感染者とクズその二
銃声が耳に響くと同時に掴みかかった人は頭に穴が空く。
「え…」
飛び散った血が顔にかかり、生暖かい温度が伝わる。
その血と伝わる温度、それと人が銃で撃たれたと言う状況が頭を混乱させる。
「大丈夫かっ?!」
声を掛けられるが、全く耳に入って来ない。
「おい、あんたっ!怪我は無いかっ!」
肩を掴まれ、それでようやく気づく。
「は、はいっ?!」
目の前には迷彩服を着て、ライフルで武装している。
「噛まれたりしてないか?」
「岩山さん、早く行きましょうよっ!奴らが寄って来ますよっ!」
「落ち着け。市民の保護も大事だ。我々は自衛隊だ、君を保護する」
「は、はぁ…」
覇気の無い返事を返す。
「あいつらが寄って来る、そろそろ行くぞ。安全な場所に行くぞ」
「行くってどこへ行くんですか。それに民間人を連れて行くんですか?」
「良いから行くぞ、死にたいのかお前は」゜
「いえ、そう言う意味で言っているわけじゃありません。危険が…」
二人が話しているとどこからか、さっきと同じ呻き声が聞こえる。
「行くぞ。おい、若いの。お前、どこに隠れてた?」
その言葉でやっと我に返る。
「あ、駅前のホテルです」
「解った、直ぐに移動する」
ホテルには直ぐに到着する、建物内に足を踏み入れる人気がすっかり無くなっていた。
さっきの騒ぎでどこかへ逃げてしまったのだろう。
それはそれで都合が良いのだ、何せ迷彩服を着た物騒な人間が三人も一緒にいるからだ。
「はぁ~、やっと一息つける…」
自分が使っていた部屋に四人の男が座っている。
「え~、まずは助けてくれてありがとうございます。あなた方は自衛隊ですか?」
最初に口を開いたのは自身だ、緊縛した空気に耐え切れないからだ。
耐え切れないと言うより、慣れていない。
「そうだな、俺達は陸上自衛隊所属の岩山雅一等陸曹。
こいつは部下の佐藤三等陸曹と小林三等陸曹だ。よろしく」
「それで何で、自衛隊の人達がここにいるんですが?」
「そうだな…、どこから説明すれば」
「岩山さんっ!それ以上はっ!」
「お前は真面目すぎる。それにな、もう見られた」
その瞳には何かを訴えるような、真っ直ぐな眼差しをしている。
「山奥で実験してたんだ」
「実験…?」
「あぁ、国ぐるみでな。生体実験だ」
「それってさっき見たいな、人がおかしくなる…」
「正確には人じゃないんだ」
「え?」
「感染者だ」
「感染者?それってゾンビ映画みたいな?」
「それに近い。実験に失敗して、部隊は壊滅。俺達が派遣されたわけだが…」
半信半疑だが、この話は本当かもしれない。
それに自分は倒れた人に突然襲われた。
「信じないだろうから、その窓から覗いてみろ」
言われるがままに五階の窓からさっきまでいた道路を見下ろす。
「「あぁ…」」
衝突した車に千鳥足で数人が近づいて行く。
その光景を固唾を飲んで見ていた。
助けて行かなくてはと思っているが身体が恐怖で動かない。
それと行きたくないと言う、感情が支配する。
呆然と見ていると車から出来た人が追われ、千鳥足で近寄って来る人間達に囲まれる。
「え…」
「夢見たいだろうが、真実だ」
直ぐに窓から離れ視線を部屋に戻す、まるで事実から目を反らすように。
それは当然の事だと思う、それに普通の人間はこんな出来事は理解できないはずだから。
「それとカーテンを閉めろ。できるだけ、明かりを外に漏らすな。奴らが寄って来る。
音も最小限に抑えろ」
「は、はぁ…」
「何か、布はないか?カーテンじゃ不安だ」
自衛隊の三人は同じ階の部屋を物色して、大きめの布を集め、カーテンレールに洗濯ばさみで取り付ける。
「他の客はいないみたいだな…」
「この騒ぎで逃げたんじゃないですか?」
「まぁ、その方が都合が良い。物資も手に入ったしな」
「それで岩山さん、これからどうします?」
「そうだな…、今日はここで一晩過ごす」
その会話を聞き流し、携帯でSNSを開く。
『今日、まで最悪なんだけど。ゾンビに襲われるとか映画の世界でしょ』
気になり、山形県のニュースをSNS内で検索すると出て来ない。
「え…?」
『今日のニュースですが…』
テレビもつけているがさっき起きた事の情報は一切流れていない。
「無駄だぞ」
「え?」
