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我こそはモン娘テイマー也  作者: hoikun
四章 知るモンスターテイマー
87/104

80話 クロトガの在り方

今回はいつもより会話が多めです。

なるべく読みやすい文章を意識しましたが、ちょっと読みにくいかもしれません。

もし改善点や誤字が有りましたら、コメント欄にてご指摘お願いします。

 この世界には、獣人と言う種族がいる。

 身体的な特徴で言えば、身体に獣のような体毛があったり、爪があったり、頭部がそのまま動物のそれだったり。

 殆どの獣人が身体能力が高く、兎人や羊人なんかは魔法に長けている。


 獣人はずいぶん昔から存在しており、そのルーツは不明だ。そしてその中でも、特に謎の多い種族が二つあった。

 ひとつは銀狼。

 そしてもうひとつは、金狐。

 このふたつの種族は、伝説と語り継がれてきた。



「そう強張らずともよい。会話に興じるだけなのじゃからな。」



 加えて、クツクツと笑うキンは、尻尾が九本あった。


 地球では、狐は昔から何らかの力を持っている動物とされていて、その妖力が高くなると尻尾が増えていき、最終的には九本になる。九尾の狐の化身だとされている玉藻前たまものまえの話では、討伐軍相手に妖術を使い、一度退けているなんて伝説もある。

