藍の花②~二件目の依頼
誤字、脱字や文法など自分なりに全部修正させていただきました。よろしくお願いします。
本当のことを言うなら天羽は全然帰る気はなかった。ルシカと揉めているわけじゃないが、なんだかそういう場面が苦手だった。あんなことが起きてたからより遠慮して、また壁を作る。
気まずい空気が二人の間で広がられている。果たして焦り顔で行くのか、それとも仏頂面をするのか、天羽は悩みに悩んで結果は出せなかった。
結局彼女は平常心のままルシカと合流した。
天羽が無事に帰ってくるの確認して、懸念や煩わしさなどの感情に襲い掛かられて、体育座りになったルシカはこわばった体を緩ませ、胸を撫でおらし冷や汗を拭く。
「遅い」
「見た」
「何を?」
「あいつ」
「片言はやめて、どこで見た?」
断片的な会話に疎むルシカは不満げに腕組みをする。
「あそこに神殿みたいなものにいた。全部じゃないけど、ひとまずあいつに関する情報は掴んだ。よくきけ」
ルシカは座り直し、全神経を集中して天羽の方へ耳を傾ける。
天羽はこれまで得た情報をすべてルシカに語りつくす。
藍の花の匂いを帯びたやつは人の間に自由変換ができる。人に付着して、体を乗っ取って行動するのがあいつの動きパターン。何より一番大事なのは当事者がその取り憑かれた期間の記憶がすべてぶっ飛ばされて、何もなかったことにされた。
だが肝心なところはどうして一緒に同行していたルシカまで印象はないか、知るはずもなかった。確定ではないが、多分ルシカはその雑貨屋に香水をかけられてないからと推測される。
「一つ確信できるのは、私は取りづかれてないこと」
「なんでそれを言い切れるのか?体が乗っ取られて、そのことに関する記憶が消された可能性もあるのよ」
「なんとなく。ない気がする」
一見ふざけた理由に見えるが、ルシカはあえて真っ直ぐでぶれない眼差しを天羽に向ける。
「はぁ……」
「冗談冗談、これは野生の勘だ。私の正体を忘れたのか?羚夏」
いつも通りに自然な呼び方をされるけど、今の一瞬ぎこちない感じを覚えた天羽は何とも言えない違和感を身に染めて困惑する。
「まぁ、無事ならいいけど」
「他には?なんかない?」
天羽は苦悩して依頼の件について、言うまでもない些細なことだと思い、言いよどんだが、ルシカの催促のもとで依頼の経緯を話し出す。
「向こうから調査の依頼も……」
「依頼?!遊びじゃないぞ、なんの依頼?ていうか引き受けた?」
天羽は仕方なしに首を縦に振った。ルシカは目を丸くして、かなりのショックを受けたが気を取り直し問題の中心に触れる。
「で、依頼の内容は?」
「失くしたものを探し出せ、それだけ言い残って姿を消えた」
「はぁ?意味わかんない。何を探すのが言及してないし、どこから探せばいのかも教えてくれない。最低限の情報もくれず、解決の糸口が見えないわ。いいのよ。ほっとけばいい、あいつはあんたを脅迫したが、来られたら追い出すから、心配ない」
ルシカは壁に背をあてがう、片膝を立てて座る。依頼をそっちのけにして対策法まで考えた。
「でも見過ごすわけにはいかないと思う」
「赤の他人の私たちは何かできるていうのよ?忘れておけ。次の目的地に行こう」
「嫌だ」
自分の意思を押し通すために天羽は頑固な態度を見せた。ルシカは神妙な顔をして彼女を見据える。
天羽はどうしてもこのわけのわからない依頼を承った一番の原因は相手が言ってた一言。「似た者同士」その言葉が天羽の心にこだまが響く。
「いい加減……!」
「嫌なら、私一人で充分」
天羽は大胆に攻めて明らかに譲歩する気はなかった。そしてルシカの方へ近づく。
「なんでそこまでやるの?」
「頼まれたから、何か?」
天邪鬼な一面を見せられてルシカは両腕をあげた。
「わかったわよ……あいつは多分あんたに加害する気はないから、あったとしたらあんたはもう今ここにいないはずだ。あんたの判断を信じる。が、無理しないで」
