藍の花④~依頼の件忘れていませんよね
誤字、脱字や文法など自分なりに全部修正させていただきました。よろしくお願いします。
「羚夏……羚夏ってば!」
「あ、ごめん」
ルシカに何度も呼びかけられて、ふいと我に返った天羽はもう一度机に触ると、指先に伝わってくるのは先と変わらぬ寒さだった。
「すみませんね。あまり大した役に立てず……」
校長は申し訳なさそうな顔をする。
「いえ、こちらこそありがとうございます」
天羽とルシカ二人は校門を出るや否や、校長に呼び止められた。
「あ!そうだ。うちの生徒はあの子と同級生ですから、後ほど呼んでみます?」
「いいんですか?ありがとうございます!では連絡先とか……」
「あの子は察知系の魔法で、君たちの場所がわかるので大丈夫です」
天羽とルシカは校門を出て、新しい収穫の有無について確認する。
「なんか使えそうなやつある?」
「多分、確定ではないが、良くも悪くもなかったね」
「おお、さすが!」
褒められると落ち着きが失う天羽は高揚感を隠せず思い上がった。調子に乗った天羽を見てルシカは彼女の頭上に手刀を振り下ろす、叩かれる手前に天羽は両腕で自分の頭を庇ったが、予想通りの痛みは来なかったので、ゆっくりと瞼を開くとルシカは寸止めにした。
悪びれもない笑顔を見せて、天羽はルシカの腹部に小突くする。
次にやらなければならないことを頭に思い浮かべ、彼女たちは再び旅館に戻り、山積みの資料を依頼屋さんのところに持っていく。
相変わらず三つ編みの女性がバーカウンターから出てきて彼女たちを歓迎する。
「あ、来てくれましたね」
女性は両手を合わせて、晴れ晴れしい面持ちを浮かべた。
「うん……そうですよ」
天羽は後ろめたさを感じて、愛想笑いを作ってこの場を何としてもしのぎたいと切実に願った。
「これで犯人を確実に殺せるし、円満に解決できそうですね」
「円満に……解決でき……そうですね」
天羽はオウム返して、相手の主張に賛同する意を示す。
三つ編みの女性は天羽からの資料を受け取って、ちょうど手を重なった瞬間、天羽は咄嗟に手を引っ込めた。
──冷たっ!
手を離すが早いか、本や文献などの資料が床に散らかしていった。
「あのすいません!大丈夫ですか?それに尋常じゃないくらい手が寒いんですけど」
「あ……小さい頃から体が弱くて、若干普通の人より体温が低いのです。心配してくれてありがとうございます。」
女性は両手をこすって、床にばらまかれたものを拾い上げる。
天羽もしゃがみ込んで女性と一緒にを拾うが、向けられた視線が戦慄が走る。眼光が鋭かったり獲物を目にして猛獣のような目つきだった。
「突然この問題は失礼だと思いますが、依頼の件忘れてませんよね」
吸い込まれそう瞳に見つめられて、天羽は心の動揺を必死に隠す。
しかし、事前にリハーして来たセリフが全部頭の中にぶっ飛ばされて、真っ白な状態だった。
ルシカは急いで彼女たちを引き離し、天羽を後ろに庇う。身長の差を利用して相手を見下ろす。
「やめな。別にこいつを追い込まなくてもいいんじゃない。いちいち注意しなくともわかるでしょう。依頼の件が。」
ルシカは特技のポーカーフェースをして相手に威圧をかける。
「おっと、失礼しました。あなたは彼女の……」
「一応仲間だ」
「なるほどなるほど、そうですか。ご安心ください。催促をかけているわけではありません。職業病というのは、つい焦っちゃいました」
三つ編みの女性は意味深な笑みをたたえて仰いだ。
「あ、もちろん忘れてないのよ。でも受けるって一言も言ってないから、そこは……」
天羽はルシカの背後から顔を出して、根に持って意地を張った。
「その件については謝ります」
相手の態度が柔らかくなるにつれて、ルシカの前に出た天羽は適当な返答を出す。
「はぁ……時間がかかりますけど、いいですか?」
「いつでもお待ちしております」
三つ編みの女性はお辞儀して天羽たちを見送る。
「おい、本当に騙したのか?」
「仕方ないでしょう。ていうか、なんでルシカはフォローしてくれないの?あの場であんたしか頼れないよ。」
「初手からいきなり割り込んだら変でしょう」
「は?何いいこぶってんの?ふぅ……でもさっきはありがとう」
「無事でよかった。で、どうする?」
「時間にはまだ余裕があるし、まずはあいつを見つけ出す」
「危険だよ。頭の中で一体何を考えているの?殺人犯と対面して、おまけに依頼を引き受けるなんてまずありえないし無謀だよ」
ルシカの声は若干普段とは違って、裏返し気味だった。
「いや、聞いて、裏があると思うの」
──ドラマしか出てこない、こういう探偵ごっこは待ち遠しかったわ。ずっとやりたかったから。でもこれは単なる遊び心でやったら死ぬに違いない。この件をハッピーエンドまで導かせるのかなぁ……
「今回は私からあんたへの質問。なんの根拠だ?」
以前聞かれたようにルシカは質問方をそのまんま天羽に返した。
──確かにあいつは散々私に嫌がらせのことをして、わざと挑発をかけてきたが、あの言葉を忘れられない。
「出任せになっちゃうかもしれないが、自己判断だ」
「ごめん、わからない。何を言ってるか」
「じゃ、ルシカ、手を貸して」
ルシカは従順に手を差し出して、天羽はその両手を握りこむ。そのままで一分くらい経過した。
