表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/60

ゴミ屑達

やっとそれを見つけた興奮を抑えきれず

思わず叫んでしまい、店主は慌てた顔をする

「旦那、気は確かですかい?」


気は確かかなんて、そんなの言われるまでもなく

俺は正気以外の何物でもなかったが

目の前のシロナと名乗った彼女も、店主もまるで気が違えた狂人を見る顔をしていて


…確かに冷静を欠いていたという他ない

「…すみません」

「ちょっと興奮しすぎました」


「えっと、服着てくれるかな?」

少女は何も言わず、脱いだ衣服を再び着始め

俺は言葉を続ける

「あとの二人も見せていだだいて良いですか?」


そう言った俺を信じられない様子で見る店主だったが、その言葉通りあとの二人も、檻から出されて目の前に連れてこられる


まずは、青色がかったの髪をした耳の尖った

端正な顔立ちのお姉さんに聞いてみる

「名前を聞いてもいい?」


その言葉に、彼女は戸惑ったような顔を浮かべ

しばしの沈黙の後にボソリとそれを呟く

「…リーフィアです」


「リーフィアさんは得意なこと無いですか?」

「歌とか、踊りとか」


その質問に、全員が困惑した顔を浮かべて

おずおずとそれに答えるリーフィア

「…一応舞いなら多少嗜みがあります」


…経験者、これは大きいアドバンテージだ

彼女はスタイルもいいし舞台映えするだろう


次は茶色っぽい赤毛の角のある小柄な…

というか、小学生のような少女に俺は向きなおる

「始めまして、お名前は?」


その言葉に、少女は満面の笑みを浮かべて

「あたしはニナ」

「残念だけど、歌も踊りもやった事ない」


「…聞きたいんだけど働ける年齢なんだよね?」

その言葉にニナは頬を膨らませる

「私ゴブリンだから小さいだけだよ」


…合法でよかった、危ういルックスをしていたので心配だったが、向けられた眩しい笑顔を見て

ーーこの子も、多分向いている


そんな二人を見て

先ほど抱いた興奮を抑えきれなくなり

「ここは天国か!?」


もはや、すべてを諦めたような顔をしている

店主に向かってそれを聞く

「いくらあれば、売ってくれる!!」


店主はそれに目を白黒させながら

「…ゴミを買うんですかい?」


…ゴミ?宝の間違いだろう

まさに、アイドルになる為に産まれてきたかのような三人を前にして

興奮そのままに、鼻息荒く店主に詰め寄る

「いくら出せばいいと聞いてる」


「き、金貨30枚で…どうでしょうか」

俺はそれに即答する

「…買った」


彼女たちもその会話で

やっと事情を飲み込んだようで

リーフィアは恐る恐るといった様子でそれを聞く


「えっと…私達買われるんですか?」

ニナも不思議そうに

「しかも…全員?」

シロナは溜息をついて

「馬鹿なのかしら?」


「君達アイドルにならないか?」

その言葉に、店内は静まり返ってしまい


店主は呆れたようにしながら

「その…さっきから言ってる、あいどるっていうのはなんですかい?」


…そうだった

そもそもアイドルが何かを説明してなかった


入り口に置きっぱなしのビジネスバッグから

タブレット端末を取り出して

彼女達の前に持っていく


「取り敢えず、後で説明するからまずはこれを見てほしい」


俺が再生ボタンに触れると

そこには薄暗闇が映しだされて

しばしの沈黙の後に、スポットライトがステージを照らし出した瞬間ーー


割れんばかりの歓声が巻き起こり

それに応えるように、きらびやかな衣装に身を包んだ女の子が叫ぶ

「皆、元気かなー!?」


「「うぉおおおー!!」」

怒声にも似た、歓喜の声が会場を揺らし


「元気いっぱいみたいだから、最後まで盛り上がっていこー!!」


それを合図にしたように曲のイントロが流れ始め

極彩色の光が、まるで星空のようにステージの周囲を照らしだす


これは、地下アイドルから国民的アイドルグループにまで上り詰めた「ジュエリスタ」

彼女たちの初単独ドームコンサート、その映像


一曲目が終わりオープニングMCの途中で俺は映像を停止させる

「…これが、アイドルだ」


それを眺めていた彼女達は

それぞれ、三者三葉の顔をしていて

まず最初に口を開いたのはリーフィアだった


「えっと…狂信的な宗教なんですか?」

確かに絵面だけを見ればそう見えなくないかもしれないが、それは違う…

「いや、宗教じゃない」


次に口を開いたのはニナで

「この後、皆で殺し合うんでしょ?」

…世はまさに、アイドル戦国時代だが

流石に殺し合いとか怖すぎだから…

「それも違う」


最後に口を開いたのは

無表情なままそれを眺めていたシロナで

「いつになったら脱ぐの?」

「あの人数じゃ、さっさと始めないと何日掛かっても終わらない」


…会いに行けるアイドルは居るが、ヤリに行けるアイドルは居ねぇよ

つーか、それもうアイドルじゃねぇから!!


