与えられた試練 4
「……死なない」
ベニユキの振ったバットは怪物の腹部に深く食い込み怪物は血を吐き、銃弾を浴びてなお立っている。
重機関銃の射線から飛びのいた二人に向かって硬い鱗で覆われた背を向け同時に長い尾を振り回し弾こうとする。
反射的にテオがその攻撃に対応しバットで弾いて尾が曲がり鈍い音が非ぶく。
強い力に怪物の尾が歪な角度に曲がるが、怪物は意にも留めず銃弾を浴び続けながら二人から離れていく。
「ちゃんと当てたよなぁ!?」
「銃弾浴びても、まだ動けるのかよ」
鱗が割れ鮮血が弾け肉に金属の弾丸が飲まれていくがそれでも怪物は倒れなかった。
受けた傷が一歩進む間に弾丸を包み込み血が止まると同時に空いた穴が内側から盛り上がる肉によって修復している。
「もう一度ぶん殴るぞ!」
「ああ!」
テオとベニユキが背を向け距離を取ろうとしていた。
遠回りでも近接攻撃を避け肉を抉り続けている重機関銃の連射を止めようと大きく迂回し改めてオートマトンへと向かおうとする。
そこに立ちはだかるキュリルと逃げ腰のブラットフォード。
彼女らが持っているのは怪物が破壊した座席の破片の金具の棒だったが、怪物は手にしている長物の区別はあまりついておらずその足が止まる。
ベニユキたちも追いつき前に出て怪物を殴りに向かう。
「ジャンプで距離を詰めてこない? 俺らを飛び越えようとすれば行けない距離でもないよな」
「脚だ、アインのやつちゃんと足を潰してジャンプできないようにしてやがった。気が利く」
重機関銃の援護もあり一気に押し切って倒そうとしていたベニユキたちに予想だにしないことが起こった。
射撃音の音が唐突に途切れ、残響がホールを反響したのちに静まり返る。
重機関銃の銃撃が止まったことにテオが振り返って怒鳴った。
「アインなんで射撃をやめるんだ!?」
後ろからアインから大声で返事が返ってくる。
いつの間にかに皆は通じないとわかりながらも撃っていた機関銃での攻撃をやめており、テンメイを始め何人かはすでにホールの外へと逃げだしていて気が付けば人数が減っていた。
「銃身が過熱して壊れた!」
「何してんだ!」
「気を付けてはいたさ、あいつが死なないのが悪い! それにここまで撃って死なないとは思っていなかった」
「そりゃそうだ! 替えは、いつ撃てる!?」
「少し待て、時間がかかる」
再生し新しく再生した肌に生えてきた艶のある鱗と肉が弾けた拍子に飛び散った血で汚れた鱗の斑模様。
銃撃が止まり怪物の傷ついていた体が急速に癒えていく。
再生した鱗は厚みを増してトゲトゲとしていた鱗から魚の鱗のような扇状な物へと変質していた。
「おいおい、形が変わったぞ。再生に失敗したって感じじゃないよな」
「銃撃や打撃に対応してきたのか?」
厚くなった鱗が擦れあいゴリゴリという重たい音が響く。
体の再生を終えると一度体を震わせ鱗の破片を振り払い、怪物は両腕を振り上げて走り出しひるんだテオとベニユキを腕を振り下ろして弾いた。
両腕の全力の叩きつけに防御しかできず後ろへと弾かれるテオとベニユキ。
その二人に留めも刺さずに走りだす怪物の狙いはオートマトン。
武器を持たないキュリルたちもやむなく道を開け聞かないとわかっても担いでいる銃を撃ち始める。
誰のも止められなくなった怪物、その背を追うベニユキ。
「ベニユキ君!」
走るベニユキの後ろからアンバーの声が響いてくるとともに怪物の動きがわずかに止まる。
怪物の接近に銃身の交換が間に合わないとあきらめたアインがオートマトンから飛び降り、ホールの中央ではミカにだけ聞こえるよ呟く何かに気が付くガブ。
『ミカ、あの子は違反ではないの?』
『遺伝子情報からクローンです、私は手を加えていません。彼女は最初からそう言うことなのでしょう』
怪物は振り返りアンバーを向くと一度は潰された片目を開きその視界の端、追ってくるベニユキの姿を捕らえた。
大きくバットを振りかぶり向かってくるベニユキに片腕を上げ叩き潰そうとする。
怪物の背中に手榴弾が飛んできて炸裂衝撃に怪物が少しだけよろけ、ふと見ればベニユキが振り上げたバットの高さに怪物の頭があった。
振り下ろされたバットは重機関銃の弾を弾くほど硬かった頭蓋骨を割り超再生をする怪物にとどめを刺した。
倒れホールの中央に向かって滑り落ちる怪物。
今までに受けた傷はすべて回復し解消は頭部の陥没だけ。
『見ましたかガブ。倒しましたよ、彼らはちゃんと成長しています』
『……信じられない、寄せ集めに……あれを相手に向こうの世界の何人が犠牲になったと。とはいえこれは事実、素直に受け入れましょう。あなたの邪魔を含めても賞賛しましょう』
閉じられていたすべての扉が解放されガブはため息をつく。
『おめでとうございます。ミカが手伝ったとはいえ良く倒しましたね、あの怪物に勇敢にも立ち向かうだなんて思いもしませんでした』
「まだ俺たちに何かとたたかわせる気か?」
『いいえ、御心配なく。これ以上は流石にミカが黙っていないでしょう、ここまでにしておきます。とはいえ驚いている。この箱舟に乗っていた者たちは一度も勝機を見出すことはできなかったのだから。諦め絶望し武器を自分に向けるか断末魔を上げるだけ、互いを守り合うこともなければ果敢に挑むこともなかった』
「数日とはいえ一緒に戦ってきたんだ。お互いのことをあまり知らなくても生きて帰るっていう目的が同じ以上協力し合える」




