女王陛下はキスをする?
5/23はキスの日だと知り、突発的にTwitterに流したツイノベです。
こちらに投稿するにあたり少々加筆修正を行いました。
今回は女王視点です。
「デリア陛下。何をお読みになってらっしゃるんです?」
最近手に入れた小説をこっそり読んでいたら、どこからともなくヴェルナーが現れた。
慌てて隠そうとしたけれど時すでに遅し。
手の中にあったはずの本は、いつの間にか彼の手に渡っていた。
「なになに……『唇が腫れるほど沢山のキスを』──ああ! いま流行ってる恋愛小説ですね。特に女性の間で大人気だと伺っております。そうですか、デリア様もご覧になっていらしたのですね」
「う、うるさい。あなたに関係なんてないでしょう」
バツの悪さを怒りにすり替えて喰ってかかった途端、彼は私の座っている椅子の肘掛けに両手をついて身を乗り出してきた。
端正な顔が近い。近すぎる!
「ねぇ殿下。試してみませんか? どの位キスを重ねたら唇は腫れるんでしょうね?」
そんなの知るか! 知りたくもない。
「ちょっと! お退きなさい」
「嫌です」
「どきなさい」
「だから嫌だと」
押し問答の間にもどんどん顔が近づいてくる。
絶対絶命。万事休す!!
──あ。
今、とても良いこと思いついた! これならきっとうまく逃げられるはず!!
「わ、分かりました。唇が腫れるほどのキスですね。良いでしょう」
「陛下!?」
ヴェルナーは信じられないようなものを見る目で私をまじまじと見つめた。
「本当にいいんですね?」
「女王に二言はない」
さぁ来い。受けて立ってやるわ。
「デリア、陛下……」
嬉しそうに目を伏せるヴェルナーが少しばかり不憫に思えたけれど、ここで許してしまっては良くない。私のためにも、彼のためにも!
──よし、いまだわ!!
タイミングを見計らって、勢いよく頭を前に振る。
と、衝撃とともに、ゴチン! と良い音がした。
「痛いわ……」
額がちょっと痛いけど、でもまぁこのぐらいは何ともない。
その代わりと言ってはおかしいけれど、不埒者ヴェルナーは床にしゃがみこんで悶絶している。 ざまぁみやがれ、だ。
「陛下! 何をなさるのですか!」
「あら。異なことをおっしゃるのね。唇が腫れるほどのキスをしたのですが?」
「こんなのキスじゃありません、ただの頭突きだっ」
唇を腫らして抗議してくるヴェルナーを置いて、私はさっさと退室した。
いつもからかわれてるんだから、たまにはこのぐらい意趣返しさせて貰いたい。
…… とりあえずリリィにお願いして彼の手当てをして貰おう。明日までに腫れが引けばいいけれど。