総括してみれば、全然伝わって無いようで


「服は脱がない、殺し合わない」

「身体を売るなんてもってのほかで」

「あそこに居るのは神でもない」


「可愛い女の子が笑顔で」

「綺麗な服着て、歌って踊る!」

「それがアイドルだからね!?」


大分、ざっくりとして語弊だらけの説明だが

こんな調子では埒が明きそうになく


「…で、それをゴミにやらせると」

「やっぱり、頭おかしいんじゃないですか?」

そう言葉を返したのはこの店の主


「…てか、さっきからゴミ、ゴミうるさい」

「なんなの?」

「ゴミじゃねぇから?アイドルだから」


ーー再度その場に訪れる沈黙


「どんな夢を見てるんだか知らねぇですけど」

「コイツらはなんの価値もねぇゴミ屑です」


店主はリーフィアの鎖を引っ張り

一歩前に立たせて

「おい、ゴミ屑」

「お前らエルフが得意なのは何だか教えてやれ」

リーフィアはそれに弱々しく答える

「…魔法です」


「じゃあ、新しいご主人様にそれを見せてやれ」

リーフィアは俯いたまま

「…違いもわからない癖に」

ボソリと呟き

そういったきり、立ち尽くしたまま

何もしようとはしない


「どうした、出来無いのか?」

まるでそれをわかりきっているのに

そんな事を聞いたのであろう

店主の声は嘲ったような響きで

「出来ねぇよな、だってゴミ屑だから」


そう言い捨ててリーフィアに繋がれた鎖を引っ張っぱり、次はニナを前に押しやる

「テメェが何が出来るか教えてやれ」

ニナは震えながら懇願する

「…言われたことを出来るように、精一杯頑張ります」


「何が出来るか聞いたんだ」

「それを言えと言った」

「テメェはそんなことすらわからねぇ能無しか」


その言葉にニナは諦めたように

「…ゴブリンは人よりも力が強いです」

「で、角が折れて人以下のテメェは何が出来るか言ってみろ?」

少女は嗚咽しそうになりながら

それでも堪えていて


「ほら、ここにはゴミしか居ねぇんですよ」

「奴隷以下のゴミ屑しかねぇ」

ーーまるで嘲笑するようにそれを言う声に


俺は怒りに任せ袋から金貨を地面にぶち撒ける

「…代金だ、拾えよ」


それを見た店主は忌々しげにそれを見て

「ゴミ屑でもそれくらい出来るだろう?」


店主のそれを聞いた少女たちは

慌てて金貨を拾おうとするが

「シロナ、リーフィア、ニナ」

「…君達がやる必要は無い」


俺は店主を睨みつけて

「俺が拾えって言ったのはそこのハゲだ」

「だってそうだろ、俺は買った」

「…お前に命令する権利なんて無い」


そして、俺はもう一度告げる

「聞こえなかったか?」

「拾えって言ってんだよハゲ」


ーーどこの世界も変わりはしない

世界は冷酷で、残酷で、不平等で

だけど、それでも確かに


「…馬鹿じゃないの?」

「値段なんて口から出任せのボッタクリで」

「私達にそんな価値なんて無いのに」

呆れるようにそれを言ったのはシロナで

俺は彼女に向き直る


「シロナ、その価値は君が決めるもんじゃない」

「ましてや、そこのハゲが決めるもんでもない」

「…俺が決めるんだよ」


笑みを見た時、声を聞いた時、姿を見た時

彼女達はアイドルになるべきだとそう思った

ーーだから俺は迷い無く、それを告げよう

「君達は今日からアイドルになる」


「…要はアイドルっていうのはサーカスで」

「そして貴方は、私達をピエロにしたいと?」


それは、どこか自虐じみた響きを持ち

静かな怒りを孕んだような目でこちらを見て

シロナは静かにそれを問う


サーカスに、ピエロ…

確かにそれが一番近いのかもしれない

ステージを作り観客を集めて興行を行うのだから

それはサーカスと言えるし


笑顔を貼り付け、涙を隠して自らを観客の前に晒して売り物にするのだから

ーー確かにピエロで間違いでなくて


「嫌か?」

それに彼女は俺の目を見て

「だって、貴方が飼い主になるんでしょ?」

「私達に拒否権なんて無いから」

「命令すればいい」


狐耳の彼女はそこまで言って

天使のような笑みを浮かべて

俺に抱きつき、耳元で囁く


「…だから言ってください?ご主人様」

「お前達は今日から、見るに耐えない愚かなピエロになるんだって」

「嘲笑される事で金を稼ぐ道具になるんだって」


「…そうじゃ無ければ、生きる価値すらないゴミなんだって」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


なにも、違うなんて言えなかった

アイドルなんて綺麗な言葉で取り繕っても

彼女達にとっては、何一つ変わらなくて


ーーそれを知りながら、なお


「今日から君達は、アイドルだ」


それを聞いた三人は

それでも、俺の目を見て答える


「はい、ご主人様」

「それが命令なら喜んで」


ーーその言葉も、その笑顔も

今は、まだ何一つ本物ではなく

ただ歪んだ契約の上に成り立っているだけの

欺瞞と幻想でしかなくて


そんなものの上に作られた

偶像(アイドル)だと知りながら


それでも俺は確かにその日

僅かばかりに光る、それを見つけたのだ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