「あれだろ?今起きてる事を携帯で調べてるんだろ?」
「はい」
「出て来ないぞ」
「な、何でですか?!国が隠蔽でもしてるんですか?!」
「それは知らんが、俺達も本部に連絡しているが繋がらない。
それに外部に情報が伝わるのは遅いだろうよ」
「え…。それじゃ、助けは来ないって事ですか?」
「そう言う事になるな。他力本願するよりも、自分でどうにかするしかない」
「そんな…」
その言葉を聞いて、絶望と言う二文字が頭の中を駆け回る。
今まで自分で判断して行動した事がない為、不足の事態が起こると思考停止する。
だが、他人の責任にはするのは得意だ。
「それって無責任じゃないんですか?自衛隊は一体、何をしてるんですか?」
「おい、民間人。少し、黙っててくれないか?」
部下の一人が食って掛かってくる。
人を中傷、非難、責任転嫁するのは得意だが言い返されるのは苦手なのだ。
「は、はい…」
黙って部屋のベットで横になり、携帯をいじくる。
『はぁ~、自衛隊マジくそ。ゾンビに食われて死なないかな~』
SNSで愚痴を書き込む。
「明日は日が明けたら、ここを車を取りに戻る」
「その後は?予定通りに実験場に向いますか?」
「いや、直ぐには向わない。普通に行けば車で直ぐに着くが奴らうようよしてるはずだ。
物資を集めながら、移動した方が良いだろう。それに民間人も一緒にいるしな」
「そうですね。遠回りになりますがそれで良いと思います。それと良いですか?」
「何だ?」
「わざわざ実験場に行かなくても、車でここから出れば良いんじゃないですか?」
「それもそうだな。まぁ、様子を見ながら行動しよう。今日は寝よう」
四人共、ビジネスホテルの狭い部屋で就寝する。
「あぁ~」
「うぅ…」
静まり返った外から生者か死人か判別出来ない、呻き声が聞こえる。
正直、恐怖で中々眠れない。
目が覚めたら、夢だったと願い意識が遠くなるのを待っていた。
現実に帰って、やる気の無い日々に戻りたい。
デスクに座って、指示されたデータ入力をしていたい。
今まではその生活が苦痛で仕方なかったが、この状況の方がもっと嫌だ。
自分自身で考えて行動する事が出来ない事が今になって痛手になるとは想像もして来なかった。
それに周りの人間に「人の言っている事だけやっていれば良い」と今まで言われ続けてきた。
その方が自分の人生が幸福であると教育されて来たからだ。
だから、人と同じ事をしない奴は見下される。
だから自分も夢や目標と言っている人間は馬鹿にしている。
それに夢や目標を追っている奴は目に見えている苦労をしている。
そんなの無駄だし、なぜもっと効率良い方を選ばない。
他人を馬鹿にして、見下していたのが今になって自分に返って来た。
だが自分は悪くない。そうだ、自分は悪くないのだ。
悪いのは自衛隊、悪いのは国、悪いのは会社。
だから自分に責任はない、何もしなくて良いのだ。
それに何をして良いか解らないし、また山に戻るとか疲れる事をしようとしている。
努力と言う言葉がとにかく嫌いなのだ。
努力はすれば報われるとか、老人達が勝手に考えた作り話だ。
現代は効率化と簡略化の時代で苦労と試行錯誤は無駄と無駄。
「おい、起きろっ!若いの」
「え?朝ですか?」
「そうだ。奴らが昨日より増えてやがる。支度して行くぞっ!」
「もう、行くんですか…」
「近くまで来てるんだっ!早くしろっ!」
この命令口調がいちいち癪に障る。
『こちら屋上。こちら屋上、聞こえますか?』
「あぁ、聞こえるぞ小林。どの位来てる?」
『数は視認できませんが、数十体はいます』
「了解。ただちにその場を離れ、我々と合流。その後ホテルから出発する」
『了解』
何となく、窓の下を見てみると昨日より死体が増えていた。
「それと、これ持ってろ」
「え?はい…」
ご丁寧に渡されたのは、見上げ屋で勢いで買った木刀。
「これで少しは丸腰よりはましなはずだ。行くぞ」
四人は支度を済ませ、ロビーに降りる。
「あぁ…」
「うぅ…」
入り口の直ぐ側には感染者達が動き回っていて、正面玄関からは出るのは危険だ。
「どうする?」
物陰に隠れ、小声で話す。
「非常口から出ますか?」
「そうしよう、弾はできるだけ使いたくない」
四人は引き返して、階段を上る。
