだけど、この世界の食べ物ってどんな感じなの?」
ベルは手を顎に当て、少し考える素振りを見せた。やがて手を下ろし、ゆずきの方を振り向く
「基本的にはどちらの世界も食文化は大差ないですよ。肉料理などもちゃんとありますが、ゆずきの世界であったようなラーメンや寿司などの食べ物は流石にありません」
「あ~…なるほど。ハンバーグとかはあるってこと?」
「はい。洋食は大体こちらの世界でも似たような物があります」
2人は早速街でご飯を食べる場所を探す事にした。そして匂いに釣られたゆずきが急に走り出した
「ゆずき!急に走り出さないでください!」
ゆずきはそのまま走り続けるので、ベルは額に手を当て、ため息をついてから追いかける
するとゆずきはとある店の前で立ち止まっていた。ベルがゆずきの隣に立ち、看板を読んだ。そこにはこっちの世界の言語で「肉塊食堂」と書かれていた
ゆずきは操られたようにドアを開けた。中は人で賑わい、この時間帯から酒を飲む客が多くいた。店内を見渡したところ、接客は女性、料理は男性といった役割だ。厨房では男達がフライパンで肉を焼き、女性がそれを客の元に運ぶ。その光景を眺めていると受付の方から誰かが声をかけた
「あ…お好きな席にどうぞ!」
にこやかに2人を迎えてくれたのは30代頃に見える女性。どうやら店主の様だ。オレンジの髪を後ろで束ねていて、少し気が強そうで美人だ。そしてゆずきの目が向かったのは胸元―――
バシンっ!
「ゆずき…あなた何処見てました?」
ベルがゆずきの頭を叩いた後で両手を腰に当てため息をついた。そして自身の胸元を見て、更に深くため息をついた
そして一連の流れを店主は見ていた。そして笑いを堪えるのに必死なようで、両手で口元を覆っていた
「若いって良いわねぇ…」
するとゆずきがにこやかに笑って答えた
「はは、ヤダなぁ!店主さんだって若いじゃないですか!」
「そう?私こう見えて40超えてるのよ」
「へぇ―――ん?」
その言葉にゆずきの笑顔が固まる。そして目を見開いて店主の方を見た
「よ…40…」
すると店主が受付から出てきてゆずきの背中を押した
「ほらほら!女の子待たせちゃ駄目よ」
そして2人は窓際の席に座った。他の客席からは少し離れており、窓からは町中を歩いてる人々が見える。すると店主がスッとメニュー表を差し出した
「決まったら呼んでちょうだい!私の事は気軽に「美人なお姉さん」って呼んでね!」
「分かりました!美人なお姉さん!」
すると店主が驚いたように目を見開いて、すぐに笑い出した
「あはは!あんた面白いわね!「ラビ」って呼んでくれれば良いわよ」
そう言うと、他の客の注文を聞くために、離れた席の方へ向かって行った
「よし!早速メニュー表を…」
ゆずきがメニュー表をめくると、こちらの世界の文字で「肉塊焼き」「肉塊串」「棒状揚げ芋」などが書いてあった
「じゃあ飲み物…僕はこの「シュワシュワジュース・黒」で!ベルは?」
「私は食べなくても生きていけますが…そうですね。食べないというのは少々店側に失礼です。では「シュワシュワジュース・無」をいただきます」
「オッケー!ラビ〜!」
するとすぐにラビが駆け付けてきた。どうやら他の客の接客を終えたようだ
「決まったの?」
ゆずきがメニュー表を指で指しながら注文する。こうする事で相手には内容が伝わりやすいのだ
「えっと…肉塊焼き、肉塊串、棒状揚げ芋、シュワシュワジュース・黒、シュワシュワジュース・無でオッケー?」
「はい」
するとラビは厨房に注文を伝える為に厨房に入って行った
「ベルってさ、神様って言ってたけど…何歳?」
するとベルは少し間をおいてから、そっぽを向いた
「女性に年齢を聞くなと教わりませんでしたか?」
「………」
うん…ごもっともだし、これ以上の詮索はやめておこう…
「あ…じゃあ!お面の下の顔どうなってるの?」
「お面、ですか…」
暫くの間、気まずいとも言える沈黙が流れる。そしてその沈黙を破ったのはゆずきだ
「やっぱいいや、見ないでも」
「おや…?やけにあっさり引き下がりますね」
するとゆずきは、さも当然かのような顔をした
「だって、見られたくないから付けてるんでしょ?お面」
その言葉に、ベルが動揺したことが見て分かる。でもどこか嬉しそうな反応だ
「ゆずきのそういう所…好きですよ」
何故かは分からないが、僕はたった今、ベルが狐の面の奥で微笑んだ事を感じ取った―――だから少し申し訳ない。分かりやすく言うと、僕がベルへの気遣いで「お面を外さないでもいい」って言ったのは確かに事実。だけど「お面の下の顔どうなってるの?」と聞いた直後に「味方に正体不明の人がいるとか、なんかカッコイイ」って思ったのも事実。僕はどっちの感情からあの言葉が出たのだろうか…。取り敢えずベルには黙っておこう




