表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

大魔術師は破顔した。


少しの間調べ物をしていたが、次第に部屋のことが気になってきた。これから私がしばらく暮らす部屋であるし、何よりも部屋に置いてあるであろう教科書というものが気になる。書店で参考書などは数多く読んでは見たが、いささか整理され過ぎていたように感じた。おそらくは受験用に頻出度や重要度で内容を絞っているため、あのように今一つ読みごたえに欠ける読み物になってしまっていたのだろう。やたらと演習が多かったようでもあった。

それと比べて教科書はいかほどに知識の量があるのか、期待が高まるところである。あまり期待しすぎるのもよろしくは無いのかもしれないがな。

そんなことを考えていると、居てもたってもいられなくなってきた。パソコン弄りは中断して、私の(信吾の)部屋に向かうとしよう。


部屋についた。鍵などはかかっていなかったため、容易に開けることが可能であった。割と小奇麗にしているな。少なくとも、私の研究室よりは片付いている。入口からみて奥側の窓際にベッドが設置され、その横に机と椅子、本棚、その後ろにはクローゼットがある。収納スペースも結構な容量があるようだ。しかし思って見れば、ここの家は中々に豪華だ。駐車場があり、2階もあり、それぞれに部屋も用意されている。母親一人の収入で持ち家を得るのは大変そうだが、何かそこには理由などはあるのだろうか。今は亡き父親が存命の時に購入したのか?それとも持ち家だというのが間違いで借家なのか?まあ、それはのちのち聞いてみるとしようか。

とりあえず、いいから教科書だ。


約2時間ほどで教科書の類をざらっと読み終えた。やはり参考書よりも読み応えのある物だったな。受験では使わないだろう知識もふんだんに盛り込まれており、実に興味深く読むことができた。少し時間がかかったのは英語の教科書だな。英語に関しては日本語習得を邪魔しないために昨日は避けたが、学んでみると簡単で楽だ。日本語よりもよっぽど覚えやすい言語だな。主語は滅多に消えないし、文型は少ない。それに、26程度しか文字の種類がないというのは手抜きかと思ってしまった。日本や中国で使われる漢字が何万文字あると思っているのか。さらに言うと、筆記体は大体がひたすらクルクルとペンを回していれば書けるようなものばかりだ。この言語を作った人々ははものぐさな気質だったのだろうかと邪推してしまう。

おっと。あまり穿った見方ばかりしているといかんな。研究者たるもの、冷静に中立な立場から物事を見なくては。うむ。文字数が少なく筆記体も書きやすいということは、短時間で長い文章を書くのに適している言語とも言い換えられる。日本語では漢字を思い出すのに時間がかかり、書く手が止まってしまう場合も多いだろうからな。そういったところは英語の大きな利点と言えるであろう。……なんというか、慌てて言い訳をした感じになってしまったな…。というか私は誰に対して言い訳しているのだろうか。


さて。

教科書を読み終わったところで、次は漫画へと移ろう。日本では鳥獣戯画に始まり、その後多様な変化を遂げて今の形へと昇華してきた、日本特有の文化の一つだ。聞くところによると世の中には漫画を低俗だと決めつける頭の堅い者も居るようだが、全く以てそんなことは無い。とある研究では、漫画の絵と吹き出しなどの台詞を見ることは右脳と左脳を同時に使うこととなり、脳の活性化へと繋がるという報告もされている。それに、教科書の額面通りでは覚えにくい歴史に関する知識などは、漫画が絡んでくると覚えやすいのだそうだ。それもそうだな。私はそうでもないが、ただ歴史年表に列挙してある言葉を見ているだけでは眠くなってしまうのが普通の感覚なのだそうだからな。


見たところ数十冊以上は漫画が並んでいるが、どれからにしようか。迷うところだ。

ええい、こういう時は左上から順に読んでいくのが寛容だろう。私は思考に従うと、手に取った漫画の表紙を見た。これは……青年と…巨人が戦う話か…?まあ、私も昔はよくジャイアントの討伐に参加したりもしたものだ。…そういえば、巨人殺しの異名をとったあいつはどうしているだろうか。大剣一つで敵をばたばたと駆逐していく姿は清々しいものがあった。彼は長命な種族の一つである竜人族だったから、よっぽどのことがない限り今も存命のはずだ。前に剣王として抜擢されたという話は聞いたが、ここ十数年ほどは碌に連絡を取り合っていなかった。元気にしているだろうか……。


