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第45話 一難去って日常、夜。



 午後九時半過ぎ、東京某所。

 閑静な住宅街に火花が飛び散った。その後、爆音と共にもうもうと立ち上る灰の煙。


「やっべー! 術の配合間違えた!」

「配合って何よ、普通に攻撃すればいいだけでしょ!」


 煙から這い出てきたのはトランプ数枚を手に持った織斗しきとと、彼の肩にちょこんと乗っている姫未ひめみ


「お兄ちゃん、こっちこっち!」


 民家の屋根から結奈ゆなが顔を出す。

 手には神木かみきの術印が入った飴袋。


「屋根の上に逃げたら安全だよー」

「はたしてそうでしょうか?」

「……あれ?」


 突然の声に振り返る結奈。

 背後には月を背景に結奈を見下ろすあやめの姿があった。


「あなた、前しか見てませんよね?」


 手に持ったかんざしを結奈に突きつける。

「解印」の言葉とともに、かんざしから水柱が飛び出た。


「わぁー、わぁーわっ! ブラック!」


 瞬時、結奈は飴袋の中から黄色い飴を取り出して地面に投げつける。

 ぽわんと黄色い煙が立ち、そこから現れた黒い影が結奈を抱え飛び去った。


「結奈、おまえは遠隔攻撃出来るんだから前線出るんじゃねーよ!」


 自身の召喚獣、ブラックに怒鳴られ、結奈は「ごめーん」と全く反省していない風に笑った。

 別の民家に着地する結奈とブラック、それを目で追っていたあやめはため息をついた。


「……召喚系って便利でいいですよね」

「そうかな、私は自分の身体で戦う方が好きだけど」


 ピンッと、あやめの眼前に白い糸が張られる。


「っ、……解印」


 とっさに身を引いたあやめはかんざしを掲げ、水柱で糸を千切った。

 しかし着地した左足に違和感を感じ、俯くと足首に糸が絡まりついていた。


「前ばかり見てちゃダメだよ?」


 まるで空から降ってきたかのように、あやめの眼前にさきが降り立つ。


「咲さんの場合、術とか関係なく個人の身体能力が高いですよね」

「それ褒めてる? ありがとう」


 諦めたようにため息をつくあやめに向けて微笑む咲だが、はっとしてその場から離れた。


「前後だけ見てちゃダメだろ?」


 あやめと咲の間に割って入った人影。

 咲が立っていた場所には、漆黒に塗られた日本刀が突き刺さっていた。

 はらりと、あやめの足首を拘束していた糸が地面に落ちる。


「お手数お掛けしました、当主様」

「気にするな、たいした事じゃない」


 あやめが避難した場所、塀の上に立っていたひろがトランプケースからカードを取り出し、再び日本刀を生成する。ダイヤのカード追加して刃へ滑らせると、黒い日本刀が砥粉色(とのこいろ)に変わった。

 刀を握り直して正面を向くとちょうど、咲が民家の屋根に飛び乗っていた。


「相変わらず運動神経いいな」

「ですよね、咲さんは文武両道の天才美少女です。例えるなら月面上に咲いたクーデターです」

「……クレーターのこと言ってる?」

「……月から生まれ落ちたかぐや姫も、咲さんの美麗さには敵いません。可愛いです」

「かぐや姫が生まれたのは竹だな」

「咲さんはまるで……」

「あやめ、ちょっと静かにしてようか」


 困ったように笑う広。チラリと道路に目線を向け、日本刀の鋒をわずかに上げる。


「兄妹そろって、身体能力だけは高い」


 地上から飛んできた三枚のトランプカードを、広が刃を振ってなぎ払う。


「俺ら兄妹、身体能力だけじゃなくて、頭レベルも高いんだよなー、こう見えて」


 トランプが飛んできたとは別の方向から織斗が飛び上がり、手に持っていたトランプ、ハート8の表面を広に向ける。


「解印!」


 織斗が叫ぶと同時、トランプから炎が噴き出る。

 炎は広の背中めがけて勢いよく燃え上がるが、広は振り返ろうともしなかった。


「え、ちょ、広。おれ攻撃してんだけど、避けないと……」

「今日帰ってきた小テスト、三点だったよな?」


 耳元で囁かれ、がばっと織斗はそちらに向き直る。


「頭レベルがなんだって?」

「いや……ていうか、広、なんで」


 織斗のすぐ真横には広の姿。

 鋭い眼光で日本刀を振り上げる。


「うっわ、ちょ、なんで後ろにいんの? さっきまでそこに……」

「トランプって便利だよなー、残像まで錯覚して見せることができるんだから」

「じゃああれは幻……つーか、そんなことまでできんの!?」


 動揺しながら、カードをひたすら投げつける織斗。

 しかしいとも簡単に、広は織斗のトランプを切り刻んでいく。


「悪いけど俺、お前と違って頭いいから手加減の仕方知らないんだ。本気で狩ってもいいか?」

「よくないー! つーか頭いいなら加減の仕方わかるだろ、逆だろ!」


 なす術なく半ベソをかく織斗。その首筋をぐいつと、咲が引っ張った。

 シュンと、眼前を刃が横切る。


「織斗くん、私その三点聞いてない」


 呆れ顔の咲が織斗の指に糸を巻き付け、咲の意思でトランプケースから数枚カードを取り出した。


「帰ったら見せてね、三点」

「いや、えっと……」

「織斗くんに勉強教えないとだから、そろそろ帰るね。ブラック、結奈ちゃんよろしくね! またね広、あやめちゃん」


 ボンっと小さな爆発が起こり、広とあやめは顔を伏せる。

 再び目を開けると、織斗たちの神木家陣の姿はなくなっていた。


「さすが咲さん、逃げ足も早いし気配りも完璧。まるでサバンナを駆け抜けるうさぎとかめのようです、可愛いです」

「サバンナを駆け抜けるうさぎとかめ……? ふっ……」


 あやめの言葉の意味がわからなすぎて腹を押さえて失笑を抑える広。なんとか落ち着かせ、ついさっきまで織斗が立っていた場所に目を向ける。


「なるほど。あの方法なら、当主じゃなくてもトランプの術を使うことができるのか」

「頭良すぎですよね、咲さん。まるで……」

「ごめん、あやめ。これ以上喋らないで」

「すみません。そうですよね、夜の間、神木とは敵ですもんね。まるで天の川で溺れるロミオとジュリエットですね」

「ちょ、だから……」


 やはり堪えきれず失笑をなんとか抑えようとする広。笑われていることの意味がわからず、ぽかんとするあやめ。

 そして広がなんとか顔を上げた時、道路の向こうからパタパタと駆け寄ってくる人影が見えた。

 見覚えのある姿に、広は目つきを厳しくし堅い表情を作った。隣にいたあやめは広を一瞥し、再びその人物に目を向ける。あからさまに嫌そうな顔をして。



いつもお読みいただきありがとうございます!

今日は更新が遅い時間ですみません。

第二部、まずは夜と昼、それぞれの日常から始まります!

割と早い段階で事件起きます、展開は早いです。

今後ともよろしくお願いします!

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