第一話 勇者の遺したモノ
伝説が、死んだ。
魔王を退け、この国に半世紀の平穏をもたらした勇者。神に選ばれ、空間そのものを切り裂く奥義『次元斬』を操った英雄は、病床で静かに息を引き取った。
「……ミカ。あとは、頼んだよ」
それが師の最期の言葉だった。
この世界の理は残酷だ。勇者の力は遺伝しない。前任者が死ぬと、その国に住む十五歳の男女の中からランダムに「次の勇者」が選定される。だが、選ばれたばかりの若者がすぐに戦えるはずもない。
魔王はこの瞬間を待っていた。
勇者の葬儀が終わる間もなく、事態は動く。
数多の魔族を率いて現れたのは、歴代最強の勇者との戦いを避け、あえて彼が老いさらばえるまで数十年も身を潜めていた狡猾な魔王だ。
次の勇者が誰になるのか、その若者がいつ勇者の力に目覚めるのか。そんな不確かな希望を待っている時間など、一刻もありはしない。
王都の正門前、押し寄せる魔族の群れを前に、一人の少女が立っていた。
ミカ・ウェンディ。
彼女は十五歳だが、神の「選定」を受けた勇者ではない。ステータスも平民のそれであり、装備も心許ない。
「止まりなさい、化け物ども。ここから先は、絶対に通さない」
ミカが手にするのは、どこにでもある鉄の剣。
魔族たちが嘲笑う。勇者でもない小娘に何ができる、と。
ミカは静かに腰を落とし、呼吸を整えた。
神から与えられる「力」ではない。師と共に、何十万回、何百万回と繰り返した素振り。空間の歪みを掴み、理を断つための理論と修練。
――勇者しか使えない? そんなの、師匠が笑い飛ばしてたわ。
「……『次元斬』」
一閃。
音もなく放たれた斬撃は、目の前の空間ごと、魔王の先遣隊を一刀両断にした。
神の奇跡ではない。
これは、人間が積み上げた執念の証。
新米勇者が目覚めるまで、あと数日。
世界で最も過酷な「時間稼ぎ」が、今始まった。
初めての投稿なので生暖かくご覧くださいな




