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第61話 いつもの朝




織斗しきとくん、私、今日早めに学校行くから」


 眠い目を擦りながら階段を降りる織斗に向かってさきが言った。

 既に制服に着替え、準備は整っている。


「起きるの早いなぁとは思ったけど……なんの用事?」

「バレー部の朝練見に行くの」

「ばれー?」

「絵莉ちゃんにね、遊びにおいでって誘われて」


 ぱっと、咲の頬が赤らむ。

 制服のシャツの裾を指で触りながら、恥ずかしそうに。入学当初はスカートにインしていたシャツは、今では程よく着崩しスカート丈もほどほどに短い。

 学園生活を初めて一ヶ月経っていないと思えないほど、咲は女子高生らしかった。


「部活入るの?」

「ううん、見学だけ。入部しなくていいから、たまに助っ人来てくれって……へ、変かな?」


 ちらっと、織斗を見上げる視線。

 我が妹ながら可愛い。

 などの本音は言わず、織斗は「いいんじゃね?」と視線を逸らした。


「あ、でも本気出すなよ? 普通にな?」

「大丈夫! この前の体育みたいにならないように気をつける!」

「あれは……うん、ダメだな」


 先週のことだ。

 男子はバスケ、女子はソフトボールをそれぞれ、校庭の反対側で行っていた。

 経験者だという女子が加減を忘れてバットを振り切り、ボールは中堅手の遥か上空を飛んでいった。

 カキンという音に、男子の一部、織斗とひろも振り返り、近づいてくるボールを目で追っていた。

 ホームランだな、と誰もが思っていた次の瞬間、パスっとグローブの中にボールが吸い込まれた。


『あっ、織斗くん! 私ボール取れた! 面白いね、ソフトボールって面白いね!』


 その瞬間の違和感は、咲の可愛さで誤魔化せたと思う。

 二塁手のはずの咲がなぜ、離れた場所を一瞬で追いかけてノーバウンドでキャッチすることができたのか。

 咲の動き、足の速さを目で追えていなかった男子は、『神木かみきさん、変なとこ守ってたんだね……』などと見当違いな勘違いをし、女子達は『咲ちゃん、さっきまでここにいたよね?』『いた気がするけど……見間違い? ルールよくわかってなかったし』と首を傾げていた。

『……馬鹿が多くて助かった。緋末ひうら管理の学校だけど』

 ぽつりと呟いた広の言葉は、織斗にしか聞こえていなかった。


「咲はマジで、術力関係なしに身体能力高いんだから、気をつけろよ?」

「大丈夫! もうボール壊さない!」

「ボール壊す?」

「織斗くんには黙ってたけどね、学校通い始めてすぐの頃に絵莉ちゃんとサーブ練? やって、叩いたらボール割れちゃって、びっくりした」

「びっくりしただろうな、小原が。つーか、咲のことバレー部に入れる気満々じゃねーか」

「学校に通い始めて私、力加減がいかに大切かということを学んだよ!」

「……それはよかった。学ぶものが違う気がするけど、とにかく楽しそうでよかった」

「じゃあ織斗くん、また後でね。お爺ちゃん、行って来ます!」


 咲はリビングに顔を覗かせたあと、バタバタと靴を履き玄関を出ていった。


「気をつけろよ、本当に!」

「わかってる!」


 辛うじて声が聞こえた。

 織斗は欠伸をし、リビングに入った。

 ところでばちっと、扉のすぐ前にいた元助、織斗たちの祖父である元助げんすけとぶつかる。


「いって……爺ちゃん、なにしてんだよ」

「お前こそなにしてる?」

「起きてきたんだよ、今。爺ちゃん、もしかして咲のこと見送りにいくつもりだった?」

「……スカートが……」

「スカート?」

「スカートの下に、赤色の妙なズボンを履いていた」

「あぁ、バレー部の練習着だな。つーかマジで、咲、入部させられるんじゃね?」

「……あれは、いいな」

「……爺ちゃん……おい、祖父」

「はっ、違う! 違うぞ、織斗! あれを履いていたら安心ということだ! 日に日に短くなっていくスカート丈をどうしようかと心配していたが、あれを履いていたら安心だと思っただけだ!」

「そんな心配してたんだな……つーか別によくね? パンツさえ見えなきゃ」

「織斗! おまえというやつは!」

「それ言うなら、結奈ゆなの方が短いぞ? それはいいの?」

「なにを言っている。結奈のスカート丈は膝下だろ」

「そういえばあいつ、家出る時は膝下にしてるな。つーか爺ちゃん、女子高生のスカート丈見過ぎだろ」

「孫だ!」


 元助に怒鳴られ、織斗は逃げるようにリビングへ入った。



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