「昨日より、増えてやがるな」
「そうですね、ここに攻め込まれるのも時間の問題です」
非常口のドアノブを握る。
それと同時に他の二人が銃を構える。
「3、2、1…」
扉が開くと普段では何の変哲もない、裏路地が見える。
だが、今は扉も開けるのも緊張するのだ。
「クリアっ!」
自衛隊の二人に挟まれ、外に出る。
外に出る事には成功したが、大通りには大量の感染者。
「あそこを通らないと、車までいけませんよ」
「手榴弾はまだ、あるか?」
「ありますけど…、どうする気ですか?」
「俺に考えがある。奴らは音に反応するよな?」
「はい。それで手榴弾を使うんですかっ!」
「あぁ~」
「くそっ!寄って来やがったっ!」
「銃は使うなっ!」
銃を撃とうとした、部下を制止。
「良いか、奴らは動きが遅い。これを使う」
岩山はリュックの脇に付いてた、約60センチくらいの鉄の棒を取り出し。
「あぁぁぁぁぁっ!」
「ふんっ!」
感染者に近づき、頭に力一杯振り下ろす。
それと同時に頭が割れ、倒れる。
さらにとどめにもう一撃を加える、すると周りには血の海になり、さらに脳が飛び散っていた。
まるで、殺人事件を目撃しているようで吐き気がする。
「うっ…」
「どうした?民間人?吐きそうか?吐いても良いぞ」
どう言う意味で彼が言っているか考えている余裕もなく、吐いてしまう。
「どうした、若いの?吐いたのかよ…。最初は慣れないかもしれんが時機に慣れる。
じゃないと、お前死ぬぞ?行くぞ、奴らが近くまで来てる。さすがに挟まれたら、終わりだ」
大通りを覗くと昨日の倍以上は増えている。
近くで見るのははっきり言って、気色悪くて不気味で不快だ。
「丁度、車の近くにいやがる…」
緑色の車の周りにうろついている。
「俺が、投げる」
手榴弾が放物線を描き、地面に落ちると轟音が響く。
「「あぁ…」」
見事に音の方向に感染者達が足並みを揃えて向かって行く。
「あぁ…」
「まずいっ!後ろからもきやがった、走れっ!」
四人は車まで全力で走る。
「はぁ、はぁ…」
久しぶりに全力で走っている所為なのか解らないが、息切れしている。
恐怖と緊張も関係しているだろう。
逃げ切らなければ、自分の人生は終わる。
「「あぁぁぁぁっ!」」
数体がこちらに気づき、向かって来る。
「こっちに来たぞっ!」
「解ってますっ!全員、乗ってっ!」
車のエンジンがかかり、その場から出発する。
市内から少し離れた、ガソリンスタンドで休憩する事になる。
「一事はどうなるかと思いましたよ」
「あぁ、何とかなったな」
「これから、どうします?予定通り、住宅街に一旦身を隠しますか?」
「そうだな…」
三人の会話をしている最中、携帯を開く。
『マジで死ぬ所だったわ、テンション下がるわ。最悪』
携帯で文字を入力しながら、水分を口に流し込む。
SNS上でも現在の情報は流れて来ない。
政府が隠蔽でもしているのか、それとも他の目撃者が死んだか。
「今日中に住宅街に入って、拠点を作る。物資を集め、その後山に入るぞ」
「岩山さん、そんなにゆっくりで良いんですか?」
「あぁ。正直、状況が掴めない状態で動くのは危険だ。それに感染者が明らかに増えてる。
それに夜になって視界が悪くなのはできるだけ避けたい」
「そうですね、解りました」
「それじゃ、そろそろ出るか」
車の窓から見える風景は普通に見えるがそこら中に放置された車。
それに死体が転がっている。
千鳥足で歩いている人だったものも見える。
都心部から、離れた場所も奴らが現れ始めた。
発生元は山からだとすると、山に近づくに連れて感染者が増える事になる。
「到着しました」
車が停車する。
「全員、戦闘態勢。銃はなるべく使うな、車を隠す車庫を探すぞ」
三人は近接戦闘用の武器を構え、隊列を組み路地を進む。
奇妙な静けさに四人の呼吸がそれぞれの耳に入る。
この緊張が肌に伝わる、今まで感じた事が無い。
「「あぁぁぁぁっ!」」
進むと数体の感染者がこちらに向かって来る。
「良いか、頭を狙え」
部下の二人も武器を高く構え、力一杯に振り下ろす。
鈍い音と同時に感染者の頭が割れる。
その光景をただ傍観していた。
自分は関係無い、責任は無いと思いたいからだ。
それに自分は悪くない。
