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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
2章 --時計針止まるアークエンジェル--
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沈黙の楼閣 4

 奥に鍵のかかった扉を見つける。

 再びバットを構えエレオノーラたちが扉を吹き飛ばす。


「中は!」


 扉が倒れジャリッと何かを磨り潰す音が聞こえるが部屋の中は暗く様子が見えない。

 マルティンがポケットから持ってきたライトを取り出し部屋の中を映す。


「どう、見える? ここが目的地?」

「やけに暗いな? よく見えないけど何か動いて」


 ライトを当てると部屋を埋め尽くす赤く体の透ける半透明の百足の群が照らし出された。

 小さな石同士がぶつかり合うカチカチという音が何十と重なり、ライトの光に当てられ一斉に動きを止める。


「ひっ!」


 大量の虫と認識したテンメイたちが我先にと全力でその場から離れた。

 直後に彼女らの後を追うかのように百足たちが漣のような音を立てて床や天井を這い一斉に部屋から出てきて戦おうと銃を構え逃げ遅れたマルティンを足元から上に向かって飲み込む。


「マルティン!」


 一匹の大きさは十センチほどそれが無数に集まり赤く輝く結晶の絨毯を作り出している。

 後ろに下がりながら自分の防衛のために銃を撃ち赤く熱せられた剣を振るう。

 白と黒の機関銃が地面を這う百足を薙ぎ払うが天井や壁からも迫ってきておりすべてを完全に迎撃はできない。


「何だこれ」

「怪物だよ!」


 足元まで閉まってきた百足を靴で踏みつけるとパリッと音を立てて砕ける。

 部屋から次々と湧き出てくる百足の数は途方もなく、踏みつけた程度では数匹しか倒せずさらに他の百足が踏みつけたその足を登ってくるのを見て足を振って百足を落とし急いで距離を取った。


「この数に噛まれたらどうなる、マルティン無事か!?」

「そもそも毒があるのか?」


 扉の前、マルティンのいた場所から百足が離れ落ちる。

 そこに動く人影はなく代わりにその場には逃げ遅れ赤い結晶体となった人型が立っていた。

 人型の結晶は亀裂が入り複数匹の百足となって崩れていく。


「くそッマルティン。噛まれると結晶化して百足の仲間になるのか!」


 外に流れて行き百足がいなくなると部屋から明かりが漏れてくる。


「部屋に明かりが、こいつらをなんとかしないと近寄れないか」


 ベニユキが弾倉を取り換えながら呟く。


「逃げるので精一杯です!」


 エレオノーラがバットの先で向かってくる百足を磨り潰しながら答える。

 誰かが投げたのかそれとも落としたのか、近くで手榴弾が爆発しベニユキがよろけた。

 戦ってもきりがないと先に逃げた誰かが見つけた防火シャッターのような物が、すでに半分ほど降りた状態でベニユキたちを待っている。


「早く、これで食い止められるといいんだけど」


 戦うのをやめてベニユキたちが滑り込むとシャッターを下ろした。

 ベニユキたちと一緒に入ってきた百足を踏んで叩いて破壊する。


「……助かったか」

「怪我はありませんか!?」


「ああ、少し噛まれた気もする」

「虫に噛まれた時の処置をします、見せてください!」


 袖や裾ををめくり戦っている最中に百足に噛まれた場所を見せた。

 手や足の一部が赤く透明な結晶化していて体内を透かしている。


「どうなってるんだこれ」

「これは完全に物質です、治療できません……どうなってるんでしょう?」


「エレオノーラは怪我は?」

「わ、私は……その、先に逃げちゃったので、怪我は、ないです」


 先に逃げたことを後ろめたく思い歯切れ悪くエレオノーラは答える。

 皮膚が変化した結晶に触れてみると固くなっていてつるつるとしていた。


「石みたいになってるな」

「宝石みたいですね?」


「固まった部分は筋肉を収縮させると千切れそうだ」

「無理はしない方がいいです、千切れちゃったら血が出るかも、くっつくかも知らないし」


「そうだな戦闘以外で無駄に怪我する必要はないか」


 シャッターの向こうから百足の走り回る音が聞こえる。

 ブラットフォードが銃を構えてシャッターの様子をうかがっていた。


「あの百足たちはこれを破壊はできないようだ」

「不思議な力はあるけど、力は弱いのか」


「あの部屋を調べることはできなくなったな」

「いや、この施設は俺たちのいる箱舟と同じだ。緩やかな円を描いている。だとしたら反対側へと進めばここに戻ってくる」


「赤い霧を超えるか? グリフィンが大怪我を追っていたぞ?」

「これだけ大きな建物なら階段があれ一つとは限らないだろ、上の階へ上って避けて移動すれば赤い霧の中に入っていかなくて済む」


「そうか、行ってみる価値はあるか」

「ああ、もどろう」


 足が結晶化して動けないものや走れないものたちをその場に残してベニユキたちは来た道を戻り階段を上がる。


「またここに戻ってきた、さっきから来た道を何度も往復してばっかり」


 テンメイが階段を上がって扉を破壊して調べた部屋の前を通り過ぎたときにそう呟いた。


「そうだな、何度も往復して疲れるだけだな」

「でも、怪物と戦わなくていいなら遠回りでもいいです。危ないですから」


 何度も行ったり来たりをしてベニユキとエレオノーラが少し疲労を見せながら答えると黙り込み少し不服そうに皆の後についてくるテンメイ。


「グリフィンたちと会わないな? 戦ってる音も聞こえない」

「やられたとは考えたくないです。もっと上の階に向かったのかもしれませんね?」


「そういえば七階くらいあるんだったか」

「登るのも一苦労しそうです」


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