女心がわからないくそ野郎なんですのぉ~
「ところで、アイリス様専属の侍女ですが、ご実家からは特にお連れにならないとお聞きしまして……失礼ながらこちらで選ばせていただいたのですが、紹介させていただいてもよろしいでしょうか?」
声をかけられ、はっとした。前髪に手を持っていく。
「専属の侍女なんてつけていただけるのですか……?」
「ええ、アイリス様は旦那様の奥方になられるお方ですから。お呼びしても?」
私はこくりと頷く。
「マリー、入りなさい」
アーガイル様が扉に向かって声をかけると、コンコンと扉をたたかれた後、女性特有の甘ったるい声が聞こえた。
「失礼しま~す」
現れたのは、ふわふわの栗色の髪を2つに結び、黒のくりっとした甘い大きな瞳をもつ女の子だった。
「アイリス様、こちらがアイリス様の専属侍女のマリーです。ふざけたしゃべり方をしていますが、仕事は早く丁寧で、口は堅い、優秀な女性です。重要なことは拷問されてもしゃべらないでしょう」
「アイリス様~私マリーと申しますぅ~。これからよろしくお願いしますねぇ~それにしてもアーガイル様~、ふざけたしゃべり方ってひどすぎますぅ~」
「間違っていないと思うが? 」
二人のやり取りにあっけに取られてマリー様への挨拶を忘れていた。
前髪を押さえる手に力が入る。
「初めまして、マリー様。これからよろしくお願いいたします」
マリー様は目を大きく見開いて、あははと笑いだした。
「やだぁ~アイリス様~。私はアイリス様の侍女なんですから、敬語を使わなくていいんですよぉ~。もちろん敬称も不要ですわぁ~マリーと呼んでくださいませぇ~」
「……わかったわ」
今まで専属侍女なんて存在はいたことがないので戸惑ってしまう。
なんなら、実家の使用人たちには髪で顔を隠し、部屋に引きこもっていたため、気味悪がられていた。
そう思ったところで、前髪ちゃんのことを思い出し。悲しい気分になる。
前髪を押さえる手に力がこもる。
その様子に気づいたのかマリーが声をかけてきた。
「アイリス様ぁ~。もしよろしければ、私に髪の毛を整えさせていただけませんかぁ~? アイリス様、とっても可愛いので、私の腕がうずうずしちゃってるんですのぉ~」
「か、可愛い!?」
「可愛いですわぁ~、ねっ髪の毛を切って、お風呂入って、さっぱりしちゃいましょうよぉ~そうと決まれば、アーガイル様は出て行ってくださいませぇ~」
「はいはい。それではアイリス様、ごゆっくりお過ごしくださいね」
アーガイル様はマリーに押し出されるように部屋から出て行った。
マリーが戻ってきて、アイリスの手をひく。
「髪は女の命なのに……。長いお友達なのに……。旦那様もひどいことをなさりますわぁ~」
「えっ……」
「旦那様が申し訳ないですわぁ~女心がわからないくそ野郎なんですのぉ~でも悪い人ではなんですのぉ~時がきたら許してあげてほしいですわぁ~もちろん今すぐとは言いませんのでぇ~」
可愛いらしいマリーの口から「くそ野郎」という言葉が出てきてびっくりして、目を見開く。
マリーはそんな私の顔をみてにっこり笑うと、優しい手つきで私に魔法をかけていった。