 それがこの世界の魔力で当てはまるとしたら。


 目の前で妖艶に微笑むキンは、どれ程の高みに居るのだろうか。



「くくっ、杞憂じゃ。妾はそなたらに対して何もせぬよ。」



 キンは愉快そうな表情のまま、俺達にそう言うと、ハルマーとニーアがビクッとした。

 案内がなければ行き来の出来ない場所に連れてこられ、これだけ力の差をまじまじと見せられて、二人は相当警戒していたのだろう。

 キンの言葉に、多少は警戒を解いたみたいだ。



「ただ……」



 キンは右手の人差指をクイッと顔の方に引く。

 すると俺の指から通話用の指輪が勝手に外れ、キンの方にふわふわと飛んでいった。



「あっ、それは……」


「くくっ、知っておる。じゃが、真の用途については聞かされておらんようじゃな。」


「……?」


「のう、聞こえておるんじゃろう。」



 キンは指輪に軽くキスをすると、指輪から声が聞こえてきた。



『……いや、やはり伝説の存在、金狐である貴女には敵いませんね。』


「……レイフさん?」



 こちらから魔力を流しているわけでもないのに、レイフさんの声が聞こえてきた。

 口調もいつもの優しい声ではなく、感情を押さえつけたような雰囲気だ。



「どうじゃ、妾の着物は。ヒトの世界でも高価なものだと聞いておるのじゃが、似合っておるかの?」


『……』


「くくっ、愉快愉快。時として沈黙もまた肯定よの。」



 レイフさんに対して、キンは上機嫌で話しかけている。ただ、話の内容はいまいち分かりづらいものだった。

 俺が頭にハテナマークを浮かべていると、さも愉快そうな表情でキンがこちらを見た。



『……何が目的ですか。』


「おや、それはこちらの台詞じゃがの。いたいけな少年の目を使って、妾の国で何を探しておる? 若きギルドマスターよ。」



 キンは、俺の目を見て、まるでレイフさんが目の前にいるかのように、レイフさんと話を始めた。



『誤解ですね。私はその少年、ユウスケが辿る世界を見たかっただけですから。』


「はて、どうかの。うら若き少年の冒険を見るには、ちと効力が高すぎるのではないか?」


『彼には、その価値がありますから。』


「ふむ、言い得て妙じゃな。そなたらにとっては悩みの種じゃしの。まぁ、妾には関係のないことじゃが。」


「ち、ちょっと待ってください。何なんですか? 真の用途とか、俺が悩みの種とか、いまいち話が見えてこないんですけど。」



 俺は我慢できずに二人の話に割って入る。さっきからよく分からないやり取りばっかりされて、でも頭のどこかで引っ掛かることばかりで、とにかくスッキリさせたかった。


 俺が割って入ると、キンはニヤリと笑う。



「のう、本当に分からぬのか? うすうす感づいておるのではないか?」


「何を……」



 俺は言いかけて、レイフさんとの昔のやり取りをふと思い出した。

 そのやり取りに、今になって違和感を覚えた。


 確か、俺がヒサメを仲間にしたとレイフさんに報告した時、レイフさんはやけにあっさりしていたような。


----------------


「何よぉ、あんなに身体を撫で回してくれたじゃない。」


「その言い方はやめろよ! ヒールしただけだろ!」


『ははは、とにかく、無事でよかったよ。これからも気をつけて冒険してくれ。』


----------------


 ……そうだ、俺がヒールを使ったって話に、ひとつも反応していなかった。

 モンスターテイマーがヒールを使えるなんて、誰に話したって信じてもらえないようなおかしい話だ。

 それを、まるで分かっているような口ぶりで会話を終えた。


 そうか、分かっていたんだ。一部始終を見ていたから。だから何の反応もなく、流したんだ。



「つまり、その指輪を通して俺の事見てたってことですか。」


「おぉ、大正解じゃ。これは何か褒美をやらねばの? 若きギルドマスターよ。」


「でも、なんでそんなこと……」


『監視だよ。』



 レイフさんが、より冷めた声で答えた。

 レイフさんの後ろで、何やらレイフさんを呼ぶ声がしているが、それを制した。



『君が、ヒトにとってどんな影響を与える存在になるか、監視していたんだよ。一歩間違えれば、我々の敵になり得るからね。』


「俺が敵に? そんなことあるわけ……」


『あるよ。君が思っているほどヒトは美しくないし、人型である彼女達を知れば知るほど、君は人型に手を貸そうとするだろう。もし君が大切にしている人型が誰かに殺されたら? その一族が皆殺しにされていたら? 君はもう、人型を知らない時のように振る舞えない。君の行き着く先は、リアのような存在かもしれない。』



 あるわけない。

 その言葉が、口から出せなかった。

 今までぼんやりとしか考えていなかった、想定される未来を突きつけられ、俺は想像してしまった。

 シロナが、ヒサメが、いや、この二人だけじゃない。リーニャが、この先仲間になるかもしれない人型が、もし誰かに殺されたら、俺はどうするのか。



『君が夢に近づけば近づくほど、僕らは大きな爆弾を抱えることになる。だから君を監視するために、その指輪を渡した。それは僕が君と感覚を共有する為のアイテムだ。感覚を共有すれば君の声は僕に届くし、僕は君の目から周りを見ることができる。』



 俺は、それを静かに聞いていた。レイフさんの言い分が分かるからだ。自分の事を、今初めて客観的に見て、納得できる部分が多かった。

 俺がどう思ってるとかじゃない。周りにとっては、人型を連れたテイマーと言うのはそれほど驚異の存在でもある。それは、今まで色々な町に入った時の、周囲の目線で分かることだ。

 すぐに受け入れたアステニアが、おかしいだけだった話だ。



『それとすまないが、君を利用させてもらったよ。クロトガに彼女の情報があると踏んだからね。』


「彼女?」


『ずっと調べていたんだよ。そしたら、ひとつ古い手記が残っていてね。当時最大規模の盗賊団の物だったんだ。その中に書いてあったよ。銀狼の住処と、その移住先について。』



 銀狼……というと、彼女ってもしかして。



『そう、リアの事だよ。まさか銀狼を探して、もうひとつの伝説である金狐をお目に掛かれるとは思ってなかったけどね。』



 リアの情報がクロトガにある?

 都合よく目的地が重なりすぎてる。

 俺は魔王の情報を集める事と、ニーアの護衛をかねてこのクロトガに来た。そこにリアの情報も都合よくあるなんて。

 いや、獣人の国だ。銀狼の情報があるのはおかしくないのか。

 魔王の情報は嘘なのか? でも、冒険者ギルドの受付嬢の振る舞いからして、クロトガのどこかに資料があるのは間違いなさそうだけど。


 ……もしかして。



「それで、俺達に彼女を連れていけと言ったんですか? そこにリアが居るかもしれないから。」


『……彼女とは?』


「ニーアさんですよ。戦えないって言うの、嘘なんですよね?」



 俺の隣で、リーニャが驚いたような声をあげた。

 レイフさんとニーアは、黙っている。

 先を続けろってことか。



「今まで疑ってすらなかったですが、ニーアさんもひとつミスをしています。レイフさんは、ニーアさんが敵意に怯えて戦えないと言いましたよね? でも、ニーアさんにはそれほど細かくオーダーを出していなかった。だから予想外のイベントがあった時、その演技が出来なかったんですよ。」



