表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
街を巡る手紙  作者:
14/29

13.迷いからさめる:往

 拝啓。

 買いかぶりすぎですよ。一度の失敗――しかもわざとではないものを許すのは、人間として当たり前のことですもの。私でなくてもきっとそうだと思いますよ。

 ですが、そんな風にあなたが思ってくれているとわかった今、私はこの手紙を今まで以上に力を入れて書かなければいけないと思い始めています。あなたを思い浮かべながらこの手紙を書いているときが、私も一番楽しいですからね。


 どんなきっかけであろうとも、私はあなたとこうして手紙をやり取りしていくことで、どんどん積極的になることができている気がします。あなたに対しての態度もそうですが、他の人に対しても、少しずつ接し方が変わっているような気がするのです。これも、全てあなたのおかげなのですよ。

 お言葉ですが、私がどんなおじさまに対しても萌えを……いや、魅力を感じているというわけではありません。特定の人にじゃないと、そういった感情を抱くことはないんです。それなりの条件をそろえた、ある特定の人。

 もちろんそれにはあなたも当てはまっていますし、同じ雰囲気を持つ柊教授も当てはまっています。

 こんな風に、乙女心は結構複雑なのですよ。

 変なイメージ……いや、そんなものを植え付けた覚えはないのですが、お気を悪くされたらごめんなさい。十五歳前後というと確かに子どもでもおかしくはない年齢ですから、そういう目で見るのは無理そうですね。私があなたと同じ立場なら、絶対に無理です。

 でも、そうやって反論を並べ立てながら必死に否定するようなところ……やっぱり、可愛いですね。

 子どもを可愛いと思っている……失礼ながら、ちょっと意外に思ってしまいました。あなたほど仕事熱心な人ならば、子どもなんて邪魔だ! と発言していてもおかしくないだろうと思っていたので。

 あなたがお子さんを溺愛するようなところはまだあまり想像がつきませんが……でも、あなたのお子さんとして生まれた子は幸せになることができるでしょうね。きっと、そう思います。


 ソウルメイトという言葉を、私はにわかに信じることができませんでした。だけど、そういう考え方もあるのだなと、柊教授やあなたの見解を見聞きして思いました。

 魂のレベルで、二人はつながっている……それが本当なら、この広い地球全土においてその確率はいったいどのくらいなんでしょうね。

 最初の頃、私は運命など絶対に信じないとこの手紙に書きましたが、ソウルメイトの話を聞いてからは少しだけ『信じてもいいかな』と思い始めている自分がいます。不思議なものですね。

 私と柊教授がソウルメイトだというなら、きっとあなたと柊教授もソウルメイトでしょうね。そして、私とあなたも……。

 ……あれ、ソウルメイトって三人も存在するんでしょうか? なんだかちょっと混乱してきてしまいました。

 私も成人したことですし、いずれは三人でお酒など……いいですね。あなたの住所はこの街中からそう遠くないところのようですし、実現する日も近いかもしれません。

 柊教授にも、許可を取っておかなくちゃ。そのために、今のうちにもっともっと仲良くなっておきたいものです。

 ここ最近、柊教授の研究室には何度か訪ねているんですよ。毎日は無理なんですけどね。あまり頻繁だと周りから変に怪しまれるし、柊教授もお忙しいだろうし。暇な時を見計らって、質問と称して研究室に足を運んでいます。まぁ、ほとんど無駄話しかしていないんですけどね。

 あなたのことも、少しずつではありますがお話ししているんですよ。雪の結晶を絶賛してらした、とお話したら、大変喜んでいました。

 お二人はよく似ていらっしゃいます、とも言ってみたら「それはぜひとも会ってみたいものだなぁ」なんて、あなたと同じことをしみじみとおっしゃっていました。

 あなたのおっしゃっていた、柊教授へのアドバイスは……またいずれ、お話ししてみようと思います。得策をまだ、考えられていないので。


 そのころのあなたはきっと、燃え上がるもののみが恋だと錯覚していたんでしょう。それがなくなってしまった――いえ、変わってしまった結婚後は、どうしていいか分からなくなった。奥様を守りたいとは思っていても、それをどうご本人に伝えていいか分からなかった。

 奥様にどう接していいか分からなくなったあなたは、仕事に逃げた……。おっしゃる通り、奥様は寂しかったことでしょう。そういうあなたの態度に、耐えられるような人ではなかったのですね、きっと。

 だから奥様からも、あなたに歩み寄ることができなかった。

 結果、それが別れにつながることとなった。

 奥様が最後に残した手紙には、あなたに対するせめてもの攻撃が含まれていたのでしょうね。

 わたしは今まで、こんな思いをしながら暮らしてきたのよ、と。

 奥様はきっと、それをあなたに理解してほしかった。

 ……同じ女として、奥様の気持ちは痛いほどよくわかるつもりです。だけど私は、決してあなたのことをひどい男性だとは思っていません。

 前にあなたは、私に対しておっしゃいましたよね。『誰も、悪くはない』って。私も、そう思います。

 誰も悪くない。あなたも、奥様も。あなたがもっと奥様をいたわってあげていれば……とか、奥様がもっとあなたに歩み寄っていれば……とか、そんなことを言い出していたらきりがないでしょう?

