表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
36/39

第四話 本当の名前



「サオリだ」と元助は言った。


「花が()くに織斗(しきと)と同じ織物の(おり)咲織さおり。それが両親がつけた、あの子の本当の名前だ」

「でも爺ちゃん、何も言わなかったじゃん。サキって普通に呼んでたし」

「言えなかった。名前を変えるほど神木を恨んでいると思ったら、それ以上あの子に近づくことが出来なくなった」

「それで、咲ちゃんはますます何も言えなくなったのね」


 頬杖をつきながら黙って話を聞いていた姫未が言った。

 織斗はそちらに目線をやる。


「私が見る限り、咲ちゃんは元助や織斗に恨みを持ってる感じじゃなかったわ。期待してたんじゃない? この家の人は自分を暖かく迎え入れてくれるかもって」

「どういう事ですか?」

「自分を虐待したのは親戚であって、本家の祖父や兄はそんなこと指示してない、虐待の事実を知らないかも。そう期待を込めてここに来た。だけど実際話してみれば、病気で預けたなんて嘘つかれるわけだし?」

「それは……」

「その嘘で、咲ちゃんは元助が全てを知っていたことを理解した。そして織斗、あんたは当主としての自覚なさすぎ、無知すぎ。何も知らされてなかったとはいえ、封印は解いたわけでしょ? だったらあんたが神木のリーダー、当主なのよ」


 姫未の言葉に胸が痛くなった織斗だが、返す言葉がなかった。

 当主と言われても、そうなったのはつい最近、一ヶ月前までは何も知らない普通の高校生だった。自覚と言われても、面倒くさい事は嫌いと避けるように生きてきたのに……


「逃げちゃいけない時なんだな、今が」


 小さい頃、よくわがままを言っていた。

 妹に会いたい、と。

 結奈がいるだろうと宥められたが納得できず、「じゃあ、妹が欲しい」と言い換えると笑われた。

「本当に()()から! 俺の妹が!」

 なぜか、そう信じて疑わなかった。

 そして現実に今、咲が会いに来てくれたのに。


「迎えに行ってくる」


 立ち上がってリビングを飛び出す織斗の背中を、姫未と元助は黙って見送った。

 やがて元助が立ち上がり、出口へ向かう。


「どこ行くの?」


 姫未の言葉に、元助は振り向かないまま答える。


「書斎に、記録書がありますので」

「……咲ちゃんが読んでたやつね、この家にきてからずっと」

「隠しておこうかと迷ったのですが……十五年も経てば人は変わりますね。孫というのは可愛いもので……今はただ、十五年前に戻りたいです」


 パタンとドアを閉めて書斎に向かう元助。

 残された姫未はため息をつき、天井を見上げた。


「簡単に戻れるわけないでしょ、過去になんて……それが出来るなら、人間世界はとっくに終わってる」





 家を飛び出した織斗は、再び街を走り回った。人通りの多い場所には見当たらない。

 なんとなく思いつき、街の丘公園へ向かう。その階段を登る途中で、織斗はようやく足を止めた。


「なぁ、咲知らね?」


 階段上にはあやめが居た。じっと織斗を見下ろし、しばらくしてすいっと視線を外す。


「当主様から伝言を預かっています」

「伝言?」

「お前の妹、しばらく緋真で預かるから。とのことです」

「……は?」

「では、伝えました」


 一方的に会話を終え、織斗の横を通り抜けようとするあやめ。


「え、いや、ちょっと待て!」


 しかしすれ違いざま、織斗はあやめの腕を掴んで引き留めた。


「預かるってどういうことだよ、なんで」

「あなたが無知だからじゃないですか? ちなみにこの家出、あなたの妹が言い出したことなので」

「咲が? なんで……しかもよりによって緋真に」

「落ち着いた方がいいですよ、お互いに。当主様は優しい方です。知っていますよね?」

「知ってるよ! 広は頭いいし、空気読めるし、咲も……広の方が話しやすくていいって、言ってたし」

「? そんなことはないでしょう、詳しくは知りませんが」

「だって、それならなんで緋真に……」

「あなたのもとへ帰るためでしょう?」


 ざぁっと風が吹いて、あやめの髪が揺れた。艶やかな黒髪と、同じ色をした綺麗な瞳。


「でも、咲は俺の妹で……」

「今まで存在すら知らなかったのに? 十五年も離れていたのでしょう、少しの間くらい我慢してください」

「十五年も離れてたから! 一日でも長く取り戻したいんだよ!」

「一時的な感情で、残りの人生を蔑ろにしないでください。突発的な一瞬の感情で人は暴言を吐く、その一言で絶縁してしまう友もいる。だったらその言葉を口にする前に、取り返しのつかないことになる前に、少しの時間を考えるために使ったらどうですか?」

「…………」


 目線をそらしたのは、織斗から。返す言葉が見つからず、うつむいてあやめの手を離す。


「大丈夫ですよ、あなたは当主様のお友達ですから」

「は?」

「私はあなたのことはよく知りません。だけど、当主様が家憲に逆らってまで友でいたいと思った相手だから。きっとあなたはいい人で、正しい未来を選択できる人なんでしょう」

「今の俺は、そんなこと……」

「……喋りすぎました、喉が痛くなりそうです」


 ふぅーっと息を吐き、あやめが階段を一つ降りる。次の一歩を踏み出す前に、振り返ったあやめが織斗に声をかける。


「まぁ、せいぜい、頑張ってください」


 それだけ言うともう振り返らず、あやめは階段を降りて夜の闇に消えて行った。


「……口悪いな、マジで……助言ならもっと、優しい言葉使えよ」


 一人、階段に残された織斗は手のひらで顔を覆った。


「優しいな、緋真のやつら……広の家族は」


 再度ため息をつき、織斗もまた、踵を返して歩き出す。



一応…名前にについて元助と広が「?」な反応してます。↓

p20「第三話 帰ってきた妹とヒロイン」

p29「第四話 神木の妹と緋真の長男」


お読みいただきありがとうございます!

「ブックマーク追加」ボタンを押して「⭐︎」を全て「★」に塗り替えてくれたら励みになります!

四話目はあと半分です、引き続きよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