 俺は思い出す。ニーアが全く動じなかったあの時の事を。



「クリシュナードに到着して最初に貴族に絡まれた時、怯えていました。それは人の敵意にも怯えると言うことになります。でも、その後宿に来たハルマーさんの威圧には全く動じていない。おかしいですよね? 貴族に絡まれたときよりも明らかに強い威圧だったのに。」



 実際に向けられていたのはリーニャだ。だけど、俺にも感じられるほどに周囲に放たれた威圧を、ニーアだけが感じないなんておかしい。



「それに、敵意のないシロナやヒサメに怯えていたのもそうです。魔物に怯えるのか、敵意に怯えるのか、臨機応変に対応したが為に穴が出来てしまった。そうですよね?」



 正直、完璧な推理だとは思っていない。足りない情報が沢山ある。

 だけど、状況を繋いで一つの線にするには、このシナリオしか思い浮かばなかった。


 暫くの間、沈黙が続いた。



『……ひとつ。』


「……?」


『僕と、ニーアのミスだよ。ひとつ、たったひとつだ。いくら女王が推理の引き金を引いたとしても、君の記憶と推測のみでそこまで見破られるとは思っていなかったよ。』


「じゃあ、やっぱり……」


「そうだにゃ。」



 レイフさんにつづいて、ニーアも俺の推理を肯定した。



「まぁ、スクリーマーにボロボロに負けたのは本当だけどにゃ。そもそも、今までお気楽に生きてきたにぃが、勝負に負けたくらいで怖くなるわけないにゃぁ?」


「それじゃあ、ニーアさんはリアの捕獲依頼を受けていたということですか。」


「う~ん、居なかったら情報を集めて、居たら捕まえるか殺すかって所だにゃ。前の時抵抗が激しかったし、多分捕まえるのは無理だろうけどにゃ。今回はアステニア国王から直々のお達しだから、半強制的なのにゃ~……。」


