36話:お礼の形
立ち話も良くないと思い、
私は椅子から立ち、食事をする時に使用する
テーブルの方に移動し、皆で座ることにした。
その子の隣にはティア、そしてその子と正面で
向き合う場所に私が座った。
その子はストレートな背中まである長い髪、
そしてその髪と目は同じ綺麗な水色だ。
身長はティアより高く、
学年でも背が高い方だと思われる。
ややつり目で、少しキツイ印象を与える。
しかし、こういう子の方が普通の子より
案外優しかったりすると思う。
その子を見ていて、そういえば
道で左足に怪我をして蹲っていた子が
いたのを思い出した。
それは私が図書館からの帰り道での事だ。
その子は転んで怪我をしたらしく
道も分からないと言い、目に涙を溜めていたが
懸命に泣くまいと耐えている様子だった。
私はその子を背負い、曖昧なその子の記憶を頼りに
道を歩いたところ、道の向こうから
その子の母親が探しに来ており、無事に解決したのだ。
「左足は、もぅ大丈夫なの?」
見たところ、特に包帯や絆創膏は足についてない。
尋ねると、その子の顔が明るくなった。
「覚えててくれたんですね!はい、傷も治り今まで通りです!」
「それは良かった。」
その子は笑うと、花が綻んだ様でキツイ印象がなくなる。
「家族もとても感謝しています、もちろん私もお礼が言いたくて…
それで何かお好きな物があれば、差し上げたいと思っているんですが。」
「お礼なんて、とんでもない。僕は普通の事をしたまでだよ。」
実際に、お礼なんてもらおうと考えていた訳でもなく
困っている時はお互い様、という両親の教育の賜物である。
「でも…、」
どうしても、お礼を形で示したい様だ。
「分かった。どうしてもというなら。僕の好きな物で良いんだよね?」
その子は、うんうん と頷き
一言も聞き逃すまいとする様に、やや上半身を前に出した。
「じゃぁ、君に笑っていてほしいな。君の笑顔が、僕は好きだから。」
私はにっこりと微笑みながら言った。
冗談では無く、その子の笑顔はとても素敵なのだ。
私はその子が笑顔でいてくれたら嬉しいと思った。
しかし、思い返せば本心でもかなりクサイ言葉である。
その場が静まりかえった時に気付く。
1人で、心の中で反省している私は
前に座る2人の少女が顔が真っ赤になっていた事には気付かなかった。