「うん。無理しない程度でやる」
二人の間のバチバチ感がルシカの譲歩のおかげで少しだけのどやかになった。もうちょい時間をかければいつもと同じ、変わらない日常感に戻れそうだ。
「やっぱり行くのは近くにある町で情報収集を……」
「じゃ、獣の国に帰る?あまり離れてないから」
「いや」
ルシカは言下に否定して、深刻な表情を表にだす。
「むやみに戻ると危険すぎる」
それも一理があるなぁと天羽は首肯した。
「分析しよう……あいつはこの遺跡で姿を現したということは、近くの町にいたのかなぁ……」
「謎の根拠だが、まぁ確か近くに町があるはずだ」
ルシカの案内の下で、二人は順調に遺跡に近い町へ来た。
二人は街の曲がり角に入って片隅で休憩を挟む。不意に隣の店の会話が耳に入った。
店主っぽいガサツな男は見慣れの客人を見るや否や、鉄鍋とハンマーを取り出しカンカンカンと音を立てて男を歓迎する。
そして彼らは雑談し始めた。朗らかな笑い声がする男は店主に挨拶をする。
「おお、久しぶりだね」
「あ、そうだね。これはあんたが注文したもの」
「ありがとうね。あ、そういえば聞いた?」
「何を?」
「噂のやつ。巷でも知ってるぞ。最近いたね、妙に記憶が飛ばされた人が続出だよ。一緒に話していたのに、急に話が嚙み合わないとかもよくあるぞ。あと死んだ人もいたね、同じ犯人なのか知らんが、何かの繋がりかな?」
「なんか不気味だな。やめろ」
この会話に盗み聞きした天羽好奇心旺盛な性格に駆使されて、男たちの会話に割り込んだ。
「あの……詳しい情報を教えてくれませんか?」
「あ……なんだ君も興味あんのか?」
見た目からは不親切な顔つきだが、意外にも熱心な一面を見せた店主は天羽からの質問にキャッチした。
「これを調べているのです」
「これはごっこ遊びじゃないぞ。やめた方がいいよ」
「どうしても知りたいのです。お願いします」
「いっとくが自己責任だぞ。どこから聞いたか知らんが、目撃情報によるとこの事件を掘り下げるとその人が次の日、黒いマントの犯人に殺されたって」
「へえ…なんかサスペンスな展開ですね……」
「あそこに依頼屋あるぞ、そこで何か発見ができるかも。あともう一つの共通点は、記憶喪失事件に調査した人が変なやつに絡まれて、もうこれ以上調べるなと忠告されたけど、聞かないやつも結構いるさぁ、それで死んだ」
「……わかりました、たくさんの情報ありがとうございます」
天羽とルシカは男たちに会釈して、店主の指先の方向にある依頼屋さんへ向かう。
依頼屋さんのバーカウンターには三つ編みでメガネをかけた女性が立っていて来訪者を歓迎する。
「何のご用でしょうか?」
「あの……最近妙に記憶喪失した人が多発してるみたいだから、ここに……」
三つ編みの女性は目を光らせて、ワクワクしながら天羽の両手を掴んで顔を寄せる。
「あなたですよね!ようやく来てくださいました!」
「え?」
天羽はぼんやりしてて拍子抜けな声で返事する。
「お待ちしておりました!こちらの準備はもう整ってます!」
だが三つ編みの女性はひたすら自分の言いたいことは語りつくす。天羽に断る余地を与えなかった。
「待って、どういうことですか?」
天羽は女性の手を振り払って、疑問を投げ出す。
「この依頼を受けてくださり、本当にありがとうございます。中々ね、この依頼を受ける方は滅多にいないので、本当に助かります!」
「あの……違うの、人の話をよく聞いてください」
「今回の依頼はこれらの原因となる犯人を見つけ出す。また討伐してくれませんか?」
「いや……だから」
「なんて心優しいお方……あさっりとオッケーを出すなんてありがとうございます!では吉報をお待ちしてます」
女性は天羽の質問に対し当たり前のように聞き流す。独りでに嬉々として舞い上がる。
──話が全然嚙み合っていない……こういうの大嫌いなんだけど、今でも一発かましてやりたい……
