第三話 対立する二つの一族と幼なじみとして育った子
「……封印しない、って約束してたな」
ため息混じりに広が言った。
見つめあっていた織斗と面の少女ははっとそちらに目を向ける。
「だから、今は封印しない」
広はトランプをポケットに収め、何も持っていないことをアピールするように手をヒラヒラさせた。
「まあ、神木の情報はだいたいすぐに掴めるから」
面の少女を見ながら広がいい、そのあと踵を翻した。
「帰るぞ、あやめ」
広が声をかけると、あやめは一礼して広の後を追った。
「え、ちょ……っと待て、広」
織斗の声に、広は足を止めて振り返る。
「何も解決してないよな? 神木と緋真が敵だってことはわかったけど」
「それだけわかっていれば問題ない」
「じゃあさ、和解しよう」
「……は?」
心底機嫌の悪そうな広の声。
織斗は息を飲み、呼吸をし直して話を続ける。
「和解しようって話がしたかったんだ、相手の当主と。最初のやつが婆さんの復讐とかで仕掛けてきてさ、どうしようもないから封印したけど。あいつには関係ない事じゃん、先祖の因縁とか。広だってそうじゃん、昔の人の言葉で人生の時間無駄にするとか馬鹿らしくね?」
「馬鹿はお前だろ」
いつものように軽く笑って話しかけていた織斗だが、広の表情は変わらないし声も冷たかった。
織斗は言葉を止め、唇を閉じて広を見つめる。
「身をもって知ったんだろ? これは復讐の戦だ、と。正解だ、神木がどうかは知らないが緋真はお前たちを恨んでいる。だからあんな姿になってまで攻撃をしかけに行ったんだ」
「でも友達じゃん、俺ら」
「話聞いてたか? 緋真にとってはそれで何とかなるレベルじゃない。友人だから神木の当主を許します、もう戦いません。なんて、俺は言えない」
「でも今までは……」
「だから、それは演技だって言っただろ」
「演技でそんな」
「ずっと悩んでた。お前が封印を解く前に言ってしまおうか、この関係がいつまで続くか。正直、こうなって安堵してる。緋真と神木は俺たちが出会う、生まれる前から敵だったんだ。夢うつつが、現実に戻っただけだ」
わざとらしく息を吐いた後、広は再び背を向けて歩き出した。
後を追うあやめだが、今度は織斗たちに向かって小さく頭を下げた。
そしてすぐに、小走りで広を追いかける。
広とあやめの姿が見えなくなったところで、織斗は仰向けに地面に寝転ぶ。
「ちょっと待って、ちょっと待って! あ、姫未……なんだよ、あいつもさー、言えよマジでー!」
一人でのたうち回っていた織斗だが、すぐ横に立って見下ろしてきている面の少女の存在を思い出した。
しばらく見つめ合い、やがて織斗が腰を上げる。少女は織斗を支えようと、膝をついて目線を合わせた。
「大丈夫ですか、当主様」
「当主って……」
少女が織斗の肩を支える。ふわふわの髪の毛が頬にあたり、ジャンプーの香りだろうか何かいい匂いがした。
織斗は少女を一瞥したあと、目を閉じて深呼吸した。
「いや、待て。ちょっと待て……おまえ誰?」
「えっ? ……あっ」
織斗にいわれ、少女は慌てて面を外した。
片膝をつき、織斗に頭を下げる。
「す、すみません。手助けしなくてはと、必死で」
「いや、それはいい。そのおかげで助かったし」
そんなことよりも、と織斗は思った。
面の下の少女の顔が、一瞬しか見えなかったが綺麗すぎて。
「申し遅れました、神木咲と申します。神木悠斗を父に、莉央を母に持つ、あなたの妹です」
少女が顔をあげる。肩先まである細い髪で囲われた小さな輪郭に白い肌、潤んだような瞳、桃色に染まる頬と桜色の唇。
「おまえ、顔も綺麗だな」
それに加えて華奢な身体つき。胸元だけはしっかりとした膨らみがあるが、それ以外は無駄な脂肪が全く見当たらない。
小さくて可愛らしい。織斗が今まで出会った人間の中で、最も可憐な少女だった。
「あ、そっか。なんか見た事あると思ったら仏壇にある母さんの……えっ、妹?」
「はい、正確には双子の妹なんですけど。あ、六月九日で十七になります」
「あ、俺も。双子だから誕生日同じで当たり前か……はぁぁっ!? 妹? 双子!?」
「はい」
当然のように返事をする咲。
織斗はわけがわからず、頭を抱えて蹲る。
「何してんの、大丈夫?」
他人事のような呑気な声に振り向くと、二人のすぐ側に姫未がいた。
ふわふわと、空中に浮いて首を傾げている。
「大丈夫なわけねーだろ! 起承転結の承がいっぺんにきた感じだよ!」
「なにそれ、意味わかんない」
「つーか姫未、おまえ広のこと知ってたよな? 二年前がどうこう言ってたよな?」
「向こうの従者とは顔見知りだからね。緋真の当主が術力を手に入れたのは二年前、織斗がトランプを受け取ったのと同じ時期。その時に従者と話をして、織斗が敵一族の神木だって認識したんだって」
「……詳細まで熟知してましたよーってか。何で黙ってたんだよ?」
「そう約束したから」
「約束? だれと?」
「それは秘密」
「なんでだよ!」
「あの……」
織斗と姫未の会話に、側にいた咲が割って入る。恐る恐るというか、申し訳なさそうに。
「状況が、理解できないんですけど」
遠慮がちに尋ねる咲。
織斗は姫未に視線を送る。
「私は知らないわよ、あんたたちが生まれる前から封印されてたもの」
「知らないは俺のセリフなんだけど……えっと、俺の妹?」
「はい、双子の。あ、咲って名乗ってるけど名前は……もしかして、私のこと知りませんか?」
咲は怪訝そうに首をかしげる。
それに真似て、織斗も首を傾けた。
「だって俺、一人っ子として育ってきたし、爺ちゃんも何も言ってなかったし」
「ホントに織斗の妹なの? 証拠は?」
無遠慮に姫未が尋ねる。
「え、証拠……しょうこ」
咲は慌てて身体中を探るが、それとなるものは持ち合わせていなかった。
というか、身につけているのは衣服だけで手荷物一つ見当たらない。
「爺ちゃんに聞いたらわかる!」
織斗は咲の手首を掴み、自宅に向かって歩き出した。
引っ張られる形で織斗についていく咲と、二人の後を追う姫未。
「家に連れてくの? 軽率じゃない?」
「術が使える時点でとりあえず、神木の人間には変わりねーんだろ?」
「あー、たしかに」
不満は残るようだが一応の納得はした姫未。
咲は困ったように俯き、織斗に足取りを合わせた。




