獣の国④~誠実で真摯な態度
誤字、脱字や文法など自分なりに全部修正させていただきます。よろしくお願いします。
天羽とルシカ二人は今……正確的に言うと、猫一匹と一人。彼女たちは住人に詳しい情報を尋ねることに決めて、よろよろ立ち上がり出発するが。
天羽は座り込んだ姿勢から歩こうとしたら、足に力が入らなかった。ふにゃとしてて尻餅をついた。それなりの原因があって、つい十五分前ほど殺されかけていたので、まだあの泥濘から囲まれている。手足ががくがくと震えが生じる。まるで自分の身体じゃないような感覚で、ぎこちない振舞いだった。
それを目にしてルシカはよいしょっと天羽を持ち上げて赤ちゃん抱っこするところ、天羽は易々とルシカの右肩に乗った。
「それが好きなのか?」
天羽は顔を肩に突っ込んで目を伏せたまま、ルシカの服を握りしめる。皺ができるくらい食い込んだ。
「出発するか。よく掴まえててよ、落ちたら大変だから」
ルシカは両手でしっかりと天羽を落とさないように支えながら、通りすがりの人に魔法士の居所を尋ねてみた結果、あの魔法士はツリーハウスに住んでいた。魔法に関する質問や知識は彼がこの国で一番物知りとも言える。
およそ十分を経過して行き先にたどり着いた。そこで中へ入ってみると、若い男性がそこに座ってて、ルシカの肩にいた黒猫に一瞥を投げたあと申し訳なさそうな顔で予期せぬ来訪者に謝る。
「すいませんが、ここは猫の看病できないんだ」
男の声は頭に甲高い響かないゆったりとした口調だった。
「違うの、この猫は元々人間で私の仲間だ」
ルシカはかぶりを振って事情を説明すると若い魔法士がルシカの話を中断させた。
「もしや、あの洞窟の奥の魔法水を飲んだのでは?」
「その通りだ……あの、解かす方法はあるのか?」
魔法士は前置きしてから本番へ入る。
「まず聞いてみるが、一滴だけ飲んだ?」
「ううん、全部飲み干した」
魔法士は真っ青な顔色となって、面食らったように黒猫へ視線を凝らす。
「普通の方法ではダメみたい、やむをえん!最終手段しか……」
魔法士の声が靄にかかったかのようにどんどん曇ってて、聞きづらくなり、ルシカは身を乗り出して、耳を傾ける。
「これはとく方法はないね」
「はい?」
ルシカは間の抜けた声を漏らして、驚愕する。
「え?本当?それは困る……なんとかお願いしてもいい……?」
「そうね、まぁあるはあるけど。ご本人次第かなぁ……」
天羽は聞き漏らさないように耳をそばだてて入念に聞く。目を光らせて希望に満ちた双眸で男性へ投げる。
「簡単だよ、今あなたにとって一番大切な人の名前をあげて、その人にあなたの気持ちを真摯に述べればいいのだ。誠実な態度を取らないとより戻れなくなるから、そこはお気を付けて」
「なんだ……その方法、変だなぁ。」
──まさにルシカと同じ考えだ。なんだ、そのボロクソ方法!ていうか某お伽噺と似てるけど…違う、問題は対象相手がないのよ!
天羽はややこしく思った。
ルシカは姿勢を変えて、天羽のお尻を支え、自分の真っ正面に向ける。そして視線を交わす。
「羚夏いる?大切な人」
ルシカは透き通った瞳が天羽の心の襞をすべて読み取れるくらい目が澄んでて、この双眸には魔性な魅力が秘めていて、無自覚に人をうっとりさせる美しさだった。
それに引き換え、天羽の目はひどく泳いでいる、ルシカの瞳の奥を覗き見ると取り乱した自分の姿がきれいに映り込む。その上、はにかんだ表情と起伏の激しい視線がさもあらしと遭遇した船みたいに揺るぎが止まらなかった。頭が思考停止になるうちに、先手必勝だと思いとある行動を取った。
天羽はルシカの目を両手で覆う。不意打ちされてルシカは不審だと感じて単刀直入に聞く。
「え?どういうこと?」
──いいから、少し黙ってろう。
「はぁ……うん。わかった」
天羽は深呼吸して瞼を伏せる。妥協せざるを得ない、今やらないと、ずっとこの姿で生きていくことになる。それだけは御免よ。と自分に無駄な催眠をかける。何かを成し遂げる様子だった。
──頑張れ、私ならできる。今この瞬間だけだから、今大切だと思う人、それだけだった。この瞬間だけだよね、これさえ持ちこたえたら、人間の姿に戻れる。そのために羞恥心を捨てなければならん!
