表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
21/40

第三話 正しい未来を選ぶ力



 翌日、織斗は平和に学校に行けた。

 あれほどしつこかったやつらが、毎日のように襲ってきていた敵が今日はいなかった。

 なのでいつもよりかなり早い時間に学校へ到着する。


「あれ、神木早いね!」


 教室に入ってすぐ近寄ってきたのは、クラスメイトの川谷かわやだった。


「よかったー、みんな困ってるんだよ!」


 そう言いながら川谷が指を差すのは、自席に座ってスマホを叩いている広の姿。指の動きからして、パズルゲームらしきものをしているのだろう。

 黙認されてはいるが、校則では校内のスマホ使用は禁止となっている。

 あれだけ堂々としているにも関わらず誰も注意しないのは、纏うオーラが真っ黒だからだろう。


「すげー苛立ってんな……」

「怖いよな、今日の緋真!」


 ケラケラっと陽気に笑う川谷からは、恐怖心など微塵も感じられない。


「神木さぁ、何とか言ってきてよ」

「なんで俺が……いや、マジでなんで?」

「仲良いだろ、神木と緋真」

「放っておくのも優しさだと思う」

「クラスの雰囲気が悪くなるんだよ。あれだけ堂々としてたら、先生も困るだろうし。俺としてはゲームしる緋真、レアキャラすぎて面白いんだけど」

「……川谷はいいな、人生楽しそうで」


 不機嫌の原因は自分、神木と緋真の関係にあることは明らかだ。

 気乗りしない織斗だが、川谷に背中を押され、広の席へ向かった。

 チラチラと、教室中の視線が織斗に集まる。


「なぁ、広……学校でスマホは……」

「問題ない。許可を得ている」

「許可? え?」

「それよりお前、よく気軽に俺に話しかけてきたな」

「いや、だってみんなが……」

「雰囲気が悪くなるなら帰ろう。そしてお前は二度と、俺に話しかけるな」


 大袈裟にスマホを机に叩きつけ、広は席を立ち上がった。

 鞄の中に教科書とスマホを詰め込み、無言で教室を出て行く。

 誰も声をかけることが出来ず、むしろ全員が教室の隅に逃げて彼の通り道を避けた。


「……喧嘩でもしたの?」


 ぽんっと、織斗の肩に川谷の手が乗る。


「喧嘩ってか……対立つーか……」

「ま、テキトーなとこで謝っとけよ! 緋真の機嫌悪いと、ろくなことないから」

「いやいや、俺が悪いわけじゃないし。なんで謝らないと……」


 顔を上げた織斗は、クラス中の視線が自分に集まっていることに気がついた。

 なにがあったんだと心配そうな男子の目と、『緋真くんに何したの、謝れ!』という女子の視線。

 全員がそう思っているわけではないと思うが。


「ろくなことないな、マジで……はぁ」


 ため息をついて広の席を見つめた。

 空っぽになった机と椅子。

 今日はもう、話出来そうにない。


「つーか許可を得てるって……学校でゲームしていいって? んなわけねーだろ、何特権だよ」





 その翌日も変わらず、広の機嫌は悪かった。

 さすがにゲームはしていないが、話しかけるなオーラが凄く、一日中誰とも会話しなかった。

 教師でさえ、広への指名は避けていたほどである。

 それが二日続き、織斗までもが教室に居づらくなった。


「女子がうるせーんだよ!」


 夜、咲の部屋にきた織斗がベッドに腰掛けて叫んだ。

 学校での出来事た。

 広の機嫌が悪いのは織斗のせいだと思い込んでいる女子が、とうとう織斗に詰め寄り始めた。違うクラスの者まで覗きに来る始末。


「友達もさ、早く謝れとか言ってくるし。確かに俺の関係ではあるけど、違うだろーがぁ!」

「……楽しそうですね、当主様」


 織斗の隣に腰掛ける咲が、遠慮がちに言った。

 途端、織斗が不満そうな顔を咲に向ける。


「楽しいわけないだろ、疲れる!」

「……そうですか」

「つーか、神木と緋真が敵で仲悪いってのはわかるけど、やっぱ俺たち関係なくない? 今まで通りでよくない?」

「当主様は神木のトップですから。向こうは緋真のトップだし」

「やっぱ和解するしかないよなぁ。咲もさぁ、その当主様ってのやめろ」

「そうですね……え?」

「織斗って呼び捨てでいいから。あ、急に話変えてごめん。あと、敬語も禁止」

「そういうわけには……」

「俺と広が家柄どうこう以前に友だちだったように、俺と咲は普通に双子の兄妹なんだよ。当主様とか敬語とか、俺が嫌だからやめて欲しい」

「じゃあ、お兄様で」

「どこの貴族だよ!」

「織斗、くんで」

「…………」


 お兄ちゃんって選択肢はないのか。まあ結奈と被るからいいかと、心の中で思った織斗だが声には出さなかった。


「それで広のことだけどさぁ」

「あ、話し戻るんですね」

「あ、悪い……敬語!」

「すみま……ごめん」

「俺は最初から若いの方向で話進めてたんだよ。広が当主ならなおさら……今までは普通だったんだよ。それが急に敵とかさ。この先ずっとこんな感じで生きて行くなんて、無理すぎだろ」

「じゃあ、変えればいいんじゃないですか?」

「……? いや、敬語」

「ごめ……えっと、今の状態が嫌なら自分で何とかするしかないでしょ?」

「何とかって?」

「それは織斗くんが、自分で考えるべきだと思うけど」

「……なにいってんの?」

「あ、えっと……えーっと」


 咲自身、なにを言っているかわからなくなってきていた。

 向かい合って深呼吸し、再び互いの顔を見つめる。


「今の織斗くんにはね、正しい未来を選ぶ力があると思う」

「正しい未来?」

「織斗くん、楽しそうだから」

「俺いま、絶不幸中、めっちゃ悩んでんだけど」

「あ、今ってそういう意味じゃなくて……私の想像では、神木当主様はもっと暗い人だと思ってた」

「暗い? 俺が?」

「私が暮らしてた神木の親族宅は、家憲がどうとかで私に対して厳しかったし……本家はもっと、陰鬱なんだと思ってた」

「難しいこと苦手だからな、俺は」

「だから、織斗くんは選ぶ力がある。私や緋真の当主と違ってキラキラ輝いてるから、見てる景色が違う、明るい方へ進んでいける人だから……織斗くんの選んだ未来にはきっと、正しい選択肢があるって、そう思う」

「……短くまとめると?」

「今までの人生を省みて、織斗くんが一番良い方法を選べばいいと思う。悩んで考えて、納得して、自分で選んだならそれは絶対、後悔がないと思うから」

「……結局、なんのアドバイスにもなってないな」


 ケラケラっと笑った織斗が、天井を見上げた。


「ま、そうだな……俺の問題だもんな。自分で考えないと。当主だしな」

「それに織斗くん、そんなに悩んでないでしょ? 答え、決まってるよね?」


 咲の言葉に面食らった織斗だが、ふっと小さく笑声を漏らして俯いた。


「そうだな、答えというか……進みたい方向は、決まってる」

「じゃあそれを、綺麗に一つずつまとめて形にしていこう。あ、その前に一つ、いいこと教えてあげる」

「いいこと?」

「織斗くん、最初の日のこと覚えてる? 封印を解いた日のこと」


 首を傾げる織斗に、咲がそっと耳打ちした。


「本当はね、内緒なんだけどね……」


 なんだろうと耳を傾けていた織斗だが、途中で内容が信じられず、咲の方へ向き直った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