動き出す箱舟 終
ベニユキの答えを聞きガブは怪物を見ながら消えていく。
『皆さんお疲れ様でした。観念したガブがこの施設のすべてのプロテクトを解除したことで箱舟のシステムを私が掌握、施設内を自由に放浪している怪物を無力化には至らないものの、隔壁の中や部屋に誘導し隔離しています』
「もう戦わなくていいのか?」
『はい。もう大丈夫です、こちらで確認できる怪物は対処しました。しかし小型故や何らかの方法でこちらに見えないような存在、私が観測できていない怪物がいる可能性があります』
「あの百足の生き残りとかか」
『戦闘は起こらないはずですが、武装は解除しないでください』
「わかった」
『ここの制圧が終わった以上、いつでも箱舟に帰還できます。戦闘ありがとうございました』
話を終えてミカも光となって消えていった。
怪物もいなくなりミカからの帰還する許可も得たことにより、倒れた怪物とエレベーターに近寄らないようにして皆がホールを出ていく。
グリフィンやキュリルも負傷者として部屋から出ていき、オートマトンも立ち上がりゆっくりと出ていった。
戦いの緊張が解けエレオノーラとガーネットが疲れてその場に座り込み休む。
「疲れましたね、怪獣との戦い」
「帰りたいけど、もう体動かないよ。少し休む」
そこにアンバーが近寄り二人の無事を確認しに向かった。
「大丈夫かい、二人とも怪我は?」
「大したことないです、破片がかすっただけで傷薬付けて絆創膏で止めていれば」
「もう帰って今日はおしまいでしょエレオノーラ。明日には傷が治ってる。それよりアンバーだよ、どうしてあんな無茶をしたの」
立ち上がったガーネットが心配して近寄ってきたアンバーの肩を掴んでゆする。
「無茶とってもみんなが命がけで戦っていて、私も武器を持っていたから」
「怖かったでしょ。見てた私も怖かったんだから!」
「ああ、……吐きそうなくらい怖かったよ」
エレオノーラとガーネットはアンバーを連れよたよたと歩いてホールを出ていく。
彼女たちもいなくなりホールにはベニユキたち数人が残った。
「手榴弾、全部投げず取っておいて正解だったな」
声が聞こえベニユキが振り返れば怪物に近寄るウーノンの姿。
「あれはウーノンだったか、たすかった」
「ブラットフォードやテンメイたちはすでに帰ったようだな。扉を破ってオートマトンが支援に来た時に走っていくのが見えたが、逃げていたか」
「そういえば、もう大半のやつがここから出ていったな。撤収が早いと思ったけど先に帰っていたのか。負傷者も多かったし仕方ないか」
「今回は怪我人は出たが死者が少なかったな。今回みたいに毎回うまくいけばいいんだけどな」
同じく怪物の死骸に近寄るアインの姿。
彼らは怪物が何者なのかわからないがわからないながらにも、何か新しい発見がないを調べて鱗や破壊された頭部を見て回る。
「あの怪物がどんな世界の生き物だったのかは知らないが、ここは人工物に囲まれていて相手は一匹だった。何人かは逃げられないからやむなく戦った。あの怪物が全力で戦えるような場所だったら、通じる武器もなく全滅していたかもしれなかったな」
「少しは喜ばせてくれよ」
「別に落ち込ませたいわけじゃない。冷静に分析しただけだ。戦わないといけない以上、明日も明後日も勝つために調べる。グリフィンからも言われている」
「今回は勝てたんだ、いいじゃないかよそれで。気分よく今夜は寝かせてくれ」
「俺はいつも疲れて横になったとたん眠ってるよ」
その場に崩れ落ち疲れ切った声を上げるベニユキを見てアインとウーノンは肩をすくめた。
「そうだな」
「今回はそれで喜ぼう」
二人の肩を借りてベニユキはホールを出て箱舟へと帰還する。
ミカは箱舟の中に展開したエレベーターを回収し二基の箱舟は分離した。
ミカとガブは互いに連絡を取り合いながら。
ベニユキたちがガブの箱舟の中で怪物と戦っている頃、別の箱舟が二つの箱舟の動きを観察していた。
その箱舟の一室、光るモニターだけが明かりを灯す大きな部屋。
そこに大勢の人影がいて唯一の光源であるモニターの方を向いている。
『先日取り逃がしてしまったミカが以前であったガブと出会いました。どうやら制御を譲渡したのか奪ったようです。活動を止めていたガブも改めて動き出すことでしょう。ミカとラーファを探すためのんびりと世界を回っていましたが、これからはあまり悠長なことはできません』
部屋に集まっているものたちのどこかの世界での戦闘を映していたモニターから声が流れそれを聞いた一人が問いかけた。
「排除しますか?」
『はい。彼女たちがこちらやラーファを見つける前に対処したいと思っています。彼女らが再び動き出してしまえばあの世界へと向かわないといけなくなりますから。あの世界にはもう何の望みもありません、我々が何をしてもどうしようもないのです。しっかりと箱舟の兵士たちを狩ること』
「わかりました」
『前回は感づかれてしまいましたが、今度は期待しています皆さん。すべての箱舟の活動停止を、永遠の停滞を』
「お任せを」




