第二話(終) 今日の味方が明日の敵
*
自主室に一人残された広は何をするわけでもなく、空を見ていた。
手元には青色で象形文字の様なものが描かれたトランプ。
織斗が持っているトランプや結奈の飴袋にあったそれと似ているが、微妙に違う同じような形の模様。
カチカチとトランプのケースを開閉していたが、ドアの前に人の気配を感じてそれをやめた。
「久しぶりだな、時雨」
「ひさしぶり」
広の声に応えたのは、薄紫の直垂を着た少年だった。歳は広より少し下、十四か五くらい。
小柄で美しい少年は、入口のドアにもたれながら笑みを浮かべる。
「ねえ、ヒロ。わざと神木を勝たせてるよね?」
「面白い冗談だな」
「冗談で言ってるつもりないんだけど?」
「……根拠は?」
「与える刺客と神木当主のレベルが違い過ぎる。まるで神木の当主を戦いに慣れさせてるみたい」
「それが事実なら大問題だな。京都に告げ口でもするか?」
「…………」
広が振り返るが、時雨は笑みを浮かべただけで返事しなかった。
ため息をついた広が、窓へと向き直る。
「相変わらず、いい加減な従者だな」
「お互い様でしょ。ヒロだって神木の封印が解けてなお、友だちごっこを続けてるんだから」
「……お互い様だな」
「てことで、告げ口もしないし助言もしない。どっちでもいいよ、オレは」
時雨が片手をあげて広に背を向ける。次の瞬間、スーッと時雨の体が消え、そこに存在しなくなった。
広のスマホにメッセージが入ったのは、その直後。
画面には、[神木織斗]の名前。
「友だちごっこじゃない。俺らは……緋真と神木は、最初から敵だった」
*
一年の教室。
美優が封印されると同時、荒れていた室内が元どおりになった。散乱している机や椅子、文具など全て美優が翼竜に変化する前の状態に。
教室の隅でスマホをいじっていた織斗は、メッセージを送り終えると結奈の方を向いた。
「広に連絡しといた。体調悪いみたいだから、結奈連れて帰るって」
「うん、ありがと」
織斗の隣で膝を抱えて座る結奈。
顔を埋めたまま、「別人みたいだった」と呟く。
「お兄ちゃんじゃなかったみたい」
「……戦ってる時は、必死だし」
「神木家とか術師とか、意味わかんない。お兄ちゃんは当主で、じゃあ私は何なの?」
「結奈はナンバーズっていう一族の中でも力が強いやつだろうって姫未が……あ、戦うときはその袋に入れた飴を取り出して割ることでモンスターを召喚して戦える。封印する時は相手の口に飴を放り込めばいい」
「飴を口に放り込むって、かなりハードだよね……私ここに来る前、広くんに飴あげようとしたんだけど」
「それは大丈夫だ。術力を持たない一般人には結奈の封印術は通用しないらしい」
「ふーん……お兄ちゃん、飴食べる?」
結奈がおもむろに飴を取り出すが、織斗はそれを手で制した。
「だから、俺は封印されるから」
「一般人にはダメなのに、味方には通用するんだ。変なの」
結奈が再び膝を抱えて頭を埋める。
「北村美優っていうの、あの子」
顔を隠したまま、小さな声で結奈は言う。
「同じクラスの、いるかいないかわからない目立たない子。明日学校に来ても、誰もあの子がいないこと気にしないのかな」
織斗は答えなかった。
封印された人間はこの世から存在が消える。織斗が美優を封印した瞬間、彼女は消えた。
座席表は一つ抜け落ち、ロッカーは空になった。
名簿にももう載っていないだろう。
「友だちになろうって話してたのに。そういえばまだ、返事聞いてないや」
結奈は顔を上げて織斗を見る。混乱で虚ろになっているような、疲れたような瞳。
「私がやる……今度から、私の大事な人は私が封印するから」
それだけ言うと、結奈は再び膝の中に顔を伏せた。
「……あぁ」
織斗は複雑な思いで、空を見上げた。
雲一つない快晴が窓の外に広がっていた。
二話終了です。この回は中弛み感あるかな?と悩むけど、後々必要なのでやはり悩みポイントになってます。
読んでいただけて嬉しいです、ありがとうございます!
次回は衝突です。
タイトルからしてネタバレになってるけど敵との衝突、突きつけられる真実!(読者様はわかってると思いますが)
新ヒロインも登場するので、よろしくお願いします!
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