 ただ……二人それぞれの愛情が、うまくかみ合わなかっただけ。私は、そういう風に思っています。

 だから、どうかご自分を責めることだけはやめてください。

 ただそんな風に奥様のお幸せを願って、同時にご自分の幸せを考えて……そうしていけば、あなたの傷や寂しさも少しは癒えていくのではないかと思います。


 あなたの言うとおり、私はあの人の……彼の内側に踏み込んでみたい、という欲求にも似た願いを抱いていました。

 もちろん、顔だけで好きになったわけじゃありません。しかし正直に言うと、最初に惹かれたところは……その、見た目でした。

 ですが、彼を見ているうちに、彼に近づいていくうちに、私は気付いてしまったんです。彼が浮かべる笑顔が、あまりにきれいすぎることに。かたくなに本心を隠しているような、まるで貼り付けたような笑顔だということに。

 それに気づいてしまってからは、『この笑顔の裏に秘められた彼の思いを、私の手で暴いてみせたい』と本気で思うようになって……多分それが、決定的だったんだと思います。

 確かに、打ち解けていくごとに彼はあの子に対する感情を徐々にあらわにし始めたように思います。やっぱり、少しは私に心を開いてくれていたのでしょうか。少しは私を、信用してくれていたのでしょうか。

 男性としての貴重なご意見、ありがたく受け取らせていただきました。見えなかった彼の感情を、垣間見ることができたように思いました。


 『間違った優しさ』……二人の優しさをそう表現されて、私はかなりドキッとしました。二人が私に与えてくれている優しさは、本当は間違っているものなんじゃないか――かすかに芽生えていたその考えが、具現化されたような気がして。

 昨日、あなたからの手紙を読んだ後……私は思い切って、二人にその旨を告げてみました。わざと、二人を同じ場所へ呼び出して。

 二人は私の目の前で一緒にいることに、抵抗を感じているようでした。それとなく離れていこうとするのをとどめ、私は二人の目を交互に見ながら、きっぱりと言ったんです。

「どうして今更、私に遠慮なんてするの?」

 彼は困ったような笑みを浮かべ、あの子はしどろもどろになっていました。

「ミユキったら、一体何言ってるの。あたしたちがそんな、遠慮してるなんて……ワケわかんないよ」

 普段の私だったら、ここで言葉に詰まっていたことでしょう。だけど決心を固めた私は、次の言葉もよどみなくスラスラと言えました。

「私に気を遣う必要なんてない。誰も悪くなんてないんだから。だから……二人とも、今まで通り私に接して」

 あの子は一瞬、虚を突かれたように固まってしまいました。けれどすぐにハッと我に返り、私に対して何か言おうとしたんですが……それを隣にいた彼が、さりげなく止めました。

 そうして彼は、私に対してこう言ったんです。

「君は……気付いていたんだね。僕たちが、君に対してどんな気持ちを抱いていたのか。どれほど、後悔の念を抱いていたか」

「……はい」

「じゃあ、もう……そんな気持ちは捨てていい、と言うんだね」

「はい」

 私は、しっかりとうなずきました。

 彼はふんわりと微笑みました。それは、いつもの感情を隠すような笑みではない、ただ穏やかで優しい笑みでした。

「わかったよ。ね?」

 彼は、同意を求めるようにあの子の方を見ました。

 あの子はしばらく、辛そうに目を伏せていたのですが……やがて意を決したように顔を上げ、こくりとうなずきました。

「今まで通り、自然体で……彼とのことに対して、これ以上遠慮はしない。それが、ミユキの望んでいることだと言うのなら」

「ん」

 その言葉を聞いた彼は目を細め、あの子の頭を優しくなでました。

「早速のろけられましたね」

 私が茶化すと、二人は照れたように笑いました。

 不思議と、清々しい気持ちになりました。やはり包み隠さず、正直な思いを告げるのはいいことですね。

 あなたが、後押ししてくれたおかげです。

 これでこれからきっと、私たち三人は変わることのない関係を築いていくことができると思います。


 先日のお手紙は、シラフでお書きになられたものでしたか。私のリクエストに答えてくださってありがとうございます。

 確かにテンションはお酒をお召しになっているときとさほど変わりませんね。ですけど……やっぱりちょっとだけ、お酒が入っているときの方が素直で可愛いと思います。


 シラフでも、素直なことをどんどん言ってくださいね。照れているあなたもきっと、可愛いことでしょう。

 かしこ。


 七月十四日 ちょっとは成長したと自負するミユキ

 頼れる大人・イオリ様

投稿しようとしたら、何か知らんけどログアウトしてたらしく…全部消えましたorz

本文自体はワードに入れてたから大丈夫でしたが、せっかく花言葉とかつぶさに調べてこのあとがきを書いていたのに…全部台無しだよチクショウ!(泣)


というわけで…今回の題名は、ハッカの花言葉。

ハッカ(薄荷)とはシソ科ハッカ属の多年草で、ハーブの一種。ドロップに白い何かスースーするやつが入っているじゃないですか。アレがハッカ味ですね。小さいころ凛はアレが嫌いで、よく残してましたけど←

あのスースーする感じは、植物自体の香りや多く含まれているメントールの性質から来ているそうですよ。


水蒸気の蒸留によってハッカ油を抽出し、さらに冷却して再結晶させることでハッカ脳と呼ばれる複合結晶を作り加工しているようです。これらは上記のドロップだけではなく、他にも生活用品やタバコなどの香料、さらには医薬品としても用いられているのだとか。


ですがそういうのは近年化学工業的に合成されたメントールにほとんど持ってかれていて、今では生産が減少しているという…。

厳しい現実にも負けず、頑張れハッカ!(←何だその締めくくり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