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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
2章 --時計針止まるアークエンジェル--
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追跡者 1

 エレベーターの前にやってくると死角の多い発券場のような場所で箱をおろし、階段の細い通路をどうやってわたり会談で誰が下側に回って箱を持ち上げるかを相談する。


「お疲れエレオノーラ」

「私はまだ持てますよ」


「ここからは階段でこの先の道幅も狭い、力ある俺らで少人数で持ち上げる。代わりに敵が出たら戦ってくれよ」

「はい、やってみます」


「さて、ここから誰がこの箱を持とうか?」


 先頭を進んでいたマルティン、ベニユキ、ウーノン、テオが箱を持つ。

 持つメンバーが決まり箱を持ち上げたところで持ち上げるベニユキにブラットフォードが話しかけた。


「力持ちで言うとこうなるのか」

「戦力がガクッと落ちるけど、駆け抜けていこう。戦闘は任せるブラットフォード」


「ううん、自身はないが死にたくはないし頑張るよ。上の階にはグリフィンたちを襲った何かがいるんだろ?」

「あれは降りてきてハチの巣になったあれじゃないのか?」


「そういや、この先にいるのか」

「あれ、倒したあいつで細い道を塞いでいないかい?」


「よけていくしかないだろう、落下止めの壁があると思えば」

「壁が道を塞いでるんだと思うんだ」


 周囲を警戒し勇み足でエレベーターのレールへと向かう。

 銃撃を受けて死んだ謎の生き物の死骸には瓦礫や建物の中に隠れていた大きな昆虫が集まってきていて銃弾の開けた穴から流れ出た体液を啜っていた。


 銃を何発か撃つと地面を滑るようにスッと物陰へと消えていく。

 落下止めに鎖を用意することもなく柔らかい地面にも慣れた様子のキュリルが先に渡っていき白い死骸をバットで殴りつけて細かく砕き振り返って血まみれの手を振る。


「酷いね飛び散った肉でぐちゃぐちゃじゃないか」

「足元は最初からぐちゃぐちゃだけどな」


「また、においがきつくなったな」

「アンモニア臭だね、ただでさえ華がおかしくなってるってのに」


 上の階でアンバーの死骸を見ることになるかもしれないと強張るガーネットに付き添うエレオノーラ。

 箱を持ってレールへと降りようとするベニユキたち。

 そこでキュリルが上に上る暗闇の先をライトで照らし叫ぶ。


「何か来るぞ!」


 皆が身構えていると上の暗闇からレールを伝って箱舟のオートマトンが降りてきた。

 通信機能はないようでオートマトンは何も言わず足をたたんでベニユキたちの前で停止する。


「迎えに、きた?」

「どういうことでしょう?」


「俺らがどこかで転んで壊されそうだったからとか?」

「それなら初めから取りに行かせたりしないだろ、襲われるのは俺らは嫌でも向こうの望んでいることだし」


「罠ではないだろうけど、いいのかこれに乗せても?」

「楽できるなら何でもいいよ。固定を手伝う、そっちに回って」


 顔を見合わせるものの持って進むにも箱は重いため、すぐに箱をオートマトンに乗せて固定する。

 固定を確認するとオートマトンは立ち上がり来た道を戻りだした。


 オートマトンは足場がぬかるんでいても関係なく会談ではなく坂を上っていき、ベニユキたちは追いかけるように階段を上がりだす。


「こいつこんなに早かったか?」

「以前の時は全力を出していないのか」


「でも早いね、足が滑りやすいから気を付けなければならないぶん追いつけない」

「俺らと一緒に帰る気がないのか?」


 ぐんぐん階段を登っていくオートンマトンについて行くのがやっとなベニユキたち。

 武器を構えながらでは追いつけずエレオノーラたちも息を切らせて追いかけていく、

 一階分上がったところで息をつくエレオノーラだったがオートマトンはなおも上に上がっていきブラットフォードに背中を叩かれる。


「疲れたのか、置いて行かれるぞ」

「あ、もう一回上の階だったんでしたね。ひぃ」


 ぬかるみ滑る地面をずっと歩いていることもありだんだんと慣れたのか、進むのは遅いが誰も転ぶことはなくエレベーターの階段を登りきる。

 その間もオートマトンは止まることなくエレベーター乗り場から離れ道路を歩き出す。


「本当に足が速いな、地面との設置面積なんてほとんどなさそうなのに。自転車ぐらいの速度出てないか」

「急いでいるのかな、どうしたんだろう」


 下の階のように怪物が待ち伏せていることもなく順調な岐路につくベニユキたち。

 ふと向かう街並みの奥からちらりとライトの光が見えた。


「誰かいる」

「グリフィンたちか?」


 ライトの光は複数あり七つ以上。

 それぞれが独立した動きをしていて右へひらりへと揺れていた。


「でもみんなたぶんですけど死んだんですよね?」

「でも明かりがあるってことは人が居るってことだし」


「下の階にいた怪物か?」

「確かに何かを持つことはできるだろうけどだからってライトをもつかい? 目もないのに、明かりなんて必要ないだろう」


 揺れる光を見ていたベニユキたちだったが、オートマトンは進行方向を変え光から逃げるように移動する。


「どうしたんだ?」

「どこに向かうの?」


 帰り道を覚えていて違う道を進み始めたことに首をかしげるキュリルとテオ。


「故障か? 湿気多いから」

「違うんじゃないかな」


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