この場から逃げたいと言う気持ちが強くなって来る。
「おいっ!若いのっ!何、ぼけっと突っ立ってんだっ!加勢してくれっ!」
そんな声も耳に入らずに震えている。
怖いのは当然だ、突然こんな訳の解らない状況。
それに目の前で人が死んで、怖い訳がないのだ。
自分は正常だ、この人達が異常なのだ。
そうだ、俺は悪くない。
「くそっ!」
銃を取り出し、その場の感染者達を始末する。
「近くの家に入るぞっ!」
腕を捕まれ、民家に押し込まれる。
他人の住宅に土足で入り、玄関の鍵を閉める。
「部屋に入ったら、カーテンを閉めろ。それと、感染者達がいないか調べろ」
小声で岩山が部下に指示を出すが四人の雰囲気は最悪だ。
理由は外にいた、四人には解っているだろう。
そして、いきなり服を掴まれる。
「おい、民間人っ!お前の所為で岩山さんが死ぬ所だったぞっ!」
「おい、やめろっ!小林っ!今はもめている場合じゃないっ!」
「小林の言う通りですっ!こいつ、こんなクズ置いて行きましょうっ!」
クズと言う言葉だけが、耳に入って来る。
どうせ、自分の事を言ってるのだろうよ。
自分がクズなのは他人に言われなくてもとっくに知っている。
でも、治せないんだよ。人の言う事だけ聞いてからな。
だが、人に怒られると頭に血が上る。
「二人は二階で感染者がいないか調べて来い、それと二階で見張りをしててくれ」
「わ、解りました…」
二人は玄関の階段で二階に向う、その後ろ姿を睨む様に見る。
「お前は俺について来い」
「…」
リビングに入る。
足を踏み入れると何の変哲も無い、ただの部屋。
大型のテレビがあって、ソファ、テーブル。
台所があり、近代的な作りになっている。
住人がいない所を除いてはただの住宅だ。
恐らく、家主はどこかに行ってしまったのだろう。
カーテンを閉め、中が見えないようにする。
これは感染者対策だ。
「怖いか?」
突然、口を開き始める。
「まぁ」
「それが普通だと思う、俺達も応援要請を受けて現地に来て見たらこの有様だ。
最初はもっと部下がいたんだけでな、あいつらに殆どやらちまった。
上に連絡したが、審議中とかで応援すらよこさなかった。
それでも、生き残った俺達はなんとかここから脱出しなきゃいけない。
この事実を伝えなくちゃいけない。俺はそう、思ってる」
頭に血が上っていて、話を半分にしか聞いていないし、興味が無い。
それに自分には関係ないと思っている。
「若いの、お前は自分には関係無いと思ってるだろ?」
「まぁ…」
「そりゃそうだろうな。でもな、傍観者ではいられないぞ?
もう、お前さんは当事者だ。どんなに嫌でも、この逆境は変わらない。
自分で変えようとしない限りは死ぬぞ?」
「説教ですか?」
思った事が口に出てしまった。
「別に説教しているつもりはない。お前さんがそう聞こえるだけだろ?
良いか、お互いに協力しないとこの状況は切り抜けられない。
頭に来ているのは解っているが、この状況から出たいなら協力してくれっ!
変なプライドで今もめている場合じゃないんだっ!」
この言葉で何かが弾け。立ち上がり、玄関へ向う。
すると、木製のバットが立てかけてあるのを見つけ手に取る。
鍵を開け、外に出る。
「あぁ~」
外に出るとまずは一体見つけ、木刀を力一杯頭に叩きつける。
「そうだよっ!俺のせいだってわかってるよっ!悪いかよっ!」
地面に倒れ、頭から血が流れているがまだ木刀を叩きつける。
「俺だってなっ!来たくて、ここに来たんじゃなぇんだよっ!
クビにするって言われて、仕方なく来たんだよっ!」
「「あぁ~」」
「うるせぇっ!」
「あ…」
さらに5体の感染者が寄って来たが一体の頭を横殴りにする。
「そうだよっ!変なプライドは無駄にあるよっ!自分でクズだって解ってるよっ!」
それに続き、頭上からもう一発殴りつける。
すると木刀が折れ、半分になる。
その状態で頭に突き刺す。
「自分でもな、どう治して良いかわかんねぇんだよっ!他人はわかんねぇよっ!」
バットを感染者に向けて力一杯振り回す。
鈍い音が響き渡る。
「おいっ!何してるっ!家に戻れっ!」
「はぁ、はぁ、はぁ…」
この言葉で我に返る。
気づけば、周りは血の海、バットも血だらけ、ワイシャツも血だらけ。