おっと。取りあえずはこれを読んでみるとするか。そしてこれを一通り読み終えたら次は隣。スケット……なんとかというやつを読むことにしよう。


30分を費やし、すべての漫画を読み終えた。なんというかあれだな。一作品目がシリアスな展開だっただけに、二作品目のコメディーさが非常に際立っていた。三作品目以降ももちろん楽しめたのだが、二作品目の印象がやたらと強くなってしまった。久々に大笑いしてしまったほどだからな。

ところで気になったのだが、ここにあるスポーツ漫画では登場人物が一瞬の間に膨大な考え事をしている……これはもしや、思考加速を使用しているのだろうか?この世界には魔術がないはずだが…・どうやっているのだろうか。素晴らしい技術だな。


さてと、そろそろ腹が減ってきたな。研究をしているときはついつい没頭してしまい、3食ぐらいは平気で抜いてしまうのが私の悪い癖だからな。ここ数年はなるべく気を付けるようにしている。さて、一階に下りれば何か食べるものがあるだろうか。


私が一階に降りると母親は既にリビングに居り、平然とした顔でいた。いや、よく見れば涙の……いや、ここは見ていないことにしておこう。私も大人だ。素知らぬ顔でソファに座ると、彼女の方から話しかけてきた。


「お昼ごはんどうする?て言っても、カップ麺だけどね」


「カップ麺………!!」


私は驚嘆した。カップ麺とは、あれだ。お湯を入れるだけで3分または5分待てば美味い食料が食べられる。インスタント食品の代表格にして日本が世界に誇るべき最高の保存食だ。色々なものを発明してきた私でも、この発想はなかった。カップ麺が元の世界に存在すれば、厳しい野営をする兵士や冒険者たちの心強い味方となったことだろう。口惜しい…。


え、なにその反応?と零す母親に対し、私は熱く語った。

なぜだろうか、苦笑いしながら4種類のカップ麺を差し出し、食べたいものを食べなさいと言われた。その瞳に思わず亡き母を幻視してしまう。子供に先に選ばせる母性というか、そういった類のものだ。いや、私は子供ではないのだがな。まあ、選ばせてもらえるなら好きなものを選ぶとしよう。


ふむ、豚骨ラーメンに醤油ラーメン、味噌ラーメンと焼きそば。まあ、豚骨だけだがラーメンは昨日食したからな。ここは焼きそばとしよう。……ちょっと待ってほしい。何故お湯を入れて作るはずなのに焼きそばなのか。作り方を読んでも…やはりインスタント麺というだけあって焼くという調理工程は存在しない。お湯を入れて待ち、湯切りするだけ。おかしいではないか!!これでは茹でそばだろう!?というかそういう調理をするものはパスタというのではなかったのか!?何故だ日本人!!


……落ち着こう。あくまでインスタント食品。本当の焼きそばを作るわけでは無いのだ。インドではカレーという料理は無く、それぞれスパイスの配合が違い名前もちゃんとあるが、日本人が食べると違いが対して分からず全てカレーだと断じてしまうという話もある。つまりはそういうこと……いや、何か例え話の選択を間違っている感じがするが…?…まあいいか。つまりは、これは焼きそばであって焼きそばではない。色んな焼きそばの形態があるということ。ただそれだけだ。


そんな思考をしながらも、私の手は書かれた手順通りにカップ焼きそばを作るべく動いている。ふむ、絵までついているとは親切だな。これなら言葉が分からない者も作れるのではないか。それと、この入れ物の側面に書いてある原材料名や成分表示というのは興味深いな。細かいところまで心配りがされている。し過ぎと言っても過言ではないほどにだ。

具材は元々入っているのか。ではソースなどを出して湯を注ぐだけか。よし、内側の線まできっちりと入れた。では3分待つとするか。

………

………………

よし、3分だ!ここを剥がして、湯切り。ふむ、おおよそ切れたか。これで良いだろう。ではソースとマヨネーズ、青のりをかけていただくとしよう。おお、なんと香ばしい匂いだろうか。濃厚なソースが…麺によく絡んで非常に美味い。たまにキャベツらしきものの食感がするのもまたなんとも素晴らしい。マヨネーズのマイルドさがそれを包み、黄金比のようなバランスで成り立っている。くっ、しまった。マヨネーズをかける前のものも食べて比べるべきであったな。

…またしてもしまった。この辺りにちゃんとソースがかかっていない。逆にこちらはソースが多すぎた。何たる失策か。一見簡単なように見えても、カップ麺の道は深く険しい…ということか。

また賞味する機会があればリベンジをするとしよう。そんな熱い思いを胸に、私は焼きそばを食べ終わるのであった。






お読みいただきありがとうございます。

次の登校は9月22日0時になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