天羽は腹を決めて、目を見開いた。息を凝らして口を開く。
──ルシカ。
「うん」
──今まで迷惑をかけてばっかり、毎回あんたに助けてられて、どうお礼を言っていいかわからないが、きっとそれは感謝しきれぬ恩があるからだと思う。
「急にどうした?死に際の遺言みたいになってるけど……大切な人に気持ちを伝えるじゃなかったの?」
思ってたより鈍感だなぁ……と天羽は呆然とした。
そんだけ言ってまだかなぁ……天羽は微かな苛立ちを覚えて、魔法士に目線をやると彼はただひたすら首に横に振って、腕を組みなおす。
「羚夏、まだかなぁ?遅いよ。このままだと永遠に目があけなくなっちゃうよ……」
──もうちょっとだけで減るもんじゃないでしょう。あと少し……!
天羽の動悸が早まって、呼吸も荒くなり、唾液が理由もなく多く分泌されてごっくんと音を立てる。それからルシカの目に覆ってた手を開く。ルシカは天羽の顔を見るや否や額を合わせられた。ルシカは状況がわからず、石像のように固まる。指先から熱さが伝わり、手汗もじりじりとかきはじめて、目に見える速度で顔から火が出そう赤さだった。
──あ……あ……ありがとう。私、これでも精一杯なんだから、それくらいにしとけ。
「……」
魔法が解かれた同時にぽんと天羽は元の姿に戻った。だが姿勢は額をくっつくそのままだった。それを気づいて赤面になった天羽は張り手でルシカの顔面に突き刺さる。彼女はバランスを崩して後退した。いきなりとかされて不服な顔を立てて、天羽に抗議を提出する。
「いや、自分からやったのに照れるな、いまのは何なんだ?」
「仕方ないでしょう!今一番大切な人って言われたから、言われた通りにしたよ」
「どういう意味?私ってこと?」
「鈍感な人と話したくないなぁ」
「うん?あんたも私とぼちぼちくらいの程度よ」
「なんだよ、せっかくあんたのこと『大切』だと認めてあげたのに」
「うん?」
天羽は自分が変なことをぽろっといってしまったことに口を隠す、穴があったら入りたいぐらいの羞恥心が爆発する。すぐ方向転換して挽回する。
「この場はあんたしかいないってこと、他の意味はない」
「お嬢さん、そういうのって自分から穴を掘って、自ら飛び降りるっていうのよ」
ルシカは意気揚々と天羽のロジックを欠如してる理由を論破する。
天羽は返す言葉はなかった。
「まぁ、今回はあんたの勝利と認めよう」
「勝負もくそもないだけど」
「やっぱり猫の方がかわいいわ」
それを聞いてムカッとしてきた天羽はパンチでルシカに小突くする。
「でも今が一番だ。この顔はもう見慣れたし」
「よかったね。どうやらお二人は見えない赤い糸に結ばれているようだ」
魔法士は二人の会話に遠慮なく割り込んできた。
「それはない!!」
と天羽とルシカは口をそろえて反論した。
「君たちは旅人なのか?」
「はい、色んな景色を目に焼き付けたいから、今はあちこち回って旅をしています」
「それは素敵だね、色んな人と出会えるわよ、思い出深い経験になりそう」
──実際、別の意味でもありだね。確かに忘れたくても忘れられないこともいっぱいあった。時にわいわいと騒ぐ、時に心が病んちゃうくらい気が塞いでしまう。ジェットコースターを乗っている気分だった。
天羽はこれまで起きた出来事を、現実世界ではありえないことを身に経験して、危うく命まで落してしまうところもある。何度も助けられてきたが、次にはもうこのような幸運を持っていないかも、と何度も自分を注意したが、いつも気に留めずほったらかしてしまう。もし自分一人だけだったら、今まで何回死んだのか想像してみたら、身をこわばらせてぞっとする。
天羽は匕首の柄を握りこむ言う。
「殺されないように頑張る」
「はぁ、なに言ってるの?私が生きている限りお前を死なせない、ゆくなら私の許可をとってからだ」
