第三話 敵一族の正体②
「だから言っただろ、織斗。一人だけど、気をつけろって」
目線を交わしながら、広がいう。
状況を飲み込めず黙り込む織斗に向けて、広が四枚のトランプを投げつけた。
面の少女が織斗を庇うように前面に出るが、術はその足元に届く前に発動した。
四枚のトランプからそれぞれ炎、水、蔓、小石が飛び出し、すぐに消えて無くなる。
「この模様、見覚えあるよな?」
広が掲げるのは、青色で象形文字のような模様が描かれたトランプ。
「俺らの、緋真の術印だ」
「……トランプ使えるのって……」
「あぁ、トランプを扱えるのはその一族の当主だけだな」
「広が、敵一族……その当主?」
「ナンバーズ以外の術師は当主の血がないと術が使えないという話は聞いたか?」
「それは、聞いた、けど……」
「今までお前が封印してきたやつらは俺が血を与えた、うちの家臣だ」
言葉を失う、とはこういう時に使うのだろう。
織斗は無意識に、笑みを浮かべてしまった。苦笑いの類ではない、「あははっ」と声が出てしまいそうな、緩んだ表情。
「あ、ははっ……」
実際に声が出た。
しかし、右手に違和感を覚えて振り返る。
獣の面の少女が、ぎゅっと織斗の右手を握っていた。
「なんで笑ってるの?」
「え? いや、だって……おまえ、声綺麗だな」
「…………」
少女は呆れたように顔を背け、手を離す。
その瞬間、広が織斗の首を掴み壁に押し付けた。
「っ……」
慌てて糸を取り出す面の少女だが、織斗が捕まっていることで手は出せない。
広は少女に向かって微笑む。
「少し話をさせてくれ。封印はしないから」
ノーとは言えなかった。面の少女は手に糸を絡めたまま、織斗を見守る。
広はもう一度微笑み、織斗に目線を戻す。
「さて、話をしようか、神木当主」
「俺、時々、広が冗談言ってるのか本気なのか、わかんないことがある」
「性格悪いからな、俺は」
「……あの時言った俺の言葉は、冗談だって……あ、ははっ……」
笑ってみせるが、広の表情は変わらない。
普段と違う、厳しい目つき。
織斗の前では絶対に見せようとしなかった、緋真当主の顔。
「そっか、広……緋真の当主なのか」
「理解できたか?」
「名家の跡継ぎだったもんな、そっちの名家かよ……すげーな、マジで、どんだけ不平等なんだよ、神様」
「神木だって同等だっただろ? 解散して術力も封印していたらしいが……どうかしている」
「あー、うん……そうだな、俺、何も知らなかった。マジか、いや、なんか恨まれてんなーとは思ってたし、先祖代々の仇とかで争ってるって爺ちゃんから聞いてたけど」
「わかってるじゃないか、それで充分だ。長年の戦いで、緋真は神木を恨んでいる。封印すればその人間の人生は消える。兄弟や子を奪われた、癒えない傷を負わされた恨み。どちらかの血が絶えるまで、宿縁抗争は終わらない」
「マジかぁ、俺、広の家族と戦ってたのかぁ」
その言葉に、広の手がピクッと動いた。
「……家臣だ」
「血が繋がってんだろ? だったら家族じゃねーか」
「…………」
「わけわかんなかったけど、そういうことか。広がやってたのか、全部」
「……俺が、緋真の当主だからな」
「トランプ使えるもんな、当主だけだもんな。それで広はさ、神木を恨んでんの?」
「は?」
「広はさ、神木を……俺を恨んでんの?」
「……俺は、緋真の当主だから」
「いや、なんで?」
「なんで?」
「俺、広には何もしてないよな? むしろ仲良いじゃん、俺ら。俺馬鹿だから世話になってたけど、文句言いながら勉強教えてくれたし。さっきだって普通に、またなって言って別れたよな、学校で」
「……演技だった、と言えば納得するか?」
「演技?」
「友人として側にいたのも、同じ高校に受からせてやったのも、神木当主を監視するためだった。封印が解かれたとき、すぐに気づいて攻撃できるように」
「……マジで? それで俺とずっと一緒にいたの?」
「そうだな。お前が友人だと思っていたのなら、うまく騙せたな」
「……広って昔から混乱すると前が見えなくなる、変なことしたり言ったりするよな」
「変なこと? ……は?」
「演技? 意味わかんね、マジで。敵というか、俺に費やす時間あるなら、自分ちのことしっかりやれよ」
「自分ちって……」
「俺は、広が羨ましかった。仲悪いとかいいながら、呼び出されてよく実家に帰ってる。父親も、姉弟もこの世にいて話しができる。神木一族とか言われても、俺は爺ちゃんと結奈しか知らねーての……なんだ俺、広の家と戦ってたのか。緋真かぁ、でかい敵だな」
その時、面の少女が広を押しのけて織斗の手を掴んだ。
じっと顔を突き合わせていると、仮面を通して目があった気がした。
「そっか、お前、神木の印使ってたな。家族なんだな、俺の」
織斗が笑うと、少女の手の力が強くなった。
握り返してくる小さな手。
体温が低くて、心地よかった。




