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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
2章 --時計針止まるアークエンジェル--
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錆びた箱庭 1

 皆が眠りに付き明かりの落とされた暗闇に包まれた礼拝堂で一人、光を放ち舞台の上に立つミカは天井を仰ぐ。


『こちら箱舟3号、管理AIミカより皆へ。識別信号を切り誰だかわかりません、誰です、どういうことですか? こちらはしっかりと降り立つ世界が被ることの無いようしっかりアーカイブに活動予定記録を残し世界に降り立つ際にもう一度宣言しております。こちらへの攻撃の意志があるのならば抗議します。……どうして返事を返してくれないのですか? どうして所属を隠し私たちがいる世界へとやってきたのですか? 同じ世界に、同じ場所に、同じ時に来た意図は。どうか応答を』


 虚空に向かって呟く。


『……どうして、誰も何も言ってくれないのですか。皆で情報交換のために決めた定期報告も途絶え、今課せられた使命を全うするために活動しているのは私以外いないのですか?』


 期待する返事は帰ってこず彼女は目を瞑り光の粒となって消えようとする。

 暗闇に消えていく彼女の体が揺らぐ。


『一瞬信号が……あぁ? 誰。これは……なぜ……?』


 ミカの戸惑いの声が暗闇に響いた。



 ベニユキは夢を見る。

 時間帯は夜、空は赤く黒煙が立ち上っていた。

 小走りでプラチナブロンドの女性が、迎えに来たベニユキの方へと走ってくるのを見つけるといそいで車両を下りて彼女を出迎える。


「ルナ! 無事でよかった、あの火柱は……攻撃か。あのニュースの」

「ううん、攻撃だここが狙われてる。この会社の敷地が攻撃されてる! 方角からして南のゲートのどこかかな、怖いよ」


「車に乗れ! ここを離れるぞ!」

「だめ、研究室にあの子たちが。置いておいたらどうなるか、ここまで来たのに」


「人工知能か、それより命の方が大切だろ!」

「向こうの狙いがなんだかわからないけどあれは盗られてはいけない。私は戻るユキは逃げて、ここにいたら危ない!」


「まてって、くそっ!」


 連続する爆発音、炎を纏ったキノコ雲が空へと上がった。

 甲高いモーター音が聞こえ始めラジコン飛行機のような小型ドローンが二人の頭上を高速で通り過ぎていく。


「置いて行けるわけがないだろ! くそっ、ルナ待て俺も敷地に入れてくれ! お前を守りたい」

「向こうは戦闘用のパワードスーツで武装したテロリストだよ! 武装だって対戦闘車両用のチェーンガンを装備している、この音が聞こえないの!?」


 爆音に混じり激しく先ほどとは別のモーターが回る音が遠くから聞こえてくる。


「この特徴的な甲高いモーター音、おそらく22mmの対物ガトリングスクリーム、対パワードスーツ用の武装だ。人なんかかすっただけで四散するぞ。くそっ、ここは戦争地域じゃないんだぞどうやって持ち込んだ。いや、だからってお前を一人で行かせられないだろ!」

「……、なら来てユキ! 敷地内に入るならゲストIDを作らないと防犯セキュリティーに排除される」


「セキュリティードローンか、どうせゴム弾か電気ネットしか武装してないだろ。俺らには脅威でも襲撃者には蚊程度の攻撃力しかないってのに」

「だってこんな事予測されてないでしょ、不審者の侵入ならこれで十分なの。でも特秘研究棟はもっと強力な武装が」


「それでも焼け石に水程度だろうな」


 ベニユキは車を降りて彼女を追いかけ施設の方へと走り出す。

 入口に向かうと守衛所には誰もおらず、門の前には車両止め用の柱が何本も地面から延びていた。

 敷地内に入るため守衛室でルナはベニユキ用のゲストカードを作り門へと戻りパスワードを撃ち込み扉を開ける。


「ところで持ち出すのか、それは持ち運べるのか?」

「うん。一つ一つがアタッシュケースほどの大きさだから、少し重いけど台車か何かで移動はさせられる」


「台車で移動は目立つよな、建物にあるシェルターは……駄目か」

「たぶんニュースでやってた通りにチェインガンで扉を壊してナパームで無酸素状態にすると思う」


「換気扇では空気の供給が間に合わないほど炎か」

「炎の出す粘っこい煙が循環装置を壊すんだって、だから隠れるのはバツ」


「乗り物は無いか? これだけ広い建物なら移動用の……」

「自動運転の送迎バスか電動自転車」


「目立つな。見つかりでもしたらおしまいだパワードスーツから逃げるのはきついか」

「見つからないようにしないと」


 車両は入れず徒歩で敷地内を横断していると、荷物の搬送か何かで襲撃前に敷地内にいたであろうどこかの会社の広告がプリントされた大型トラックが走る姿が見えた。


「ああ、ありがとう。お前の働いている場所はここから近いのか?」

「向こうの給水塔のついてる小さな建物。急ごう、……相手の目的は何だろう。自己増殖ナノマシン? 変異遺伝子? 障壁粒子? 亜空間潜……いやどれも秘匿情報……記憶保持処理で一般人が知りえる情報じゃない」


「お前はAIの研究をしていたんじゃないのか?」

「そうだよ、でもそれだけじゃないの」


 この場に違和感しかない車両は施設で一番大きな建物へと向かって走っていき建物の影に消えていく。

 消えていく瞬間、走っていたトラックの荷台の後ろからパワードスーツが飛び降りた。

 パワードスーツは両手を動かし足を動かし数歩歩いて起動テストをしたのちにベニユキたちの方を向くと背中に背負った箱から光る弾を無数に放つ。


「伏せろ!」


 飛んでいく光の弾を見て咄嗟にベニユキはルナを抱き寄せ地面へと飛ぶ。

 彼女の代わりに地面にぶつかったあと彼女を下にし覆いかぶさる。

 光る弾はベニユキたちを飛び越え周囲の建物に向かって飛んでいき、建物の中へと突き刺さると建物の中で爆発した。

赤く光りながら一部が倒壊していく建物。


 パワードスーツは燃え崩れる建物からあわてて逃げ出てくる人影を甲高いモーター音を響かせて扉や壁ごと薙ぎ払った。



 そこでベニユキは目を覚ます。


「……俺は……」

『おはようございます。皆さまホールへの集合をお願いします』


 夢の続きを思い出そうにもそこから先の記憶の返還は行われておらずベニユキは舌打ちを鳴らす。


「ちっ、どうなったんだ。あれはなんだ、ルナは……」


 ベニユキは着替え部屋を出てミカの声が響く廊下、テンメイと話すエレオノーラが気が付きやってきた。


「おはようエレオノーラ」

「おはようございますベニユキさん」


「はぁ……今日も頑張ろうか」

「そうですね、頑張りましょう……」


「どうした?」

「いえ、なんだか今日のベニユキさん怒ってます?」


「いや、そんなことはない」

「でも、なんかむすっとしてます……」


「……ああ、戻された記憶が中途半端だったからかもな」


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