「告白されるかと思った」
「違うわよ!やっぱり……」
ルシカは天羽の動機をいまいちわからないため尋ねてみる。
「なんだそれ?」
「依頼屋の女、手冷たかった、あれじゃ人間の……」
突然、天羽たちの会話が部外者に遮断された。
「あの……話している途中ごめんなさい」
女性がおどおどと二人を見て、話をかける。
「あの、誰ですか?」
「校長先生に呼ばれ、探知魔法を使って、二人の位置にたどり着きました」
「あ……あなたが……」
不意に女性がぽつぽつと涙がこぼれ落ちてきた。あたふたになった天羽はルシカに目遣いをして、助けを求める。
──女の子に泣かれたら、めっちゃくちゃ困る……人を慰めるなんて苦手だし……
「気が利く」ルシカは自ら見張りに行ってくると言い放ったあと、周囲の警戒を強める。
──あとは私次第だとでも言いたいのかぁ……
天羽は注意力を目の前の女性に置く。
「本当のことを言っていいか、わからないですけど。どうしても言いたくて、このまま見過ごすわけにはいかないです。」
女性は身をこわばらせて、腕組みをする。
「実は私はイーレンとは同級生です」
「あの……すいませんが、イーレンは誰ですか?」
「いじめを受けた同級生です」
──じゃあの藍の花のやつはイーレンってこと、そしていろんな人の体を乗っ取って、事件の真相を暴こうとするものを全部容赦なく殺したってことかなぁ……
「一見、物騒な人物だが、イーレンには親友がいて。名前はサヤです」
「へえ、意外ですね。友達いるとは」
「驚くのも普通です。名門出身である彼女は内気で引っ込み思案な性格でほとんど友達いないですから。それにひきかえ、サヤは素直で気さくで友達思いな子です」
「真逆な性格なのに、息が合うの?」
「ええ、そうですが……」
「が?」
女性はイーレンとサヤの知り合ったきっかけとその後の経緯すべて、細大漏らさず話す。
知り合ったきっかけは、サヤはイーレンが苛められることを見るに堪えないから、助け舟を出した。サヤの魔法センスがよく、学業成績も常にトップで、まさに先生とクラスメイトにたたえられた見込みがある生徒だった。
そんなサヤだが、イーレンのことを分け隔てなく細心に接する。できるだけ魔法のコツを教えてあげた。イーレンは初めて心強くて頼ましいサヤに対して「親友」という概念が生まれた。
すべてがいい方向に進んでいく傾向に見えるが、ある日、イーレンは今までにない嫉妬心が湧き上がって、サヤを、自分の大切な親友を殺した。そうすれば自分の無茶苦茶な人生はなかったことにされる。時も戻せる。自分が他人に蔑まれなくて済む。歯車も軌道修正もされる。すき去ったものも帰ってくる。そう思い込んだ。
本来なら自分の意志ではなかったが、どんだけそそのかされてもきっぱりと断った。でも人の欲は誠実で、本心を裏切らないものだ。
自分の親友が目覚ましい成果をあげて、好評だった。落ちこぼれの自分を見直して膨大な無力感が襲い掛かってくる。嫉妬の炎が燃え盛んでいる。健気な関係にひびが入った。
天秤の片方には自分の四、五年付き合っていた親友ともう片方は狂いはなかった人生と数え切れない名誉。目が眩んでしまって、イーレンは正しい判断はできなかった。彼女は罠を仕組んで置き、サヤを誘い込んで、そしてどん底に落とさせてやった。
友達思いのサヤは何も知らずに、最期までイーレンの安全を心配して、心残りを抱えたまま息を引き取った。
──なんだこれ……後味が悪すぎる。虫の居所が悪くて胸をじりじりと焦がすような感じ。
「あの、ずっと気になってたけど、誰かイーレンをそそのかしたのですか?記事にも書いてあったけど、明確にあの人の身分を言及してないです。」
天羽はずっと気になっていた質問を女性に問いかける。記事でも、この女性の口からでもイーレンは誰かにそそのかされて、禁忌魔法に手を出した。その人物一体は誰なのか、いまだに明確ではなかった。
「それはまだ謎です。私自身も知らなくて、すいません……」
女性の視線はさっきから下に凝らして、意図的に天羽の目を合わせなかった。
「こわかったのです。だから言えなかった……イーレンは自分にいじめをかけた人に復讐するって、私はその列ではなかったが、見殺しする側で、同罪です」
──この人、私と同じだね。でも私は恐怖という感情はなかった。私に関係ないから、知り合いでもなんでもないから、手を差し伸べてなかっただけ。
「いや、あんたはもう充分できてるんです」
──私なんかより。
「ありがとうございます。これを知っただけでありがたいです」
天羽は女性の肩をトントン叩いて、ルシカと合流した。
──藍の花のやつに何回も接触して、雰囲気というものは隠せないはずだ。だけどその狂気さは感じなかった。まさか濡れ衣を着させられた?それなら……
天羽は今までの会話の内容を反芻する。
──ちょっと待って、最初から勝手に藍の花のやつが殺人犯と決めつけて、先に悪い印象を作りあげたかもしらない。もしその予想が当たったら最悪なんだけど……今更気づいてたんだけど、事件の主人公、つまりイーレンは藍の花のやつじゃなかったら、じゃ誰だ?またはサヤは何者?
天羽は思考の無限ループに陥て、頭が一杯になる。




