1話 転生
激しく光が行き交う。
自分の体が上下左右へと揺さぶられる感覚がある。
いや、上も下もわからない、
ここは、どこ?
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目を開けると、そこには緑が広がっていた。
少し遠くには森林のような場所があり、振り返ってみると小さな町があった。
そう、ここはルベルタという世界の
「エマの町…か。」
先程の乗り物酔いでもしそうなワープを経て、俺は異世界へと降り立っていた。
女神様と会話をしているときはふわふわとした気持ちだったが、実際にここへ立ってみると、紛れもなく転生したんだと実感する。
「…姿は俺のままなんだな。」
前世界で小説を読み漁っていたときは、異世界転生で赤ちゃんから生まれるパターンも多かったのだが、俺はそのままパターンらしい。
さて、ここから俺のモン娘ハーレム物語が始まるところだが、まずは取り敢えず町に行くべきか…?
そんなことを考えていると町の方からこちらに向けて筋骨隆々の人が走ってきている姿が見えた。とても必死の形相で。
もしアレが盗賊の類だとしたら、俺は間違いなく死ぬ。なむなむ。
しかし見えたのが農具を担いだ40ぐらいのおっさんだったので安心した。
「おい! お前! 今!」
おっさんは俺の元へ来るなり肩を掴んで、すごい形相で俺に話しかける、いや、もはや怒鳴っている。そのせいで俺もマヌケな声しか出なかった。
ビビってるわけではない、ちょっとチビリそうなだけだ。
「はひぃ! なんでしょうかぁ!」
「お前今! 降りてきたろ!」
「はひぃ!?」
予想外の内容にまたもやはひぃ!? してしまった。
好きでハヒっているわけではない。
「お前もしかして、神の使いか!? 勇者か!?」
どうやらワープはこの世界の住民にも見えるらしい。
勇者ってそんなポンポン降りてくるもんなの? どういう世界?
とにかく俺はこのおっさんに説明することにした。
「はぁ、つまりお前は勇者の道を蹴ってテイマーになったと…」
「えぇ…そういうことです…」
おっさんは見た感じ凄く残念そうにしていた。
おっさん曰く、この世界には不定期に神から転生者が召喚されるらしい。そんでその神の位が高い程、上級職として降臨するらしいのだ。
つまり、下位神からは戦士や魔法使い等が。中位神からはパラディンやウィザード等が。そして上位神からは勇者が。
つまり最上職である勇者を選択できる上位神に拾われた俺は、唯一上位神だけが選べる勇者という道を蹴っていたのだ。
知らなかった。でも知ってても蹴ってた。
「そういうことなら、お前は上位神に召喚されたと言わないほうがいい。」
「え、なんでですか?」
「上位神以外の召喚は、神の姿も見られないし、職業も選べないからだ。」
おっさん曰く、下位神や中位神の召喚は、白い世界に女神の声だけが響き、一方的に職業の素質を与えられて転生させられるらしい。
そしてモンスターテイマーは中位神の職業であり、その中位神の召喚であるなら神の姿を見ているはずがない。
それに職業が選択できないから、勇者の道を蹴ったといえば上位神の召喚だとバレる。
そして、上位神からの召喚なのに勇者以外を選んでいる人は、少なからずいい印象を持たれないとのことだった。
「この世界には魔族を統括している魔王がいる。これがまた気まぐれな性格してやがって、思いついては人間に戦争というちょっかいを出してくるのさ…」
そんでその魔王と戦う貴重な戦力が勇者というわけだ。
つまり、モンスターテイマーでは対魔王の戦力としては厳しいと言うことである。
それなのにその職業を好んで選んだと知られれば…
まぁ確かに反感を買いそう。
「でもなんでそんなに召喚について知ってるんですか?」
「あぁ、この付近にはよく召喚者が降りてくるのさ。んで、召喚者の話を聞いてりゃわかるってことだ。勇者も今までに1人降りてきたな。」
「なるほど。」
つまり勇者から話を聞いたってことか。この付近に召喚が多いというのも、女神様のマニュアルとかに乗ってるんだろう多分。
「んでな、お前と同じく上位神からの召喚で勇者を選ばなかった奴も居るんだ。」
「へー、物好きなやつですね。」
「お前もだろ。」
その召喚者は、皆に上位神からの召喚だと言っていたが、職業が勇者じゃなかったせいで反感を買っていたらしい。
このおっさんも反感を買うとは思ってなかったということだ。
「まぁ、自分の人生なんて自分で決めてなんぼだからな。」
しかしこういう大らかな性格もそう多くないらしい。
この世界は実力主義。
悪く言えば、上位職贔屓だということだ。
戦士や魔法使いや盗賊は、上位職に転職できるまでが辛いだろう。
その中でモンスターテイマーと言うのは上位職が存在しない、見ようによっては一番疎まれている存在と言っても良かった。
だが、
「関係ないさ、俺はコレで生きるって決めたんだしな。」
ぼそっと呟いた俺のセリフに、おっさんもなんだか微笑んだように見えた。
多分このおっさんは俺がモン娘ハーレムを作るとは夢にも思ってないだろう。すまんな。
するとおっさんは急に豪快に笑いながら、俺の背中を叩いた。
「っ! 痛っ!」
「ガハハハ! 上位職がなんだ! お前はテイマーで立派になりゃいい。そうだろ? さ、村に行くぞ。なんたって装備でも無きゃ、スライムですらテイム出来ねーからな!」
そう言うと俺をつれて、村へと歩いていくのだった。