第60話 朱雀の愛弟子 1
進路相談という名の個人面談から数日、図書室やパパのパソコンを使って色々調べてはいますが、どの進路もイマイチ、ピンとこないという状況で、そういえばこの前高月先生にどうして先生になったのかを聞いたけど、忍さんはどうしてお医者様になりたいのかしら?
今度聞いてみよう。
リビングのソファーに座りそんなことをぼんやり考えていると、バイオリンの練習を終えた夏くんが防音室から出てきた。
そう、我が家には防音室があります。
そもそもはママが音大を目指していた頃に工事したらしい。
中にはグランドピアノもあります。
かつては私もこの防音室で練習しました。
最近は全然入っていなぁ。
今は完全に夏くんの練習部屋だわ。
「ねぇ夏くん。」
「なぁに桃ちゃん。」
練習を終えてスッキリの夏くんがご機嫌に返事をしてくれる。
「夏くんはやっぱりバイオリニストになりたいの?」
とすると目指す進路は音大。
ママのこともあるし香澄先生もいるから安心よね。
「う~ん。よくわかんない。先生にはりっぱなオトコになれっていわれたよ。」
「香澄先生に?」
意外だわって思っていたら
「ちがうよ。なぐもせんせい。」
「え?夏くん香澄先生のところのレッスン辞めちゃったの?」
「ちがうよ。なぐもせんせいが『おんがくのいいところはかすみちゃんにおしえてもらえ』ってで『おれはじんせいのくらくてきたないところをおしえてやる』っていわれた。」
「はい?」
夏くんの言っていることが理解できないでいると、防音室を片づけていたらしいママが出てきた。
どうやら夏くんの話し声は届いていたらしい。
「香澄先生、夏の扱いに困っていたみたいなの。それで香澄先生のご主人の人脈で紹介されたのが、作曲家の南雲先生だったの。最初は香澄先生が直接相談する予定だったらしいんだけど、南雲先生が夏くんに会ってみたいっておっしゃって、そのまま月に1回くらいレッスンに行くことになったのよ。」
南雲・・・・どこかできいたような。
「桃乃も聴いたことあるんじゃない?香澄先生のご主人会社のCMで流れている曲。あの曲、南雲先生の作った曲なのよ。」
「ふ~ん。」
何かがすっきりしない。
それが何かはわからない。
ママはまた防音室に入っていって中からCDを持って出てきた。
「これ、何かのご縁だからと思って買っちゃった。」
そう言ってママは私にCDを渡した。
「あ~っ!!!」
CDのジャケットには男性の写真が、驚いたことに再逢寺ですれ違った男性だった。
あの太陽のような光溢れる。
CDの写真からもオーラが、作曲家分かるような気がする。
絹代様の話しだと亜紀枝様のお母様のご実家の・・・・あぁっ、そうよ忍さんのご親戚。
名前は・・・・
「南雲省吾さん!!」
あっ、CDにも書いてあるわ『SHOUGO NAGUMO』って。
「桃乃、知り合いなの?」
「いや、直接は・・・でも外国に住んでるって聞いたよ。」
「みたいね。奥様は日本で生活されてるみたいだけど。」
「かえちゃんていうんだよ。」
「夏、『楓さん』でしょ。」
「だってなぐもせんせいは『かえ』ってよんでたよ。」
「先生は旦那さまだもの。そうだ、桃乃、来週の金曜日夏くんの付き添いをお願いしたいんだけど。」
「付き添い?レッスン?」
「違うの、南雲先生の演奏会があるの。正確にはこっちのオーケストラの演奏会に南雲先生が客演で指揮するみたいなんだけど。夏は会場の年齢制限に引っ掛かるから客席では見られないんだけど、勉強になるんじゃないかって、でもママこの日幼稚園の係りの集まりもあるのよね。」
「うん、いいよ。」
「やったぁー桃ちゃんとお出かけ♪」
「うん、楽しみだね。でも会場ではいい子でね。」
「分かった♪」