天羽はその衝動を抑えて、女性に事件の話を問いただす。
「じゃ、せめて情報くらいは……」
「はい!かしこまりました」
「そこだけ返事するのか!」
女性は本棚にある山積みの資料をよいしょと運び込んで、天羽に託す。
これらの資料が天羽の身長に大幅超えていた。バランスが崩れそうになるところ、ルシカは何も言わずに自ら天羽が持ってた資料を分担する。
「あの……もう一つ確認してもいいですか?」
「はい!なんでしょうか?」
三つ編みの女性は快くさっぱりと回答した。
「討伐ってどういう……?」
「文字通りです。殺すってことです」
「え?マジ?あいつをしょっぴいた方がいいじゃないですか?」
「ご安心ください、責任は全部こちら側から負います。それにあれはかなりの悪だったので、討伐願いを出したんです」
「受けるって一言も言ってないけどね……」
天羽は不服そうな顔つきを立てて、目の前にいる女性を睨む。
「じゃ、これを全部目を通すには時間がかかるから、すぐに討伐なんて……」
「構いません。どうぞごゆっくり」
「はぁ……」
二人は依頼屋さんから出たあと、無理やりの依頼を頼まれて業腹な気持ちになって、天羽は嘆息を漏らしてから、舌打ちをする。
「本当に受けた?」
「うん」
「これで二件の依頼もできたぞ、どうする?」
「当たり前じゃないか、第一件目からだよ」
「ええ?!」
「いや、ほら、失くしたものを探してほしいって言われたから、優先度から見ればあっちだよ。順番決めでね」
天羽はやる気満々で何かをやり遂げる勢いだった。
彼女たちは依頼屋さんの紹介の下で、町の一番評判のいい旅館に泊まった。
それから、彼女たちは休まずに依頼屋さんからの分厚い資料を読み始めた。
一つ目の報告は当事者が買え出しの途中、プツンと意識が途切れて、我に返った時は違う場所にいた。ほかの目撃者の証言によるとあの当事者は口ずさんで何かの変な歌をしている模様。だが当事者それに対しまったく印象はなかった。
二つ目の事件は当事者が知り合いと話している間、別人になりかわったかのように話し方や態度など一変した。知り合いの証言によると当事者は普段から馴れ馴れしい行為が苦手だが、最後は友達にくっつき離れたようともしない。あまりにも異常な行為にドン引きした友達は当事者をビンタして、意識が戻った当事者はそれに対しまったく印象はなかった。
ほとんど同じ経験をしている人も多く、だが最初は被害に及ばなかった。ある日を境に、人が亡くなられた事件が時折発生した。
関連あるのかはっきりしてないが、三ヶ月前、記憶喪失事件の犯人が雲隠れした。どうやら別の国や町にいったらしく、実際なところ、犯人は南の町に行って、天羽と一面識もあった。
資料に集中してあれから三時間が経った。天羽は大きな欠伸をして、背伸びする。
──うん?なんかもやっとくるなぁ。
天羽は目をこすり瞼が重くなって、周囲の視界がどんどん狭くなり暗くなってきた。
ガタンと音を立てた。天羽は机に伏せたまま寝てしまった。それを目にしてルシカは慌てて布団をすっぽりと覆う。
──まったく、目が離せないやつだな……それにあの時、あんな目に見られたら我慢できないじゃないか……せっかく思い切って手を振り払ったのに、さすがに言いすぎたのか……あのバカ、私が気づかないとでも思ったの?見りゃ分かる。あんだけ自分の感情を表に出さないでって散々注意してやったけどね。
ルシカは単純に彼女ののぞみを叶いたかった。天羽が言ってた人のことを掘りすぎたくないとか、人との過剰な接触が苦手とか。だから自分も充分に気を付けて彼女を接する。それが彼女の望んでいたことなら、何でもやる。
だが今回のことを経て、ルシカの心にも疑問が生じた。自分がやっていたことは本当に正解なのか、天羽の心まで傷つけるのを見て気が済むのか、何もかもがわからなくなってきた。
ルシカは天羽の頭をすりすりと撫でようとしたが、躊躇したあとやめた。




