第三話 術の使用なし、正々堂々真剣勝負!
公園にある時計の針は六時三十分。
太陽が沈みかけているがまだ明るい時間に、織斗と広は勝負を開始した。
「約束だからな広、俺が勝ったら昼はもう攻撃してくるなよ」
「家臣に説明しづらいな、それ。まあ、おまえが勝つことはないから問題ないか」
左腕の紐めがけて手を伸ばす織斗と、余裕でそれを交わす広。
腕の長さが違うため、がむしゃらに向かっていくだけでは織斗にとって不利だった。しかしそれがわかっていないのか、ただひたすら手を伸ばす織斗、避ける広。
どう見ても広が優勢な戦いを、咲とあやめはブランコのところで眺めていた。
「……わざと、捕まってくれたよね?」
戦いが始まってしばらくしたころ、咲が言った。
あやめはチラッと咲を見たが、すぐに視線を織斗たちに戻す。
「私にとってあの方は緋真の当主です。でも、神木が敵かどうかはわからない」
「……え?」
「神木が目覚めたことで怒り狂ってる雑魚を充てがい、ただ家臣の数が減っていく。それがダメだとわかっていながら当主様は前に進まなかった。正直、勝ち負けなんてどうでもいい。この戦いの決着の末に、当主様の悩みが無くなるなら」
じっと広を見つめるあやめ。
咲はそれに倣い、広と織斗を見た。
「好きなんだね、緋真の当主のこと」
「その好きがライクかラブかは別として。緋真の人間で、当主様のことを好きじゃない人なんかいません。私含めみんな、当主様の幸せを最優先に考えています……気付いてもらえないだけで」
それ以上は喋らなかった。ただ黙って二人を見守る。
拘束具はとっくに外していたが、あやめが逃げることはなかった。
*
無鉄砲に紐を取りに行く織斗。らちがあかないと思った広が手を伸ばすが、あっさりとかわされてしまった。
「悪いけどこれ、俺が勝つぞ。運動神経だけなら広より上だからな」
「動体視力いいもんな、昔から」
「どうたいしりょく? 目はいいぞ、遠くのものでもはっきり見える」
「そうじゃなくて……」
「あ、でも広が相手のときは難しい。広って背高いのに細いから、間合い取りづらいんだよな」
「間合い?」
「動きは読めるんだけど、距離感がわかんなくてさ、サッカーとかバスケの時とか、まだ大丈夫だろうと思ってたら意外と近くにいてボールとられる」
「それはな、」
言いながら、広は織斗に近づき足を伸ばした。
避ける織斗だが、つま先が足のすねにぶつかった。
「おまえが思ってるより、俺の足が長いってことだ」
「自分で言うな!」
「まぁ、そういうことなら、この勝負俺の勝ちだな」
術を使っているかのような広の素早さ、織斗は紐を取られまいと左腕を背中の後ろに隠した。しかし広の狙いはそこではなく、無防備になっている織斗の右手。
がしっと右の手首を掴まれた織斗が、呆けた声を出す、
「は? え?」
広は掴んだ手首を引っ張り、織斗を地面に押し付けた。
「目、いいんじゃなかったのか?」
うつ伏せ状態の織斗の左手に手を伸ばす広だが、寸でのところでかわされてしまった。
地面を這うように、織斗が逃げ出す。
「だから、広は俺に勝てねーんだよ!」
「逆だろ、おまえは俺に勝てない」
公園の隅にある大きな木の根元まで逃げる織斗と、ゆっくりとそれを追う広。
織斗は木の幹に背を預けて座り、広を見上げた。
灯りが消えた空、外灯の光が公園内を照らしていた。
「……なに笑ってる?」
織斗の表情を見た広が呟く。織斗は笑みを抑え、人差し指で空を指さした。
「広、悪いけど今日は、俺が勝つから」
「……根拠は?」
「お前が悩んでるから」
織斗は天に向けていた指先を、広へと移動させる。
「不機嫌オーラすごかったぞ。クラスの雰囲気めっちゃ悪いし、みんな心配してた」
「……明日から改善しよう」
「そうだな、明日の朝には友達に戻れるな」
「虚言だな。もう二度と、お前と話をすることはない」
「無理だな……」
「無理なわけない。それが普通、今までが偽りだった」
「……ケジメをつけよう、広。今まで、十年間一緒にいることが自然だった。それを急にやめろ、切り替えろって、人間には無理なんだよ」
「そうだな、ケジメをつけよう。俺が勝てば、俺とおまえは敵だ」
「俺が勝ったら昼間は今まで通りだぞ、約束しろよ」
「わかってる。ただしお前が勝てばの話で……」
「約束したな! よし、咲! 姫未!」
織斗が叫ぶと同時、咲が指に絡めていた糸を引いた。
プチン、と音がして広の腕に巻き付いていた紐が千切れ、地面に落ちる。