ルシカは強引に天羽を自分の方へ引き寄せる。
「重い……」
「あんたが先にこのクソ重い話を引っ張りだしたから、フォローしてあげたのよ」
「ふん、随分身勝手な護衛だね」
ルシカは身長差を利用して上手く天羽を羽交い締めにした。
「身長で押し付けるな、たかが五センチくらいの差で……」
魔法士は微笑ましい表情を浮かばせ、二人の醜い争いを見届ける。魔法士の視線を感じて天羽はわざとらしく咳音を立てる。
「私もう少しこの国にうろつきたいなぁ。今度はちゃんとこの格好で街に歩きたい」
「それはそうよね……じゃもう少し歩いていこうか」
ルシカは相槌を打った。
「お礼を言い忘れました。ありがとうございます。順調に元の姿に戻りました」
魔法士は大袈裟だねと言わんばかりに慌てて手を振る、和らぐ笑顔を見せる。
「僕は何もしてないよ、君が勇気を振りしっぽったから、成功したのだ」
「そう……だよね」
褒め言葉はずだったのに、天羽の耳から聞くと恥ずかしくて恥ずかしくて黒歴史みたいな存在だった。天羽はふさぎ込んで、さっきの記憶だけ丸ごとを忘れてしまいたいところが、爪痕のように鮮明に残っている。
──でも今を楽しむのが一番、ちゃんとこの国で遊んだことないから、ここでは気分転換を……
と天羽は自分を開きなおす。
「ほら、仲間が待ってるよ」
若い魔法士が手のひらを上にして、指を揃えてルシカを指す。そして天羽の背中をそっと押してあげた。
「そうね、待たせたらよくないですよね」
ルシカは天羽に手招いして、彼女がツリーハウスに出るや否や自分の肩に引き寄せた。本当にそのもの女子高校生が過ごす何の変哲もない日常、とても平凡だけど幸せだった。
──あの幸福で虹のような輝きを放つ日々、いつからか私を見捨てたのか……
ルシカからの馴れ馴れしい行為には天羽はまったく拒むなどの感情はなかった、むしろ心が落ち着く。
彼女たちは肩を並べて、当たり障りのない会話をしていて、街に歩く。もしもルシカが現実世界でいたらきっと面白い友達になりそうと夢を見た天羽はますます自分に疑問を生じる。
天羽はいつ現実世界に帰るか、帰らないか、それらすべて未知数のだ。
「あのさぁ、この辺に美味しいクレープがあるんだけど、前回の奢り待ってるよ~」
「またかよ!食いしん坊すぎる…あんたの脳みそ八割食い物しか残って……」
とその時、すれ違った人から藍の花の香りが微かにくる。すぐさま凍り付けた天羽が口をつぐんだ。ルシカは異常に気付き立ち止まる。天羽に目をやる。
「どうした?」
思わぬ事態に天羽はごくりと固唾を呑む。指先から寒気がのぼりあがって、手足が一瞬ぴくとなった。それでももう逃がさないという気持ちが天羽の頭を占拠してて、体が勝手に駆け出す。
「おい、羚夏!」
天羽は後ろのルシカの呼び声をよそにありったけの力を絞り尽くして、追いかける。何人かぶつかったかもうわからない、ただ走って、走って、まっしぐらに走る。
中央の広場まで追いかけてきた天羽ははーはーと荒い息遣いを立てて、体をかがめて、膝に手をつく。周りを見渡すと誰もいなかった。
「どうしたの?」
ルシカは天羽の跡を追ってきた。
「雑貨屋さんの……」
天羽の声は非常に不安定で震えている。だが彼女は五里霧中で自分の冷静さを取り戻し、ルシカに答えた。
「ここにいたの?」
「わからない」
「わからないって……」
「匂い、藍の花の匂いが…」
「あいつ、ここまで追ってきたのか……厄介だね……」
ルシカは前髪を掻き上げて唇を嚙み締める。
──なんでここまで来たの?偶然なのか?それとも他意はあるのか?何を企んででいる?
一難去ってまた一難。その時天羽はまだ知らなかった。この後もっと深刻な事態が彼女を待ち伏せしている。




