愛美の過去
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平衡感覚が戻るまで耐えていると、地面の感覚がないことに気付いた。
下を見ると宙に浮いていた。おお、いつの間にか空中浮遊の術を使えるようになったのかとちょっと喜んでいると、周囲の状況がさっきまでと違う。
まず、林がなくなっている。そして、目の前にあるのは霊谷さんの家だ。
「どうなってるんだ?」
首をかしげていると家の中から子供の鳴き声が聞こえてきた。
何事だろうと玄関に周りドアを開けようとすると、スッとドアノブに触ることができずに体がすり抜けてしまった。
!?
物体透過までできるようになったのか!?
何が何だか分からずとりあえずそのまま玄関をすり抜けて家の中に入ると、子供が泣きじゃくっていた。
って霊谷さん!?
泣いている子供は霊谷愛美にそっくりだった。違うところといえば、今よりずっと体が小さくどう見ても幼稚園生か小学校低学年にしか見えないというところである。
「れ、霊谷さん?」
とりあえず声をかけてみるが無反応。無視されているというより僕の姿も声も分からないようである。
ってことは、霊谷さんじゃないのかな? 霊谷さんなら僕のこと見えるはずだし。
ピンポーン
そんなことを考えていると後ろからドアベルの音が聞こえた。誰か来たようである。
ガチャッ。
ドアが開く。外に立っていたのはひげを生やしたおじさんだった。しかし、ぎりぎりお兄さんとしても通用しそうだし、何よりナイスミドルって感じでかっこよかった。
ナイスミドルの視線は僕を通り抜けて霊谷さんそっくりの少女をとらえる。
「……チッ」
泣いていたからだろうか? 忌々しそうに舌打ちすると奥に向かって呼びかける。
「おい真子ぉ、行くぞぉ」
「はぁーい」
すると奥からタッタッタッっと軽やかな足音が聞こえてくる。
おそらくこの少女のお母さんだろう。足音とともに出てきたのは綺麗な女性だった。霊谷さんがあと十年歳をとったらこうなるんじゃないかってくらい霊谷さんに似ている。
「ごめーん。待った?」
男の人に謝りながら泣きじゃくる少女の横を素通りする。
「ママー。ママー!」
少女は必死に女の人に呼びかけるが、相手は一向に構う気配がない。
まさかこの女の子僕にしか見えないってわけじゃないよね?
「おい、こいつ、愛美つったか? いっつも泣いてんじゃねぇか。うるさくてかなわねぇよ」
それはこの少女心配してというより心底迷惑に思っているという口調だった。
「ああ、無視してればいいわよー。それより早く行きましょ?」
そう言って二人は連れ立って玄関から出て行った。
どういうことだ? 少なくともこの子が幽霊や幻覚の類じゃないことは分かったけど。今のが子供に接する態度かよ!?
二人でぽつーんと突っ立っているとガチャっと扉が開き、一人の男の人が入って来た。その人を見たとたん
「パパー」
と少女が駆け寄る。しかし、
「ああ、はい、その件につきましては来週までに解決する予定です。ええ、大丈夫ですよ。順調です。ええ…………」
パパと呼ばれた男の人は少女の突撃を交わすようにして体を軽くひねると後は何もなかったかのようにひたすら携帯電話で話しながら家の奥にはいって行った。
あれ? 携帯なんか大きくない?
僕は首をひねる。
後にはわけが分からず混乱している幽霊とただ泣きじゃくる少女が残された。