「そんな物騒な……」


「妾も同じ意見じゃのぉ。物騒よ物騒よ。ヒトと言うのは殺し合わねばならぬ生き物なのかのぉ。」



 今まで俺達の会話を聞いていたキンが、演技掛かった仕草と口調で嘆いた。

 それに答えるように、指輪から声が響く。



『物騒とはいいますが、彼女は殺人姫さつじんきと呼ばれる程に人を殺していますから。当然の報いでしょう。』


「ほう? じゃが、妾はそこの少年を暴漢から救ったと噂に聞いておるが?」



 と、キンは俺の方を指差した。

 当然その仕草もレイフさんには見えているようで、俺の事を言っているというのが伝わったようだ。

 あの、シロナが仲間になる前の、豪腕の唸りに拉致された時の話だ。


「どうなのかの?」


 キンが自分の後ろに声を掛けると、キンの影から見覚えのあるシルエットが浮かび上がってくる。

 黒一色に染められた皮の胸当てと籠手、腰に差された禍々しい漆黒の短剣、銀色のロングヘアに鋭い金色の目。黒いマスクで口元を隠しては居るが、見間違えることはない。




 銀狼のアサシン、リアだった。




 場の空気が一瞬で張り詰める。

 キンとは違った、言いようのないプレッシャーが俺達を押しつぶしてくる。

 ただ、前に会った時と違って、戦う気は無いようだった。



『……事実ですが、それで罪を消すことは出来ませんね。』



 先程のキンの言葉に答えたのは、レイフさんだった。

 俺の目を使ってリアの姿を見たであろうレイフさんは、驚いた筈なのに少しの間を開けただけだった。

 ある程度は予想していたのかもしれない。



「リアの殺人が起こった後、数多あまたの奴隷が開放されたらしいのぉ? 噂によれば、それは違法に誘拐された獣人や人族の女子供だったと聞き及んでおるが。」


『正式な依頼があるまでは、ただの殺人についてきた副産物にすぎません。』


「ほう。それがそなたらの言う、法か。」


『そうです。誰もが破ってはならない決まりごとですよ。』


「ふっ、くくっ、あーっはっはっはっは!」



 キンは、心底面白かったのか、腹を抱えて笑い始めた。

 周囲には戸惑いが生じ、指輪の奥のレイフさんも、多少困惑しているようだった。

 リアは興味がなさそうに、キンの隣で床に座っている。

 キンは一頻ひとしきり笑った後、目尻に溜まった涙を人差し指で拭い、天井を仰ぐ。



「ヒトと言うのは、どこまでも愚かよ。不完全な者に作られた不完全な法を信じ、それを正義と置かねばヒトを裁けぬ。」


『人々には、必要な指標です。』


「あぁそうだとも。指標は必要。じゃが、それが全てになったが故に、こういう結末を迎えたのであろうが。そなたらは法に縛られ悪人を追えず、個人による正義の裁きが行われるまで、その存在も、居場所も、被害者も、何も掴めぬまま過ごしておったのじゃ。事が起きて初めて、全てを知る事になる。そこに有る法は、ただの悪じゃの。」


『……』


「自覚は有るのじゃろう。全ての事柄を一度法に通そうとすれば、そこには遅延が生じる。故に個人の正義に任せなければならぬ時もある。手遅れになっては元も子もないのじゃからな。じゃが、そなたらの話によれば、それで命を助けたとて、ヒトを殺せば罪と? 難儀なものじゃの、法というのは。」



 キンの言葉の後、場は静寂に包まれる。

 レイフさんとキンの会話は、俺達が入れる物ではなかった。

 二人が黙れば、嫌でも周りは静まり返る。

 しばらくして、レイフさんが沈黙を破った。



『……はは、僕には難しい話ですね。』


「そうじゃの、そたなに法をどうにかする力は無かろう。」


『しかし、それでも殺さねばならない理由はないでしょう。その点でリアは、手配されてもやむを得ない。』


「あぁそうじゃな。殺さずとも捕らえればよい話じゃ。リアの実力があれば、それもできよう。」


『では何故殺しているのですか。』


「復讐じゃ。」



 キンは表情も変えず、何気ない風にサラッと言った。

 余りにも自然に、それが当たり前であるかのように。

 そしてリアもそれが当然であるかのように、何のリアクションも取らずに座っていた。



『私怨の殺人ならば、それは悪です。』


「クロトガの法では、リアは許されておる。」


『復讐なら殺しても良いと?』


「いや、全てがそうではない。リアの場合は特別じゃな。」


『酷く曖昧な法ですね。』


「曖昧ではない。」



 キンは俺の目を見る。

 いや、恐らくレイフさんを見ているのだろう。

 まるで、心臓を針で突かれているような緊迫感が俺を襲った。



「クロトガでは、妾が法じゃ。基準は妾の中にある。妾が正しくある限り、クロトガの法は正しくあり続ける。妾が問題無いと言えば、問題無い。」


『……無茶苦茶な。』


「どうかの。妾からすれば、そなたらの法の方がより無茶苦茶に見えるがの。」


『貴女が許しても、アステニアで起きた事件はアステニアの法で裁きます。』


「裁けぬ。リアが妾の元におる限りはの。それがクロトガの民を守る法じゃ。」


『裁きに行きますよ。』


「くどい。」



 不意にキンが右腕を振るう。

 すると、外で数人の男が唸るような声を上げた。

 気付かない内に、この家を包囲していたらしい。

 話の流れから見るに、レイフさんの間者か刺客か。

 ニーアが焦って立ち上がるが、キンが左手をニーアに向けると、念力のような力なのかニーアの身体は動かなくなった。



「侮るなよ小僧。伊達に千年近く生きておらんわ。」



 先程までとは打って変わって低い声、冷たい視線が俺に――正確には俺の目の奥に居るレイフさんに――向けられる。

 その視線だけで、心臓を抉られるような焦りと、死の香りが漂ってくる。



「もう一度言う。ここでは妾が法じゃ。妾がおる限りそなたらにはクロトガの民を裁けぬ。法的にも、実力的にもじゃ。」



 俺は生まれて18年。この世界に来て半年程度。千年近く生きたキンとは倫理観が違うのは分かる。

 それでも俺がこの時彼女に抱いた印象は、


 彼女の自国民への愛は、余りにも狂気的である、だった。

ブクマが徐々に伸びていて、嬉しいです。

もしよければ評価もよろしくお願いします!

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