追跡者 2
移動してきた先は車両が渋滞したまま放棄された大通り。
水路のそばは車両が少なくオートマトンやベニユキたちは道の端に寄って進む。
「こんな道、来るときは通らなかったぞ?」
「でもほらオートマトンはどこかに向かってますし、間違ってはいないんじゃないですか?」
「昨日みたいに、また出入り口が移動しているのかも? ならエレベーターの前にでも来てくれればよかったのに」
「移動? 迎え?」
ドポンと音を立てて近くの水路の水に何かが波打つ。
「来るときも聞いた音だな、何かが水に落ちる音? どこか崩れてるのかな?」
「天井が落ちてきたり、突然壁が倒れてこなければいいんだけどな」
不意な襲撃を受けないよう周囲を警戒しながら歩いていると、パチャと水路からあふれた水を誰かが踏んだ。
その瞬間水路から泥水を纏った巨大な魚が飛び出てくる。
大きさは人の倍ほどくらいで咄嗟の反応で銃を向けることができないほど重く勢いのある体当たりを受けた一人が衝撃で大きくよろめきしりもちをつく。
どこかぬめりのある水を纏って飛び出てきた魚に皆が反応するときには、魚は体当たりした者の服に口の先を伸ばして伸ばした吻で噛みつき水中へと引きずり込もうとしていた。
「くそ、水の中から! 油断した!」
銃撃を受け衝撃で噛みついた者を開放して魚は水中へと消えていく。
エレオノーラや何人かが手を貸し安全な場所まで引っ張りアデ、ブラットフォードやテオが追撃で暗い水の中に銃弾を撃ち込んでいた。
銃撃の音とマズルフラッシュの光の点滅が数秒間続いた後、銃撃をやめ弾倉を取り換えライトで水中を照らすブラットフォードにベニユキは尋ねる。
「倒したか?」
「逃げられたよ、こう暗くちゃ水なんか透明度があっても見えない。また襲われないよう水面には近寄らない方がいいな」
「どれもこれも白っちくて気持ちの悪いのしかいないな」
「茶色くてらてらしたもの居たな」
「あれも気持ちが悪い」
「同感だ、しかも大きと来た。自分の部屋でもたら絶望だ」
魚に噛まれた者は腰を押さえながらも自分で立ち上がった。
逃げた巨大魚が戻ってくることも考え皆が水中から離れていると、ベニユキたちの後方で光が照らされる。
「さっきの光だ」
謎の光を見ていると光の方から激しい点滅と連続した軽い音が聞こえ、ベニユキの近くの車両が火花を散らし、周囲の建物の壁に小さな穴が開き、水面が小さく飛沫を上げた。
止まっていたミニ車両のガラスが細かく砕けて泥の溜まった地面の飛び散る。
「なに!?」
「銃撃だ、隠れろ!?」
飛んでくる弾丸は見えず何人かが悲痛な声を上げて被弾したことを知りながら、なるべくエンジンなどが詰まっていそうな車両の影に身を隠す。
「車を運転してきた次は銃を撃ってきたのか!?」
「そんな馬鹿な、銃が扱えるだなんて」
話している間も飛んできた弾丸で車両のガラスが割れて誰かの頭に降り注ぎ、車両に穴の開く音が響く。
銃撃は鳴りやまないまま遠くの光は蛍が飛ぶようにフワフワと上下左右に揺れながらベニユキたちの方へと近寄って来る。
追ってきている光の数は増えており二十を超えていた。
「待って私たちは敵じゃない!」
隠れながらエレオノーラが訴え叫ぶが銃撃は鳴りやまず、そうしている間もオートマトンは一人で街の奥へと進んでいきベニユキたちからどんどん離れていく。
様子をうかがうベニユキの隣でブラットフォードが銃を構えて物陰から飛び出す準備をしていた。
「どうするこっちへ向かってきているぞ、向こうは撃ってきた戦うか? オートマトンに置いて行かれても帰り道は白い銃を向ければわかるし、私は死にたくないぞ」
「追ってくるのがなんだかわからないけど、相手は銃だ戦えばこっちにも犠牲者が出る」
「なら逃げるのか? 判断を早くしないと、向こうはこっちへと向かってきてる」
「ああ、逃げる。身を低くすれば銃弾は当たらないし逃げきれそうだ。みんな相手をするな、さっさと帰ろう。道の真ん中にある車両を盾にしながら逃げるぞ!」
背後から響く銃声に驚きながら何者かたちは逃げるベニユキたちを追ってきている。
「機械に置いて行かれた、見失ったな」
「白い銃で位置はわかるけど、まだ近くにいるはずなんだけど追いつけるか?」
追手の攻撃から身を隠しながら素早く車両の影を走っていく。
皆の無事を確かめるためベニユキが周囲を見渡せば、足に被弾したものに手を貸しエレオノーラがキュリルとともに歩きブラットフォードとマルティンが追ってくるものを物陰越しにうかがっている。
「声が聞こえるな?」
「そりゃ、ぼやきたくもなるだろ。撃たれてるんだぞ」
「いや違くて、追手の声が……」
一人の追手が車両の上を飛んで渡って迫ってきていた。
慌てて銃を撃つと追手の体で火花を散らし銃弾が弾ける。
「装甲!」
「強化外骨格なのか!?」
顔もヘルメットで隠れており見ることができないが明らかに怪物たちとは姿勢が違い、しっかりとした人の骨格をしていた。
相手は銃ではなく刀身が赤く光る剣を持っておりブラットフォードに向かってそれを振った。
「剣ッ!?」
銃撃音が激しかったこともあり、振るわれた剣はほとんど音もなくブラットフォードに振り下ろされる。
彼女の腕は煙を払うかのように動く剣に斬られ、赤い刀身が触れた瞬間一瞬白い煙を上げて手首から先が宙を舞う。
「あつぅ……」
襲撃を感じ取りいち早く車両の陰に隠れ気配を消していたキュリルが飛び掛かり襲撃者の背後を取りバットを振るうと鈍い音を立てて襲撃者が車両の壁の向こうへと飛んでいく。
周囲の安全を確認しウーノンが手榴弾を投げ後方で爆発させると相手の銃撃が一時的に止まり、その間に皆で走って距離を取る。
「大丈夫?」
「登って追ってくるなんて大胆不敵な」
「血は?」
「焼き切られたおかげか傷口はそのまま塞がった、熱を持ってズキズキ痛むが……動けはする」
「首が吹き飛ばなかっただけ」
「ああ、ましだ。戻れれば助かるしな……」
乗り捨てられた車両を盾にしてきたが次第に車両の数が減ってくる。
背後から追いかけてくる音が聞こえるため逃げ続けなければならないが隠れる場所が開けた道路の先にオートマトンの姿を見つけた。
「オートマトンだ、止まってる。箱舟の入口だ!」
「急げ!」




